10.冒険者ギルドへ

 採集に勤しんだおかげで、豊富になったキノコ類と草類を中心として、新たに見つかったのは以下のアイテムだ。


・アッカの実(低品質)……(調合材料)殻を割った中身を食すると、一定時間ATKが僅かに上昇する。薬品にした方が効果が高い。


・ウィオの実(低品質)……(調合材料)殻を割った中身を食すると、一定時間DEFが僅かに上昇する。薬品にした方が効果が高い。


碧銅サフライト(中品質)……(鍛冶材料)青い色が美しい鉱石。製鉄すると魔力を帯びた金属に変化する。


 鉱石は川の水が飲めないかどうか迷っていた時に偶然見つけたものだ。周囲にあったのは三つだが、貴重なものだと困るので、今回一つだけ出してみることにする。


 テーブルの上に並べられた物品を老婆は手に取り、拡大鏡でしげしげと覗き、左右に分け始めた。

 恐らく買い取れるものとそうで無いものを分けているのだろう。


 そうして、二つの山に分けられた内、老婆は片側を戻すように言った。やはり食材関連は買い取って貰うことが出来なそうだ。


「薬草や毒草、麻痺草、キノコの類と、アッカ、ウィオの実は買い取ろう。草とキノコは一束一ルコ、実は一個3ルコでしめて30ルコ。納得できなきゃ他を当たりな」


 高いのか安いのか、判然としないが魔物を倒してFPから換金するよりかは断然効率が良い。

 俺は首を縦に振る。すると老婆はニヤリと笑い、銅貨を30枚袋に詰めてこちらに渡した。


「ここで引き取ってもらえなかった物の中に金になりそうなものはあったか?」

「食いもんは二足三文にもならんし、自分で消費した方が良いだろう。碧銅サフライトなら武器屋に持ってきゃ金にはなるだろうが……こんな小さい村じゃそんなもんはないしね。余所へ持って行きな。しかし……」


 老婆の不思議そうな目は俺の手に注がれていたが、何も言わずにかぶりを振ったので俺はその場を辞去する。


 店を出てすぐに聞こえたのは、お馴染みのアルビスの有難いお声だった。


(ジローさん……あまり人前でアイテム欄からアイテムをホイホイ出すと怪しまれますよ?)

(え? こういう魔法、ゲームとかだったらよくありそうじゃん)

(あるにはありますけど、それは空間魔法という希少なスキルか、または特別な道具でしか使えない力です。まず一般の人が持っているものでは無いので、下手に見られると怪しまれたり、厄介な人間に身柄を拘束されたりするかもしれませんよ?)

(マジか……わかった。何かカムフラージュの方法を考えよう。しかし……お前どこからどこまで俺の行動を監視してるの?)

(秘密です……)


 不穏な台詞を残した後、またアルビスの声は聞こえなくなる。都合の悪いことになるとすぐ隠れるのは困ったものだ。


 わずかながら資金が確保でき、俺はすぐそばにあった宿の看板を見上げたが、首を振る。

 この金は何かあった時に取っておかなければならない。宿屋に泊まるのはもう少し余裕が出来てからにしよう。





 次に俺は冒険者ギルドに向かった。


 事前に聞いておいた道筋を辿りついた建物が目の前にあるのだが、どうも閑散としている。人の一人もその建物の近くには居ないようだ。


 これ、絶対あかん奴や……よし、帰ろう! そう思った瞬間、扉が開いて熊の様な図体をした筋肉質の大男が顔を覗かせた。


 短く刈り上げた頭を頭頂部だけ尖らせ、長いもみあげがむさ苦しさを際立たせている。そして、男は奇妙にを作りながら、俺の元へ駆け寄った。は、速い……!


「アラ、足音がすると思ったら久しぶりの加入希望者ヨネ。歓迎しちゃう」

「いや、違います……ただの通行人Aです」

「嘘おっしゃい! 是非おもてなしさせて頂戴な」


 まさか物理的に引き留めを喰らうとは思っていなかった。その男は俺の肩をがっしと掴み、万力のように締め付ける。


「まさかこのまま帰るなんて言わないわよ……ネェ? えぇ……どうなんだ? オォ?」


 ゴリゴリと俺の肩を軋ませる男の視線は暗に従わなければ命の保証はしないと言っているようにしか見えない。


「は、はい、謹んでそのご招待を受けさせていただきますです……」


 もはや、そこに頷く以外の選択肢は並べられていなかった。

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