Part2
目を覚ますと、白い天井が目に入る。
「起きたか」
不意に横から声がしたので、驚いた千景は体を起こしてその声のする方向へと視線を向ける。
目の前にいたのは千景の幼馴染である楓によく似た別人だった。
「ええと………………」
「礼はいらん。それよりも私の妹、楓のことを知りたいだろう?」
唐突に、それはもう唐突に気になる話題が出てきた。
なぜ行方不明になって数日後に一家総出で不自然な引っ越しがあったのか、今は無事なのか、そもそもなぜ行方不明になったのか、色々な思考が一瞬の間に錯綜して、上手く言葉が紡げなかった。
「話さなくていい、説明が長くなるからな」
女は見透かしたようなことを言いつつ話を続ける。
「まず、お前が私のことを楓と呼んだ原因でもあるが、私は鶴野楓の姉、鶴野真紀だ。そして私たちは家族揃って人間ではない」
真紀の言葉に、千景は眉をしかめる。そんなわけのわからないことを言われて素直に受け入れろという方が無理な話だ。
「まあそう信じられないだろうな。だがお前はあの鰐男を見ただろう?あれはあやかしと言ってな。普段は人の姿をしているが、あのように人間ではない」
「真紀、さんも。楓も人間じゃないっていうんですか」
「ああ、奴のように特殊な力がある」
「力?」
「眞浜千景、この近くに住む高校一年生。この間のテストの点数は現代文72点、古典63点あと総合英語が42点だったか欠点を二つも取っているな。ちなみに昨日の昼食はハムとチーズのサンドイッチが二個にアイスコーヒーと、食後にシュークリームを食べていたな」
「は?」
やけに早口で知りえないはずの正確な情報の羅列を伝えられた千景は、気味の悪さを感じながらも困惑に素っ頓狂な声を上げる。
「間違っているか?」
「いや、合ってる……………………けど」
「私の能力は見た相手の過去を第三者視点で覗き見る能力だ。やけに話を進めるのが早いのもそういうことだ。お前の全て、産まれたところから見せてもらったからな」
過去の情報を並べられたところで超能力だなどというよりかはストーカーだと言われる方が信用できる話だったが、あの鰐男の前例があった以上話を聞かないというわけにもいかない。
「それと同じくして楓も能力を持っていてな。それがなかなか厄介なもので、見た相手の未来を垣間見るという能力だったんだ」
「未来を……………………」
「そうだ。その能力は秘密にしていたんだが、身内の馬鹿が話しやがってな。それ以来楓は世界中のあやかしに狙われる様になった」
「世界中に?」
「ああ。あやかしは世界中にいる。人に擬態しているだけでな」
あの鰐男のようなものが世界中にいれば、もっと話題になるはずだ。と思ったが、そんな疑問が生じることは真紀にとって想定済みのようだった。
「あやかしは人に擬態していないと現状暮らせない。今まではかつての盟約というので人とあやかしは互いに不干渉ということであやかし側が譲歩してきたが、最近になってあやかしの中に人類をある程度減らしてあやかしだけの理想郷をつくるという選別派という思想を持った奴らが現れ始めたんだ」
未来を見る能力、それは知れば誰でも欲しがる能力だろう。
つまり……………………
「察しの通り、楓はそいつらに攫われた。私が匿っていたのにもかかわらずな。その間楓はしきりにお前に会いたがっていたよ」
「そう、ですか」
「そして、だ。私がこんな話をしたのには理由がある」
「理由?」
「私に手を貸してほしい」
真紀はそういうと自身の鞄から何かを取り出す。
「僕に役立てることが?」
「ああ、お前にはあやかしの存在を探知できる能力がある」
「探知?」
「ああ、お前は能力を意図して使用していないのにもかかわらず、事実として鰐男の存在を事前に感知していた」
たしかにそうだった。と、千景はそれに納得する。
だがそうなれば、今までに見た多数の幻覚の数々は、全てあやかしだったのだろうか。
「意識すればもっと鮮明になる。そして私は妹の行方を追っている。お前の力は____」
目にも留まらぬ速度で真紀が迫ってくる。
真紀は先ほど鞄から取り出したものを千景の首筋にあてがった。
「必ず、役に立つ」
それは刃渡り30㎝ほどの短刀だった。
あやかしこよし 爆裂HANABI @Isaka____
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