9.村の中へ

 水で十分に喉を潤した俺は、再度森に入り、前日に続き再び色々な物を採集していく。


 食糧と水の確保の目途が立ち、気持ちに余裕が出来たので定期的にスキルなども使用するようになった。


 攻撃力、防御力、敏捷、知力上昇の支援魔法を一巡させると殆どMPは無くなるが、それも大体一時間もすると回復しているので定期的にかけて習熟度を上げていく。

 とはいえ、効果の程はお察しで、実感できるほどでは無いが。


 そうして、日中は採集、夜間は村の入り口で眠り、二日に一度位水を買うような生活を続けていた。

 衛兵のおっさんとも自然とよく話すようになり、有難いことに良いものを頂けた。


 夜のおっさんが服を持って来てくれたのだ。

 それも二着。息子のお古だと言っていたが、サイズも大体ピッタリである。靴も柔らかい革製の物を一足貰えた。


 全体的に青が基調のシンプルなデザインで着るものを選ばないのが良い。


 着替えると、ボロボロになっていたスーツは消えてしまい、少し名残惜しい思いをした。


・布の服(低品質)……普通の布で出来た服。DEF+1

・皮の靴(低品質)……薄い皮を縫い合わせた靴。DEF+1


 そしてもう一つ、村の中に入る許可も貰うことができ、俺は小躍りして喜んだ。


「流石にいつまでもそこに居座られちゃ困るしな。若いんだから、どっかで仕事でも探しな」

「いいのか!? 有難てえ……後図々しいけど仕事の当てとかない?」

「無いこともねえけどよ……あんたなんかスキルとか持ってんのかい?」


 そう言えば、俺の体は若返っているのだった。この世界に来てある意味唯一有難いと思えることではある。スキルは現状では役に立たないし……。


「……あるにはあるけど。言語が何でも理解できるスキルとか、支援魔法とか……」


 すると衛兵は笑い飛ばした。


「わっはっは、兄ちゃん。噓はいけねえ……支援魔法はともかく、言葉が何でもわかるだなんて聞いたことねえぞ。そんな希少なスキルは都に住む賢者様みてえなお偉い方しか賜れないって相場は決まってんだ。《存在証エクスタグ》を貰った時にそんなのがあったら今頃もっといい所で召し抱えられてるだろうよ」


 エク……何だ? 耳慣れない言葉に混乱した俺の頭に、アルビスの声がここぞとばかりに響いた。


(そうそう、言語理解に関しては、彼らも言う通り、かなり特殊なスキルに該当しますから隠しておいた方が無難かと……)

(あ……そうなんだ? ふ~ん)


 この様子だと後出し情報はまだまだありそうだ。

 もういちいち気にしないことにして、おっさんが不思議そうな顔を向けていたのを慌ててとりなす。


「そ、そう。冗談なんだ……俺が使えるのはちゃちい支援魔法だけさ。本当それだけ」

「ふむ……まあいい。そんなら村の《冒険者ギルド》にでも行ってみるとええさ。こんな寂れた村だから依頼は雑用の手伝い位しかねえだろうが、小遣い稼ぎにはなるだろ」

「マジか……ありがとう、おっさん。お礼にこれやるよ」


 俺が出したのは黒色の魔力核(極小)だ。このおっさんには世話になったし、反応を見る目的もあって出してみたのだが、おっさんは目を向いた。


「おめえ、山でゴブリンでも相手にしたのか? そんな装備でまた命知らずな真似をするなぁ。いいからしまっとけ。それも冒険者ギルドに行きゃあ換金できるから、生活費の足しにでもしな」

「いやあ、俺だってしたくてしてたわけじゃないんだけど……色々訳ありでさ」

「そうかい……まあとにかく、今日は村の中でゆっくり休んで明日っから仕事を探すといい。ま、もしやる事が無かったら警備の仕事でも紹介してやるさ。それじゃあな」

「ああ、ありがとうな。世話になった」


 おっさんに手を振ると、俺は村の中に足を踏み入れた。


 木の柵で覆われた、全景が一度に見渡せる程度のこじんまりとした村だ。

色々と見て回りたかったのだがその日はもう日が暮れた後で、宿に泊まる程の金も無く、適当な路地裏に身を潜めて眠った。




 翌朝、目を覚ました俺は、取りあえず店屋を色々巡って見ることにした。俺の手持ちにある物を売っている店があれば、もしかすると換金してもらえる場合があるかも知れない。


 金があれば野宿もしなくて済むし、暖かい食事もできる。外で寝ると虫とか大変なんですよ……体も痛いしね。


 住居というものがある生活の有難味が良く分かった……日本でのブラック企業で働いていた生活とはまた別ベクトルの苦痛が存在するのだ、異世界では。


 小さな村なので、あるのは雑貨店や薬屋、服飾店、飲食店位か。


 俺は考えを巡らせながら、思い付いたことを実行に移そうと歩きだす。

 アイテムの説明に会った、【調合材料】という言葉。精製すれば何らかの薬品などに変わる可能性が高い。するとなると、向かうは薬店がベストか……次点で雑貨店だな。


 方針を決めた俺は、種々のアイテムを売り込もうと、薬瓶の形をした看板のかかる建物の扉を開けた。


「……いらっしゃい」


 出迎えたのは一人の目深に帽子を被る老婆だ。店内には一人の客もいない。

 四方の棚には所狭しと怪しい色の薬品や、用途の良く分からない器具が並んでいる。


 ああ、でも素材らしきものもちゃんとある。保存がききやすいように乾燥させて小瓶やら袋やらに詰められているではないか。


 選択をミスったかと一瞬思ったが、案外行けるかも知れない。俺は取りあえず交渉を持ち掛けて見ることにした。


「ちょっとすまない。色々な素材を集めて来たんだが、ここで買い取って貰うことはできないか?」

「物によるかね……見せてごらん? 良さそうなものがあれば買い取ってやっても良い」


 老婆の目が帽子の下からギラリと光り、俺はその眼光に気圧されながらも色々なアイテムを取り出していった。

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