7.生き抜くために
異世界は……今までの常識が通用しない事を俺にまざまざと実感させた。。
死がこんなに身近にある世界――ゲームや本の知識で想像は出来ても、実際に自分が生死を彷徨うことになるまで、それがただの薄っぺらな妄想でしか無いことを、本当の意味で知ることはできないのだ。
正直、本気で生死をかけて戦うだなんて、もっと先のことだと思っていた。
スライムはともかくゴブリンのような、普通のゲームなら最弱級の魔物に二度も命を奪われかけたなんて。
……いや、きっとそれも油断なのだ。
自分もただの一人の人間でしかない。
斬られれば痛いし、急所を刺されれば死ぬのだ。
確実に戦いに勝てる状況を作らないと戦ってはいけない。
二度目は、無い。
大木の間に身を潜め、周囲に何もいないことを確認してやっと安心して腰を下ろす。村まではまだ遠い。
体力の消耗による強烈な空腹と喉の渇きに襲われ、非常食と水をアイテム欄から出して貪った。
少しだけ気力が回復して、やっと落ち着いて考えを巡らせることが出来そうだ。
「……ステータス」
まず、現状をしっかり認識した方が良い。自分が弱いということを納得する為に。
【ジロー・カスダ】 LV:3
・HP (体力) : 20
・MP (魔力) : 15
・ATK(攻撃力) : 3+4
・DEF(防御力) : 3
・INT(知力) : 3
・MND(精神力) : 3
・DEX(器用さ) ; 3
・SPD(素早さ) : 3
・LUC(運) : 15
スライムやゴブリンの打倒によってか多少LVが上昇しているが……上昇したステータスは雀の涙ほどだ。
攻撃力に+があるのは恐らく手に持った槍の分だろう。運だけが調子よく上がっているが、実感はまだ、感じられない。
俺が一つ不思議に思ったのは、防御力の増加が無いことだ。
今着けているスーツはどうなっているんだろうか。試しに脱いでみる。
(あっ、ちょっと待って!)
靴を脱いでズボンを足から抜いた所でアルビスの声がまた、頭の中に直接聞こえる。
そういえば、エルフ達と会ってから声を出さなくなったな……アルビス。そちらの方が楽なのだろうか。
俺が首を傾げたところで地面に落としたズボンが風景に塗りつぶされて消えた。
「え……嘘だろ! ちょっと……マジで? ズボン何処に行ったの?」
(消えました。元の世界から来た時に身に着けていた物はこちらの世界に色々と影響を与える可能性が有るので、体から離すと消えてしまうんですって)
「うぁあぁぁぁ……それは先に言っとけよ。くそおぉぉ」
(まあ、まだ上が残っているだけマシでしょう? 何とかなりますよ……知りませんけど)
「なる訳無いだろが……こんなんで人前を歩いてたら変態か間抜けかどっちかでしか無いわ!」
彼女からの返答はなく、どうやらまた引っ込んでしまったらしい。
下だけトランクスと靴下を晒し、俺は仕方なくスーツの上着を腰に巻き付けた。
ネガティブな状況ばかりが発覚して心が折れそうだ。スマホも消えたしな……。
「……ス、スキルは……何かないのか?」
【スキル】
支援魔法LV1
《NEW》
「新しいスキル……頼む、役立つ物であってくれっ!」
俺は祈る思いで強調表示されたそのアイコンに触れた。
【
現時点では役に立ちそうにないスキルだ、これは。そもそも格上の相手と戦う時は、死を覚悟した時だ。絶対にやりたくない。
しかしこれ、LVアップでの習得ではなく、別の条件……例えば死に瀕したせいで覚えられたとかでは無いだろうか?
スキル習得の条件も、今一つ判然としない。
駄目だ、このまま考察に費やしていると俺は遠からず飢え死にする。
非常食も水も後三セットしかないのだ。
ここは森なのだから、よく探せばもしかしたら食べられる物が自生しているかも……思い付きだったが、その考えは正しかった。
よく見ると、サバイバルにあまり詳しい方ではない俺でも見つけられる位に周りには色々な果物やキノコ、植物などが生えている。
俺は手当たり次第にそれをアイテム欄に放り込んで行きながら、道すがらのスライムを狩っていくことにする。
ただし、足音は消せるだけ消して、周囲への警戒は怠らない。
神経がすり減り、精神的な疲れがどっと増す。
ゴブリンは見かけ次第姿を隠しやり過ごした。
あの時の恐怖が胸に残っていて、LVが上がったとはいえ今は未だ戦う気にはなれない。
そうして夕方まで採集に勤しんだ後、俺は山を下り再び村に向かった。
流石に山中での野宿は避けなければならない。
その頃には、どこかにねぐらでもあるのかゴブリン共の見かけなくなっていた。
村の入り口で篝火を見た時はほっとして腰が抜けそうになる。
衛兵に挨拶すると、この姿だ……流石に不審がられた。
「あ、あんた……何だその格好は! 盗賊にでもあったのか?」
「いえ、ちょっとまぁ、色々ありまして……済みませんがここで休ませてもらっていいですか?」
「構わないが……くれぐれもおかしい真似はしてくれるなよ?」
この様子では、村には入れて貰うことは出来なさそうだ。
採ってきた色々な物を検分するつもりだったのだが、一旦体を休め始めるとその日の疲れがどっと出始め、あっという間に意識は睡魔に負けて溶けだしてゆく。
そうして俺は、篝火の傍で柵にもたれて束の間の休息を取った。
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