59.司祭の正体
「ひっ……あ、悪魔!? ……うわぁぁぁぁぁっっ!」
一人の神父の叫び声がきっかけとなり、恐慌は連鎖して広がってゆく。
『……グファアアアァァァ……』
もはや異形の怪物となり果てたフォルマン司祭は、天井にも着きそうなほどの頭をぶるりと振り、不気味な笑んだ口の端から煙を吹き出す。
思考停止している場合ではない……戦う? 無理、逃げるしかない!
「逃げるぞ! おいアル、あんたも下がれ!」
「駄目です……あの方を助けないとっ!」
彼女の視線の先には先程駆け寄った神父が腰を抜かしている。
そして緩慢な動作で上から悪魔の右腕が覆いかぶさってゆく。
見過ごせなかったのか、果敢にもアルテリシアが飛び出すが、無謀にも等しい行為だ。
「《速力付加》、《防力付加》!」
俺は立て続けに支援魔法を繰り出すが、そんな物でどうにかなるとは思えない。
そして、黒いその手がその神父の頭部に触れようとしたその時、アルトリシアは、首の十字架を引きちぎり、詠唱と共に悪魔に投げ付けた。
「神よ、我が祈りを聞き届け、破邪の光をこの手に……《聖槍》!」
金色の飛槍と化した十字架が手の平を貫き、悪魔が悲鳴を上げる。その間に距離を詰めた彼女は神父に肩を貸してその場を脱した。
だが、依然として悪魔はそこで余裕のある笑みを浮かべたままだ。手は焼けただれていたが、大したダメージになっていないようだ。
(アルビス! 半分以上お前のせいだろ! どうにかなんないのか!?)
(親切に忠告してあげたのに何たる言い草! 私からは何もしてあげられませ~ん。ま、でも見た所、
(はぁ!? くそ、覚えてろよコンチクショー!)
悪魔の腕が大きく薙がれ、周りの壁に傷が穿たれる。
速度はさほどでは無いが、威力がヤバそうだ。とっくに散り散りに神父やシスターは逃げ去っている。俺達も、逃げ出すのが最善かも知れない。
どうやら、
これなら、一気に詰め寄られることは無いだろう。
……そう思っていたのだが、当てが外れた。
悪魔は地面に両手を叩きつけるようにして飛び上がり、その巨体を武器にしてこちらにぶつけて来る。
「うおおっ、ゴリラかよっ!?」
いや、実際にゴリラがそんな動きをするのかは知らないけど、ついそんな言葉を口から漏らしながら俺はその場から緊急避難する。
壁を半ば崩す形で突っ込んだ悪魔の背中が剥き出しになっていたので、俺はとっさに剣を振りかぶって斬りつけた。
だが、硬質なゴムのように弾力がある皮膚に、その攻撃は浅い傷を付けただけで終わる。シルヴァンなどとは段違いに防御力がある。
「それでは駄目! 神よ、敬虔なる使徒へ、邪を滅す加護を与えたまえ……! 《聖性付与》!」
「っこれで!?」
アルトリシアの神聖魔法による
瓦礫から脱出しようと藻掻く悪魔の背部に命中した剣が、根元まで深く突き刺さった。敵が苦鳴を漏らす中、抜いた傷口から黒血が噴き出す。
アルトリシアもどこから持ち出したのか、借りたのか銀色の鎚を光らせ、魔物の足に叩きつけ、深く食い込ませる。
『ガフェアァァァッ……小虫ドモガァッ!』
悪魔が後ろ手を振り回し、俺達は仰け反ってかわす。今度は確かなダメージを与えられたようだ。
その反動で拘束から抜け、悪魔がこちらに向き直った。その目付きは今までとは変わり、怒りに燃えている。
悪魔の胸が大きく膨らみ、危機感が頭をよぎる、これは……。
「下がれ、抗力付加!」
「あなた、その髪……もしかしてあの時の!?」
「今は気にしている場合じゃない!」
逃げ込んだのは執務室の側だ。退路を塞がれてしまった。所々に燃え移った火の熱でアルトリシアの首筋に汗が伝う。
『愚カナ……呼ビ起コサネバ、今シバラク命ハ有ッタモノヲ……ククク』
進退窮まった俺達は、身を縮めながら目の前の巨体を睨んだ。
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