第11話 ルドベキアいわく
カイ修道院の外に出ると、まぶしい朝日が僕らを包み込む。今日は天気がいい。冒険日和だ。
目線を前に戻すと、ちょうどこちらに向かってきた師団長にフリージアが声をかけるところだった。
「おじさんおじさん!」
「ん?おお、嬢ちゃんか。どうした?」
「私たちも王都に連れて行って!」
「......は?」
フリージアの唐突な提案に、団長は明らかに困惑している。
「もう! フリージア! それじゃ団長さんに伝わらないでしょう?」
ツバキがすぐに助け舟をだす。
「むぅ......団長なんだから分かってくれるもん」
拗ねたフリージアが上目遣いで団長を見る
「ぐ......すまんが俺は座学はからきしでなぁ」
団長が苦虫をつぶしたような顔をする。
「そうですよ? この人ほんとに戦闘以外ではてんで役に立たないんですから」
後ろからひょこっと女性聖騎士が現れた。
あ、この人は確か.......
「あ、先日は治療していただきありがとうございました。すみませんなかなかお礼にもうかがえず......」
流石というべきか、こういったことは僕がいうより先にツバキが切り出す。そう、彼女は負傷したツバキを手早く手当てしてくれた団員である。
「いいのよ、それが私の仕事なんだから。あなたたちこそもう大丈夫なの? その......あんなことがあったばかりだし、もう少し休んでいても......」
彼女は気を遣ってこちらを見る。
「もう大丈夫です。いつまでも下を向いてられませんから」
「そう......強いのね、あなた達は」
そう言って彼女は微笑む。凛とした佇まい、艶やかな黒色の短髪をした彼女の笑顔はこれまたすごい破壊力である。
「そういえば自己紹介もちゃんとできてなかったわね。私は第4師団副官のアキレアよ。ほら団長も」
「おっとそうだった。あの日はろくに話せなかったからな。第4師団団長ルドベキアだ。団長って柄でもねえ、気軽にルドさんとでも呼んでくれ」
白髪ながらも、たくましい体つきをした団長、いやルドさんは気さくそうな雰囲気である。
「わかったよアキレアさん、ルドさん。僕はユリ、んでこっちが」
「フリージア!15才だよ」
「ツバキです。同じく15才で。元はこのカイの街で育ちました」
「スイセンです。僕も15才で、ツバキと同じ時期にシナノに移動しました」
「あら、二人はカイ出身なのね、同郷の子たちだったとは知らなかったわ」
「アキレアさんもカイ出身なの?」
「ええ、そうよ。それと、長いからアキでいいわ」
ツバキはアキさんに興味津々のようだ。
「それにしてもメリア様の息子がこんな立派に育っていたとはなぁ」
ルドさんが僕を見て感慨深いそぶりを見せる。
「そのことだけど、実は僕らが母さんの身分を知ったのはあの日......大厄災当日だったんだ。だから何故ルドさんが母さんを知ってるのかを教えてほしいんだ」
「な......それまで知らなかったのか? そうか......」
ルドさんは少し考えこむと、
「ここではなんだ。修道院の中で話そう」
「わかった」
僕らはルドさん、アキさんと共にまた修道院に戻る。
ドアを開けると、カイ修道院のシスターさんがちょうど掃き掃除をしていた。
「あら、みんな揃って出て行ったと思ったらもう戻ってきたの?」
「ちょっと外じゃできない秘密の話があってね」
フリージアが自慢げに答える。
「シスター、少し奥の部屋借りてもいい?」
アキさんが尋ねる。カイ出身ということはシスターとも面識があったようだ。
「ええ、もちろん。他の子供たちが入らないようにしておくわね」
シスターは鍵を渡すと、子供たちを集めて読み聞かせを始めた。
「じゃあ、いきましょうか」
アキさんに連れられ、僕らは孤児院の奥の部屋に入る。そこには沢山の武器と軍務書類が置いてあった。
「ここって....」
「あぁ、私も孤児院出身なの。昔からシスターによくしてもらってて、今でもこの部屋を駐在時の作戦会議場として借りてるのよ」
なるほど。道理でこの部屋だけ厳重な錠があったわけか。
「さて、どこから話したものか.......」
ルドさんは少し考えこんだ。
「どこからでも。僕たちは母さんのこと、何も知らなかったと思うだ」
「そうか......相分かった。」
そういうとルドさんは自分の過去について話し始めた。
要約すると、ルドさんは亡アルストロ皇国の副騎士団長だったらしい。
幼少期の母さんに刀術指導をするお目付け役だったそうだ。
大厄災当日、ルドさんは皇帝陛下から母さんの亡命を仰せつかった。
しかし逃亡途中で大量の魔族を相手取る局面に遭遇、自分を殿にして母さんを逃がした。
皇国滅亡後に母さんを追いかけ、当時母さんが亡命したシナノへ。
合流してからしばらくシナノで過ごした後に、被害を免れた連合国(今の聖王国)王都に向かおうとしたところ、母はシナノに残り、修道女になると言い出した。
ルドさんは自分も母さんとシナノに残ると主張したが、騎士ならば国の大義のため戦うべきと母さんに追い出され、現在の聖王国へ志願したそうだ。
