20.勇者御一行?
北入り口に先に駆けこんだリッテが村長に必死に状況を伝える。
俄かには信じがたい話だっただろうが、彼は意外なことに素早く決断し、村人たちに触れ回るよう指示を出す。
俺はリッテの代わりにファリスを抱えたまま立ち尽くしていた。
下ろせば彼女はすぐにディジィの元へと戻ろうとするので絶対に離すことは出来ない。
身を震わせているこの子の顔は見えないが、しゃくりあげる声が聞こえ……恐らく泣いているのでは無いだろうかと思った。
「なあ、君達、魔人が出たというのは本当なのか?」
「あ、あんた達……」
そんな俺達に声を掛けて来た冒険者達に驚いて目を丸くする。
なんと彼らは山中で出会ったあのエルフ一行だったのだ。大柄な騎士の質問に答えようとしたものの、実際に見たわけでは無いのでどうも要領を得ない説明になってしまう。
「良く……分からないんだ。俺は魔人ってのを見たことが無いし、結局そいつの姿を確認する前にこの子達の親父さんに逃がされたから。で、でもLV54の冒険者が逃げろって言ったんだ……危険な何かが来てるのは間違いないと思う」
「そうか……メルキュも異常な魔力を感知したし、恐らく間違いはないんだろう。しかし、その冒険者……見過ごせないな」
男は精悍な顔つきを険しく歪ませ、手を握り込む。そして高らかに、悔しさをぶちまけた。
「勇者である俺より勇者っぽいじゃないか! くそっ、俺達も行くぞ……魔人は俺達が倒す!」
「「「はぁ!?」」」
自称勇者の男の言葉に俺達のみならず……自身の仲間達からも疑問の声が上がり、男を責め立てる。
魔術師の女は杖で男の後頭部を殴りつけ、金髪のエルフは鼻でせせら笑う。
「あんたちょっと自分の実力わかってんの!? あたし達まだLV20そこそこなんだよ!? 死ぬに決まってるじゃん!」
「馬鹿が……相手は魔人だぞ? 下位の魔人でもLV50以上の冒険者達が何人か組んでやっと倒せるかどうかという位なのに……気が触れているとしか思えんな」
「賛成は出来かねますな……」
あの人の良さそうな僧侶までもが皺を深くして否定したが、それらを全く意に介さずに、余計に目を爛々と輝かせる。
「皆も知ってるだろ! 俺が試練を糧にして成長する人間だって事を……。これまでも幾多の難関が俺達の前に立ちはだかったが、それらは全て乗り越えられるものだった! 今回もきっとそうに決まってる。納得できないなら俺一人でも行くさ!」
男の謎理論が展開されている途中で、頭の中にアルビスの声が響く。
(この男……あまり関わらない方が良いと思います)
(いや、確かにあまり関わりたいタイプの人間では無いが……)
(いえ、そういう意味では無く……彼自身がどうこうというより、あの剣は……古き神の……)
(何だ……はっきり言え)
(いえ……とにかく、彼とは関わり過ぎないようにしてください)
いつもとは違い歯切れ悪く、こちらを気遣うような彼女の言葉に気味の悪さを覚えながら目の前の男を見る。
今も仲間達に語り掛けている騎士男は、性格は兎も角、ただの熱血イケメン野郎というような印象しか受けないのだが……。
彼らは彼らで、こちらがアルビスと会話している間に話がまとまったようだ。
「はあ、もうあんたが言うんだったらあたし達は止められないわよ……」
「……仕方あるまい。私も神授の聖剣の行方を見届けよと長に使わされた身だ。付き合うしかあるまい」
……いや、どういう話の流れでそうなったの!? 目が点にしたまま固まる俺に僧侶のおっさんが語り掛けた。
「何故だか、無茶苦茶な彼の言葉に私達は皆説得力を感じてしまうのです。これも聖剣を持ちし勇者に神が与えた御加護なのかも知れませんな……。では我々は魔人の討伐に向かいます。村人達の非難は任せましたぞ」
助けに行ってくれるのは有難いが、本当に大丈夫なのだろうか。無駄な犠牲者を増やすだけなのでは……。
だが、深く考える間もなく山側から追加のゴブリン達が現れ始めた。
こちらはこちらで大変になりそうだ。大勢のゴブリンに対処しながら村人を逃がさなければならない。
敵の数はかなり多く……村人の中の戦えそうな人間を差し引いても厳しいかも知れない。
避難の手配は村長がするだろうから、何とかゴブリン共を近づけないように処理しないと……。諦めてぐずるファリスを地面に降ろすと、戻って来たリッテがその顔を両の平手で挟み込むようにして喝を入れる。
「ファリ! いつまでもぐずぐずやってると、村の人達も私達も死んじゃうってば! ほら、敵が来てる! 父さんは強いし、助けに言ってくれた人もいるんだから、彼らを信じて自分できる事をしてよ! 妹にこんなことまで言わせないで!」
「ひあっ……ごめんなさい、や、やります」
ようやっと身を起こしたファリスを引き上げて、リッテが門の外をぎっと睨む。
前方からはゴブリン達が粗雑な得物を手に醜い顔を歪ませながら駆けて来る。
間近に迫るそれらに腰を引かせながら、俺は震える手で槍にしがみつくようにして構えた。
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