007.じひょうをたたきつけますよ
まえがき
長々と書いて、「会社やめることにした。辞表出した」の1行で終わる話。
読み飛ばし推奨。妥協の結晶と健康中毒の人生を全裸にされる恥ずかしさゆえに。
「辞表」は誤用とわかって使ってます。「退職願」は叩きつけないよね。語感的に。
では本編
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週が明け、会社に向かう。
やっぱ、覚悟を決めないといけない時期だな。時は来た!
「おはようさーん」
20年も同じ会社にいれば、チームリーダーにもなるって話だ。
出入りは激しいがだいたい15人前後の小さなIT企業、30代で起業した社長が今まだ50代の若い会社だから上の役職が動かないので下から年功序列で偉くなるわけでもない。
自分が担当してるところ、『遊撃部隊』と言えば聞こえはいいが要は大型案件を抱えないで、忙しい部署へ随時援軍を送るお手伝いさんだ。
小さいモジュールの開発とかデバッグの頭数とか、そういうのを新人教育を兼ねて拾っていく『なんでも屋さん』の雑用係といったところ。
「おはようございます!」
元気良く返事を返してくれるのは今年4月入社の藤田羽織(ふじたはおり)。
ショートボブで大きな目がかわいい小動物だ。
彼女の同期、今年は5人入社したけどすでに2人辞めている。
企業向けの業務アプリケーション開発に夢もロマンも無いわな。
始業のアラームが鳴ったので藤田と大西・長尾の新人3人を集める。
10分ほどで進捗の確認と今週の計画のすり合わせを行い、唐突に爆弾発言を。
「あ、そうそう。俺、会社やめるってよ」
まるで他人事のようにさらっと切り出すのがポイントだ。
自分の口の前に指を立て、騒がないようにジェスチャーを送る。
まあ驚きだろう。
週末金曜の時点でそんな素振り全く無かったし、もちろん俺自身そんな気が全く無かったからな。
『退職届』なんて書く文言は定型、「一身上の都合」だけ。
それ以上のほんとの理由とかはむしろ書かないほうがいい。書く必要はない。
ここでテクニック!
異世界譲りの契約インクとペンを使っておく。これで嫌なゴネられ方される心配が無くなる! by鑑定さん
…誰も真似できねえよ。
本来なら『退職願』で意志を伝え上の意志を待つものだが、事情が事情だからなあ。
知ってるけど知らないふりして『届』で出して、受け取ったらあとは『契約インク』の力を信じるだけ。
経理の八代さんに有給休暇の申請用紙も貰って、これも今日の午後半休から今週全部。
こういう有給の取り方すること初めてだし、事故病欠に近い休み方にドキドキする。
俺の戦いはこれからだ!
社長室兼応接室に向かう。
いつもフランクで声をかけやすい社長だけど、社長室というだけで緊張する。
「失礼します」
山岸社長と岡本専務、「ヤマギシステム」の創立メンバーだ。
「有給の申請をさせていただきたくて参りました」
有給の申請用紙を渡す。
「えらく急だな」
午後半休からの申請を見て山岸社長が眉根を寄せる。
「今、急ぎの案件は抱えていませんし新人3人への指示は済ませてます。
友人が起業することになりまして以前から手伝いに行ってたんですが、出資者といいますか顧客と初案件が急に決まりまして」
有給を申請するときは、自分がいなくても現場が回るように配慮しておくこと、そのことを伝えるのが肝心だ。
口から出まかせかましながら、スッと『退職届』を出す。
よし受け取った。提出書類、契約インクで書いた内容を理解して受理した瞬間に何かの魔法的なものが社長の体を一瞬包んだように見えた。
なんだかわからないけど、これで勝ったな。
「新人はどうするんだ」
岡本専務から横槍が入る。
「3人とも十分に戦力になる力は持ってますよ。長尾は春日課長が欲しがってましたし、2人もどちらに振っていただいても動けるように教えてます。
私自身は誰にでもできる仕事しかしてませんから」
専務に言われ続けている、給料およびボーナスの査定を下げられ続けている言い分をちくりと刺すように言い返す。
「だが「引継ぎで何か問題があればメールでお願いします。直電だと出られないことありますので」
課長の言葉に自分の言葉を重ねて潰す。
結局の結論、有給期間は連絡が取れるようにしておくということで給料締日までの有給連続取得を認められ、余った分は最終月の給料に日割り計算で上乗せしてもらうことに。
この結果を新人3人に短く伝え、春日課長・山崎課長に退職することと新人争奪戦の開幕を告げる。
どちらが誰を取るか、そこまで自分が関与する気は無い。
なぜか自分に懐いている藤田女氏には自分のプライベートアドレスも教えておく。
大西・長尾のふたりはこっちの迷惑考えず上からの命令そのままこっちに流されそうだから教えない。
大西はバカ(体育会系)で上から下に直通だし長尾は優秀だけど見下し属性ですでに俺より春日課長のほうを選んでる節があるし。
こいつらに仕事用じゃないプライベートアドレスを教えると、プライベートを踏み荒らされるのは容易に想像できる。
得意先、自分の名前で懇意にしてくれていた数社の担当さんたちに退職することを電話とメールで報告して、引継ぎはひととおり終了かな。
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