その後その腕前で師団長として推薦され、アルストロ皇国に関係のあるメンバーをスカウトしながら第4師団を作り上げたらしい。
聖王から有事の際は母さんを最優先に動く独断行動権を賜っており、他の師団とは違う遊撃隊として活躍していた。
しかし、第二次大厄災の当日(僕らが体験したあの日)朝、伝書鳩が届いた。
内容は『他の誰にも知らせず、手練れの団員だけで至急シナノに向かい子供たちを一緒に守ってほしい メリア』とだけあり、当時動ける中で最速で移動可能な精鋭4人の卯月団員を連れて王都から駆けつけてくれたらしい。
母さんは自分から連絡するまでルドさんがシナノの修道院に来ることを禁じていたようだ。そのためあの日初めて
一通り話し終えたルドさんは大きく息を吐き出した。
「これが俺の知る限りのメリア様だ。何故修道院に来ることを禁じられたのか、なぜ今回の大厄災のタイミングを把握していたのかは正直俺にもさっぱり分からん」
「そっか......なるほどね。ありがとうルドさん」
「いいや礼を言うのは俺の方だ。坊主たちが生きていて本当に良かった。そして本当に申し訳ない。ユリ、君の母親を最期まで助けることができなかった......俺は聖騎士失格だ」
子供相手に深々と頭を下げるルドさんに、今にも溢れ出しそうな涙をぐっと堪える。
「頭を上げてルドさん。あの時卯月のみんなが来てくれたから僕らは助かった。それに母さんは自分であの道を選んだんだと思う。むしろ気付けなかったのは僕らの方だ......」
重い空気の中、フリージアが明るく切り出す。
「じゃあ今度は私達のことと、私達が知ってるメリアさんを教えてあげるね!」
そう言うとフリージアは自分たちがどんな稽古をしてもらって、どんな風に育ってきたか、そして母さんのことを事細かに説明した。
「そうか......メリア様は俺がいなくても立派に成長なされていたんだなぁ」
涙ながらルドさんは話を聞いてくれた。
「それにその......アセビさんといったか。彼女にも感謝しないとな。君らの話ではあの重力場は
「お願いします。僕らがアセビさんに聞いても全部はぐらかされちゃって、実はアセビさんの事もあまり知らないんです」
そういうとスイセンは頭を下げる
「ちょ、ちょっと待って。今の話を聞く限り、あなた達4人とも剣能が使えるの?」
アキさんが動揺しながら問いかける。
「まあそうなりますね。僕は血統由来の刀がずっと剣現していたけど、あの日以降はもう剣現すらしてくれないですが」
僕は、かつて愛刀があった腰を触りながら、乾いた笑いを浮かべた
「今はまだ心に迷いがあるのかもしれないな。剣能は意思に応えるものだ。逆に長時間剣現できていたのがありえない程な......ユリ、君の血統剣......いや血統刀は皇国でも有数の結界が張れるものだ。消耗は著しく激しいはずだが、鍛えれば出し入れ可能になるはずだ。あきらめるなよ」
そうルドさんは笑って見せた。
「そうだ、剣能が使えないなら、俺の刀を使うといい。予備だが丸腰よりは役に立つだろう」
そういうとルドさんは部屋にあった予備の武器をがさがさと漁ると、きれいな銀色のエンブレムが装飾された刀を僕に差し出す。
「ちょっ、団長なんでそれがこんなとこ」
むぐっ
アキさんが言い終わらないうちにルドさんがアキさんの口をふさぐ。
「いいんだって。その代わり必ず返しに来いよユリ」
「は、はあ。もちろん借りるからには返しますよ」
怪訝そうな顔をする僕を見てルドさんは苦笑いする。
「ところで君たちの剣能を見せてもらえるかな?」
ルドさんは僕以外の3人に話しかける。そうか、まだ剣能を見せたのは僕だけだった。
3人は目を合わせて頷くと、次々に剣能を剣現させる
フリージアの『香雪剣』
ツバキの『熾烈剣』
スイセンの『夢星剣』
「だ、団長。この速度は流石に......」
「あぁ、これは認識を改める必要があるみたいだな......いいかい君たち、剣能使いの強さは主に3つで決まる。1つは剣能自体の効果。2つ目は剣技。3つ目はその操作だ。3つ目の操作の代表例として剣現速度があるが......正直に言うと君たちの速度は......すでに我々聖騎士に近い」
「「「え」」」
3人が同時に驚く
「でもメリアさんにはまだ遅いってよく叱られたよ?」
スイセンがルドさんに尋ねる。
「君たちは1級剣能使いを知っているかな?」
ルドさんが質問で返す
「うん、大陸で30人もいない上、師団長になれるくらい強いんだろ?」
「おお、よく知っているな、正解だ。しかしあえて言おう、メリア様は大陸でも5本の指に入る1級剣能使いだよ」
第4師団団長。こうして話していると忘れそうになるが、彼だってこの国でトップクラスの実力者である。その彼が母さんの実力をここまで高く評価するのか。
僕たちは言葉を失ったのであった。
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