24.戦いの終わり
何かのスイッチが入ったように、体が動く。
もしかしたらLVでも上がったのかも知れない。雄叫びを放った俺に竦んだ一匹のゴブリンに盾ごとぶつかって、槍で突き通す。
それを二度ほど繰り返した所で手製の槍が折れた。だが関係ない……武器はそこら中に散らばっている。
俺は先程奪って腰に差していた鉈に切り替えると、力任せに上段から振り落ろした。体格差も有り大抵のゴブリンはそれを受けきれずに頭を割られるか、防御した腕を折って倒れ伏す。
「ジロー君! ちょっと、一旦退いて……」
「うるせえっ! 動いてないと頭がどうにかなっちまいそうなんだよ!」
怒声にびくっと身を竦ませたリッテだったが、今はそんなことを考えている余裕も暇も無いんだ。
そこらで村人達もゴブリンを相手にしなければならない位数が増えていて、乱戦になってしまっている。
「ファリス……壁はもういい! 寄って来た奴らを始末して」
「は、はい……」
ファリスも炎の壁を維持するのに思ったより精神的疲労がかかったのか、苦しそうだった。
だが、残った魔法の力で炎の矢を生み出し、ゴブリン達の体を消し炭に変えて行く。
だが、依然として奥からは多くのゴブリンが湧き出て来る。ひたすら無駄に思える作業に心が折れそうになるが、手を止めたら、そこで終わりだ。
死に物狂いの混戦模様の中、どんどん村側へと押し込んでくるゴブリン達。
一人の村人の顔に跳びあがったゴブリンが貼りつき、一斉に引き倒した。
そこからかろうじて維持していた防衛線が決壊してなだれ込むように数匹の小鬼の群れが村人達へと駆け寄っていく。その喜声に俺達は思わず後ろを振り返った。
「駄目だッ! 誰か後ろを……!」
そうは言っても、戦えるものはもう既に手一杯なのだ。誰もそれに対応できない中、村長や勇気ある少年達が家族達だけでも守ろうと、棒切れ等を手に前に出る……しかしその手は震えている。
『コノ村ハ俺達ノモノダ! 全て奪イ尽クシテヤル! ヒヒャハッハ……ヒャバッ!?』
甲高い笑い声はしかし、奇怪なタイミングで途切れた。白い光に発声器官である喉元を斬断され、軽い音を立てて地面へとゴブリン達は転がった。
それらを絶命させたのは、先程ここを離れた自称勇者の青年の剣。そしてリッテの視線が有るものを捉えて固まる。村の奥から悠然と歩み寄って来るその姿は……。
「っ……父さぁん!」
リッテが近寄って来たゴブリンに前蹴りを浴びせ、掴んだブーメランを腰を捻って叩き込みながら叫んだ。
その言葉にファリスも顔を上げ、二人揃って目元にじわりと涙を浮かばせる。それにディジィは手にした斧を持ち上げて応えた。
形勢の変化は劇的だった。勢いもそのままに、青年は背にした白い大剣をうならせ、近くにしたゴブリンを切り刻みながら群れへ突っ込んでいく。
「はーっはっはっ、ピンチにさっそうと駆けつけてこそ勇者! これぞ勇者! さあ我が聖剣よ、魔物どもの血を存分に味わえ!」
そういうのはどちらかというと魔剣だろう……そんな突っ込みが思い浮かぶが、ともあれ青年は瞬く間にゴブリン達を切り捨て、あっという間に群れを押し返す。
凄まじい切れ味と、身のこなしに感服する。
「これはまた、良くも増えたもので……。邪心を抱きし者、その身を光熱で灼かれよ、《太陽針》!」
後ろから来た壮年の僧侶が光球を放ち、それはゴブリン達の頭上に舞い上がると数えきれないほどの光線を発し、貫いたゴブリンの体が炎に包まれて灰となる。
そして……。
「皆、よく頑張ってくれたワ」
「「父さんっ……」」
抱き着いて来た二人を、ディジィは愛おしそうに撫でる。少しふらつき、装備も破損していたが、体に目立った傷は無い。
わずかな間三人が家族の無事を確かめ合い、幸運を噛み締めるのを見ていて少し切ない思いが胸にせり上がった。
戦いの音は未だに続いており、すぐにディジィは二人を離すとこちらにも目を向けて、肩を叩く。
「二人とも、それにジローちゃんも、あともうひと踏ん張りよ。ゴブリン達も無限に湧いて出るわけじゃない。頼もしい仲間も来てくれたから、もう少しだけ頑張ってちょうだい!」
「「「ああ!(うん!)(はいっ!)」」」
口々に答える俺達の前に立ち、ディジィはまた戦斧を猛然と振るい始めた。その姿に鼓舞された俺達も必死になってゴブリンの数を減らしてゆく。
村人達も一致団結して背中を守り合い……そうして夜が明ける頃、麓に降りてくるゴブリンの姿は完全に途絶え、村を守り切った俺達はその場で歓声を上げたのだった。
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