49.意外な助っ人
「さあ、そろそろ出るよ。準備はいいか?」
「うん。行こう、ジロー君!」
「ああ……」
冒険者ギルドの建物から出る俺達の背中には、数日分の荷物が背負われていた。街から徒歩で半日程の所にその《銀狼丘陵》は存在する。
「出発しないの? ロージーさん」
「少し待ってな。一人助っ人が来るから」
事前に話を聞いていなかった俺達は驚くが、戦力が増えることは素直に喜ばしい。期待して姿を現わすのを待つことにする。
しばらくしてその男は、通りの向こうから姿を現わした。年季の入った外套に包まれた、細身の尖った刃を連想する体付き。それは――。
「……ガムリ!?」
「何で……こいつがここにいるのっ!?」
「それはこっちの台詞なんだがなぁ……どういうこったよ、ロージー」
彼の濁った細い針水晶のような目が蔑むようにこちらへ向き、俺達は身を固くする。
「俺ぁいい儲け話にあんたが連れてってくれるって言うから乗ったんだ。それがこんなガキ二人連れたぁ……魔物の餌にしか使えんぜ」
「てめッ! どういうことだよっ、ロージーさん!」
目の前の男と睨み合いながら、ロージーの真意を問いただすが、彼女は落ち着いた様子で進むよう促す。
「うるさいね、ガキ共。あたしの指示に従うと約束したはずだ……文句言わずに着いて来な。ガムリも、こんなコブ二つくらい着いてたってどってことないだろに。あたしの実力位わかってんだろ? その上でV等迷宮の魔物程度に怖気づく程度の玉無しなのかい、あんたは」
「チッ……まぁいい。役に立たねえなら捨てて行くだけだ」
「……ジロー君、行こう。ロージーさんにも考えがあるんだよ、きっと……」
先に進む二人に唖然とするが、俺達は黙って着いて行く。
率直に言ってこの男と組むなど、最悪の気分だったが今は時が時だ。
何より、リッテがこうして耐えている以上、俺もこの憎しみは黙って飲み込むしかないのだった。
目指す《銀狼丘陵》までは半日ほど歩かなければならず、その間俺達はずっと険悪な雰囲気を纏ったまま、口も利かずにいた。
喋っていたのは主にガムリだけだ。彼は道中ずっとロージーに絡んだり、俺達に悪態を吐いたりしていて、苛立ちは募るばかりだ。
「なあ、ロージー。金が入ったらたまには俺達に付き合えよ……同じギルドの誼なんだ。今回だってあんたが言うから無理に引き受けたんだぜ?」
「言っただろ……あたしにその気はない。今回呼んだのも、あの中ではお前が一番マシな腕をしているというだけだ。その手を肩から外せ」
「ちっ、連れねぇな……あぁん? 何睨んでんだよ糞ガキ」
「うるさいな……。そっちこそロージーから手を離しなよ、下品なんだよあんた……そんなだから相手にもされないのよ」
「カッ……大人には大人の付き合い方ってもんがあんだよ。ガキはガキ同士で仲良くお手々でも繋いでよろしくやってろ」
「ば、馬鹿にすんなッ!」
飛び掛りかねないリッテを俺が俺が襟首を掴んで止める。
ガムリはそれを見ておちょくるような笑いを見せる。悪いのはガムリだが、リッテも過剰に反応しすぎる……彼女の素直な性格から来るところだから、いかんともしがたいのだけど。
「ほら、リッテ……あんな奴のいう事をいちいち真に受けるなよ」
「……そんな落ち着いてないでよ! あたしだけ、何か馬鹿みたい……」
「良く聞こえなかったけど、何だって?」
「な・ん・で・も・な・いーっ!」
リッテは怒りの矛先を今度はこちらに向け、口を思いっきり横に広げてむくれた。
そして靴がめり込みそうな勢いで土を踏み、先へ進んで行く。ガムリのにやにや笑いがこちらに向き、俺もだんだん腹が立って足元の土を蹴り上げた。
《銀狼丘陵》が近づくにつれ、辺りに次第に魔物がうろつきだす。灌木の裏手から、一体のシルヴァンがこちらを覗いているのが見えた。
地名からもわかる通り、シルヴァンの外見は豊かな銀色の毛並みをした大き目の狼で、丸みを帯びた琥珀色の眼球はまるで月か何かを思わせる。
「シルヴァン、結構大きいね……。他に出るキャメルリザードって言うのはどんなのなんだっけ?」
「大きさはシルヴァンと変わらない、薄茶色の大蜥蜴さ。奴らは油液を吐いてくるから、滑らされないよう気を付けな。顎の力も強いから、油断すると腕の一本位簡単に持っていかれるよ。さて、あちらさん来るみたいだよ、丁度いい小手調べだ! 構えな!」
ロージーの言葉を待たずにガムリは白刃を抜き放ち、それと同時に三体のシルヴァンが茂みから飛び出した。
「アタシとガムリで一体ずつ。あんた達で一匹相手しな」
「……しゃあねえなぁ。小僧共、死にそうになっても助けねえからな」
「ち、ちょっと……いきなりなの!?」
リッテはごくりとつばを飲み込みながら、背中の白いブーメランを取り出し、的確に相手を狙って投げた。
だが、シルヴァンは軽快に跳びあがると身を躱し、その勢いのままこちらに飛びかかって来る。
俺は背筋を粟だたせながら剣を抜く。これはロージーから貰ったものだ。反対側には手から肘までを覆う位の楕円形の盾を付けている。
・鋼鉄の広刃【長剣】(中品質)……ATK+10
・オーバル・ガーダー【盾】【中品質】……DEF+10
ちなみにリッテも近接用に、一対の短剣を貰っていた。器用で素早い彼女には回避主体の戦闘方法の方があっていると判断されたのだろう。
・スチール・リッパ―【短剣】(中品質)……ATK+8、SPD+2
彼女は戻って来たブーメランを背中に背負うと、素早く短剣を引き抜いて構え、向かって来るシルヴァンの爪をギリギリで躱す。
その間に俺は、ロージーと、迷ったがガムリにも攻力、耐力付加の支援魔法を施す。
後ろのガムリから「余計なお世話なんだよ!」と声が飛び、嫌な奴だと再認識しながらシルヴァンに向かい、盾を身に着けた側から体ごとぶつかって行く。
鼻先を掠め、ひるんだ狼に追い打ちをかけるように剣を振り下ろすが、すんでのところで回避された。
後ずさり、身をかがめたシルヴァンの意識が俺に向いたタイミングを逃さず、リッテは背のブーメランを投げ上げた。
「喰らえ、《崩星》!」
恐らく《戦技》というやつだ。武器を扱うスキルに熟達すると、攻撃範囲を広めたり威力を倍加させたりと色々できると彼女から聞いたことがある。
それを回避しようと動きを見せたシルヴァンにリッテは突進する。驚いたシルヴァンは反射的に飛びかかろうとしたが、その背中に先程投げ上げたブーメランが大地を這うような低い軌道で後ろから直撃し、リッテの手に戻る。
流石にタフで、ゴブリンのように一撃では倒れないが、動きの鈍くなった相手の首筋に剣を叩きつけると、狼は大量の血を流して絶命した。
「ふー……なんとか、やれそうだね」
魔物はその銀の毛並みごと白い灰となって崩れてゆき……その中に転がる魔力核を拾い上げると、リッテは笑顔と共に俺とハイタッチを交わした。
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