8.水は買う物

 睡魔に負けて眠った翌朝、門番のおっさんは昨晩と入れ替わっている。

 どっちにしろおっさんには違いないのだが、まあ、近くにいてくれるだけ有難い。

 魔物が現れてもどうにかしてくれるはずだ。


 俺は早速アイテム欄を開き、昨晩採取した色々なアイテムをあらためる。


 主に野草やキノコ、果物など……元の世界で見かけたようなものもあるが、名前は微妙に違っていた。例えば……。


・ナナバの実……(食用)半月型をした黄色の実。甘くコクがあって美味しい。


 これなんか、ほぼそのままあれだ。ゴリラが好きそうなイメージのある果実……実際には野生のゴリラはバナナが取れる地域にはあまりいないらしいのだが、何故定着したのか謎だ。他にはこんな物も。


・クロタマタケ……(調合材料)傘部が球形をした黒いキノコ。衝撃を与えると爆発するので危険。火薬の原料にもなる。


 試しに投げて見ると、確かに景気の良い音を出して弾け飛んだ。


 地面がえぐれていないところを見るとそこまで威力は無いと思われるが、投げ付ければ驚かすこと位はできる気がする。

おかしなことをし出した俺に門番の目が向き、人前で試すのはやめることにした。


 そういえば、ゴブリンから採取した魔力核というものもアイテム欄に入っている。


・魔力核(極小)……(調合材料)魔物の生命力の源となる結晶。ほのかな魔力を発している。


 ゲームなんかだと、こういうアイテムは溜めて置いて何かに交換できたり、装備品などのアップグレードに使ったりするので、使用用途が分かるまでなるべく取っておきたい。


 他にも色々と採取はしたのだが、思ったよりも数が少ない。

 恐らく識別されなかったものは消去されてしまったものと思われる。

 川の水とか、土とかはアイテム欄には入っても消えてしまうようなので、この現象はもしかすると利用できるかもしれない。


 俺はとりあえず朝食がてら、まんまバ〇ナの形をしたナナバの実を食した。

 空腹に染み渡る美味さだ……これで食料の問題はしばらくどうにかなりそうだが、よろしくないのは水だ。


最悪、川の水をそのまま飲むという手もあるが、山中で腹痛で倒れでもしたら詰む。


「あの、すいません……近くに飲める水とかあったりしませんか?」

「水だと? そんなもん、水売りから買うしか無いだろう。ほら、あそこに座っているあの爺さん」


 村内の一画に座っている男……上り旗の様なものには確かに「水屋」と書かれている。恐らく言語理解のスキルでそう見えるだけなのだろうが……。


「ちょっとだけ行ってみてもいいですかね?」

「仕方ねえな……本来だったらあんたみたいな怪しいのを村に入れたくはねえんだが……すぐに戻って来いよ」

「わかりました……」


 まぁ、スーツの上を無理やり腰に結び着けた状態なのだ。おかしく思われても仕方が無いが……変人扱いされて激しくテンションは下がる。


 浮かない顔をしたまま、俺はこっそりFPをルコに変換した。

 ゴブリンを倒したのもあって何とか3ルコを確保し、俺はそれを持って水売りに話しかけた。


 座っている茣蓙ござの上には所狭しにいくつも革っぽい茶色の水筒が置かれている。


「おっちゃん、水をくれないか」

「構わんが、容れ物は無いのか?」

「え、無いんだけど」

「じゃあ、容器と水1つで10ルコだな」

「え、高くね?」

「高くねえよ……何だ坊主、金がねえのか? 随分と汚れた形しやがって……帰んな」


 確かにまあ、これは粥三杯程の金額を払えない俺の方がおかしいと言える。

 だが、そうだとしても言う通りに引き下がる訳にもいかない。干乾びて死ぬ。


 なので俺は先程の採集で得た物品を放出することにした。

 ゴブリンから手に入れた魔力核は後々必要になるかも知れないので取っておこうと思うが……他はまた山に入れば手に入るだろう。


「なあおっちゃん、こんだけありゃなんとかなるだろ? 頼むよ、こっちも生死がかかってんだ」


 水売りのおっさんは舌打ちしながらも、一応俺が出した品々を確かめてはくれる。彼も商売人なのだから、利益が出るようなら応じてくれるだろう。


「しゃあねえな、じゃあ坊主の出したこれ全部と水入りの水筒一個と交換でいいんだな?」

「いいのか? 恩に着るよ」


 水売りは水筒を開け、手を近づけて何やら念を込めた。


 すると水筒は見る見るうちに水で満たされ膨れ上がる。それに蓋をして水売りはこっちに押し付けた。


「ほら、毎度。さっきからおっかねえ顔して守衛が見てっから早く行きな」

「ありがとさん」


 俺はおっさんに手を振ると、そのまま入り口に駆け戻り、訝し気な目をする兵士の傍で水を煽る。


 元からアイテム欄に入っていた非常用の水は一回分が小さなコップ一杯ほどしかなく、渇きは癒しがたい。


 久しぶりに残量を気にせずに水を飲めるのはとても嬉しかった。丁度よい温度の清水が喉に滑り込み、しばしの間言葉が出なかった程だ。


 水、美味うめえ~……。

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