009.執事と言えばこの人
「クソが!!!」
灯りはテーブルの真ん中に置かれたろうそく1本だけ。
薄暗くかび臭い小さな部屋に怒号と机を殴りつける音が響く。
肩に巻いた包帯を女性に取り替えさせているのは筋肉のカタマリ、肩幅は女性の倍ぐらいはありそう。上腕の筋肉も女性のふとももと変わらない太さだ。
「しかし困りましたね」
部屋にいるもうひとりの男性は、手首に巻いた包帯から滲み出している血の染みを神経質そうな目で睨みつけている。
「ポーションが効かないとは思ってもみませんでした。あれは呪いの恩寵品だったのでしょうか。」
「C級だぞ、金貨200枚タダで捨てさせられたんだ。この貸しはきっちり返してもらう。
あとてめえもだ。先にポーション使わせて効くかどうか見てただろ!
半分出せよ!!」
「それは横暴ですよ。ですが失った腕でも生えてくると言われる伝説級のA級ポーションでも効くかどうか。
いったい何の呪いなんだか。呪い解除のために教会に頭を下げに行くわけにもいきませんし。
道を外した我々に一番効くのは『呪い』かもしれませんね」
痩せた男性は貴族的な整った顔を邪悪に歪めて自嘲的に笑う。
「何笑ってんだよ、このままで終わらせられるわけが無いだろ。あのデブ探すぞ」
筋肉ダルマの声に怒気が混じる。
付き従う女性の膝が震え、今にも崩れ落ちそうだけど体を拭く手は止めない。
「そうそう、北教会に聖騎士隊の査察が入るようですよ」
「金以外に付き合う理由もないクソ貴族なんてどうでもいいだろうが!」
「それもそうですね。
街の衛兵程度なら握り潰せますが聖騎士隊は金では引き下がりません。
敵にまわすのは愚かすぎます。
あのネスオ坊っちゃんが打ち首になろうが男爵家がひとつ取り潰しになろうが、私たちには関係ありません、ですか。
いろいろ融通してもらっていい関係だったんですけどねえ。
頭押さえられて身動き取れなくなってきても、我々は別の街に行けばいいだけですし。」
『解体ナイフ』の効果のひとつ『回復阻害』は、あくまでも治癒魔法やポーションによる魔法的な回復効果を邪魔するだけで、自然治癒のほうは普通に行われる。
怪我や病気はポーションで簡単に治ってしまうので、当然この世界のポーションに頼らない治療・医術は遅れている。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
もしかして:ボッタクリ?
なんてことに気が付いてから、なんとなく居心地が悪くなっている、わたくし大和田タモツです。
先ほどからスーツできめたロマンスグレーの紳士が難しい顔で皿をルーペというか
下手に話しかけて商品説明を求められても困るので半分放置している。
お買い上げいただけそうな雰囲気なのでキャラメル1個プレゼント。
「どうぞ、包み紙をはがして食べてください」
声をかけたことでなにかが決壊した。
「この食器類5種すべてをある程度の量で取引することはできるだろうか」
セバスチャンさん(仮)キター
「各50枚程度ならかき集めて用意できると思いますがそれ以上ですとお時間いただくことになるかもしれません」
100円ショップの大量注文ってやったことないけどどれぐらい待ちになるのだろう。
ネット通販で注文すれば倉庫在庫から直通で3日ぐらいで届くのかな。よくわからね。
「ではひとまず50セットを10日後ぐらいで用意していただけないだろうか」
お皿は、大きいほう高いほうから銀貨8、6、6、5、4枚。
100円ショップで買ってるから全部1枚110円なんだけどね。
刺身醤油用の小皿も100円なのがなんとなく釈然としないのは別の話。
5枚で銀貨29枚、×50で1,450。少しおまけして1,300枚でいいかな。交渉次第で1,000枚、金貨10枚でも十分だろうけど最初からそこまで落とすのは。
なんて計算していると「金貨50枚」の提示があった。さすがに慌てる。
「さすがに多すぎます、15枚で十分です」と伝えるが、手を煩わせるからと特急料金上乗せしてくれて結局20枚で落ち着いた。
「クアルディア伯爵家への食器の納入:金貨20枚、受け取りサイン後有効」と契約、決済の小切手を切る。切られる?
ああ、こんな感じで縛られるのか。
やらなきゃいけない圧迫感は居心地悪いな。
心のどこかに針が刺さって、早くどうにかしないといけないと思う気持ち。
無視しようとすれば気にならなくなるかな。他のことに集中したら忘れてしまう。
今時点ではその程度。
退職交渉のときに社長が静かだったことになんとなく納得。
「この証書が通行許可証になります。
屋敷の者に話は通しておきますので納入の際にお持ちください」
思いがけず大口取引が成立してしまった。
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日が暮れる気配が濃くなってきたのでそろそろおひらき。
大口取引の他はぼちぼち。初日にしては想定以上にいい数売れたかな。
立ち食いした肉串やオープンサンドの値段が思ってる通りなら儲けは想定の10倍以上の悪徳商家ボッタクリ商店も真っ青のぼったくり販売だが。
100均着火スティック売りのおっさん、1本1万円。
屋台めしもなかなかおいしいし、一度はちゃんとした店に行ってみようかと。
中堅の上のほうのランクを狙う。ゴローさんが喜んで飛び込むぐらいのところ。
お貴族様向けの店にうっかり入って、金貨1枚とか持っていかれるのは嫌ですだ。
払えるけどね。
素材の質と料理の腕、快適な時間や空間に払う金はあっても、店の格やブランド価値に払う金はあんまりない。
いい感じの店構えにピンと来ておじゃますることにする。君に決めた!
この直感はあんまり当たりではなかった。いや、及第点とかつける自分のほうが失礼か。
厚切りポークステーキ(なんの肉かは知らない)は焼きすぎてパサパサで固く、ハッカっぽいすっきり味の微妙なソースが合ってない。
ワイン1本入れたけど、すっぱ渋くてこれもおいしくない。いや、このワインに合わせるメニューは何かあると思う、ハッカ味と合ってないだけ。
メインがハズレなだけでもなく、スープもサラダもワンランク下。
屋台メシはほとんどハズレ無いのになあ。
味覚に値段のバイアスかかってるから、「この値段でこの味ならお値打ち十分」とか、「この値段ならもっとおいしくてもいい」ってなってるのかな。
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