48.具体的な計画

 ギルドを閉めた後のこと、俺達は魔物狩りの算段を付けようと話し合う。夕食も兼ね、テーブルには三人分の食事が並んだ。


 基本的にロージーはあまり料理はしないようだ。テーブルの上にはパンやサラダ、分厚いハムステーキなど、どこかで買って来たようなものが並んでいる。

 それを突きながら頬杖を突いたロージーが言った。


「まずは、何を目標とすべきかってことだよ。魔物を倒すって言うけど、一匹二匹で構わないってわけじゃないんだろう? もっと具体的な話をしな」

「う~ん……ロージーさん、《水精の白泉》や《銀狼丘陵》にどんな魔物が出るかってわかりませんか? それによって変わって来ると思うんですが……」

「素人が何を気にしてるんだか知んないけど……《水精の白泉》ならウンディーネ。《銀狼丘陵》ならシルヴァンとキャメルリザード。確認されてるのはそれだけだ」

「ちょっとだけ待って下さいね……」

 

 俺は考えるふりをして、アルビスを呼ぶ。


(アルビス? ちょっといいか。ウンディーネやシルヴァンとかって1体でどん位FPが貰えるのか、教えて欲しいんだけど……)

(ん~、やっとその気になったんですか? その辺りの魔物は確か……一体に付き100FPだったかなぁ)

(相変わらず少ないな……も、もうちょっとどうにかならないのか……?)

(なるわけないでしょう。商店で値切ってるんじゃないんですから……ゴブリンよりステータス的に二、三倍と言った所ですから、妥当な所ですよ。シルヴァンは敏捷性、ウンディーネは魔力に優れていますけど、ジローさんも少しはレベルの上昇もあるみたいですし、倒せないわけでは無いと思いますが?)


 他人事のように言う彼女は譲歩などしてくれそうにもない。やはり自力でなんとかするしかないようだ。


(分かったよ……何とかする)

(ちなみに、自身で止めを刺さない限り、得られるFPは十分の一に減退しますので、そこだけは気を付けるように。それではね~)


 7000FP分であるから、自身で止めを刺せれば七十体。力を借りた場合七百体……うんざりだ。というかそもそも可能なのか?


「具体的に言うと、その辺りの魔物を七十体程、俺が止めを刺す形で倒させて貰いたいんですが……」


 数を言った所でワイングラスを傾けたロージーは片眉を上げ、しなやかな白い手刀が勢いよくしぱぁんと頭に突き刺さる。

 そして皿の上のハムに鼻をぶち当てた俺の耳を、彼女はそのままをつかんで引き延ばし、がなり立てた。


「あ・ん・た・は……どこまで阿呆なんだ、ええ!? んなことが出来るならね、皆簡単に億万長者に成れるってもんさ! 一体、二体ならなんとかなるだろうが、あちこち探しまわるだけでも中々骨が折れるんだよ? 借金でもする方がまだ現実味がある! やめだやめだ、こんな話真面目に聞いたあたしが馬鹿だった!」

「ちょっと、待って下さい! そんな簡単に見放さないで下さいって!」


 ぐったりと背を椅子に預けたロージーは目を据わらせ、自棄になりながら続けた。


「じゃあ言うがねぇ! 現実的に考えて《水精の白泉》は無しだ……ウンディーネに物理攻撃は効き目が薄く、あたしたちに魔法攻撃できる人間がいないからね。やるなら《銀狼丘陵》一択……だけど、数日平地を探し回ったところで、お目当ての魔物をそう簡単に仕留められると思わない方が良い。あいつらにだって頭がある。自分達が狩られる側だと思えば逃げるくらいの判断はするだろう。となると……」

「となると……?」


 リッテが喉を動かし、緊張の面持ちで彼女を見つめる。


「……気は進まないが、迷宮の中に入るしかないってことになる。逃げが利く程道が広くはなく、しかも減った傍から次々生み出されるから遭遇エンカウントも多いしね。ただ……それはあたし達にも言えることだ。踏み込み過ぎて、逃げ道を無くしたら今度はこっちが狩られる側になる」


 彼女は、聞いた話だと前置きしてから《銀狼丘陵》の内部について説明を始める。


 どうやら、内部は最初に入り口の広間から三本の通路に分岐しており、それぞれがあみだくじのようにほうぼうで繋がり合う構造になっているようだ。


「実際はこんなもん当てになりやしない。定期的に内部変遷が起こって姿を変えるからね。あたしが知ってるのはこの程度のもんさ。多分あんたらの実力じゃ、一体相手取りゃ手一杯。囲まれりゃあっという間に狼共の美味しいおやつになっちまうだろうよ」

「……なら、入り口付近までなら、踏みこんでもなんとかなるってことじゃないんですか?」

「ちっ……あのねぇ!」

「分かってますよ……相応の危険があるってことは! それでもやらなきゃならないんです、自分自身を餌にしてでも! 悪いけど俺、ロージーさんが着いて来てくれなくても行くつもりですよ。でもどうせなら、ちゃんと最後まで面倒見て下さいよ!」

「ちょっとちょっと……二人とも熱くなり過ぎだってば」


 いつもは宥められる側のリッテがストップをかけ、テーブルを揺らすように立ち上がっていた俺達は座り直した。

 

「ロージーさん、彼、結構逃げ腰だから……ここまで言うのって本当に切羽詰まってるんだと思うんです。どうにか協力してあげて下さい、お願いします。ほら、ジロー君もちゃんと頭を下げてよ」

「……お願いします」

「お前ら、何でもかんでも頭下げりゃどうにかなると思うなよ、ったく。はぁ……一回こっきりだ。目標を達成できなくとも、あたしが無理だと判断したら退くからね。その条件で一度だけなら協力してやる」


 リッテの言葉が効いたのか、自分を無理やり納得させたように首を振った彼女は諦めた様子で肩を叩く。


「出発は準備に五日ほど貰おうか。それまであんたらは引き続きあたしの小間使いだ……ほら、肩でも揉みな」

「……は、はい!」


 どうやら、勝負は五日後から、ということらしい。それまでは甲斐甲斐しく彼女の下僕として仕えることになりそうだ。文句は言えないけど……。

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