第14話 初体験
…本当にどうしようか。
この状況から和解が出来るとは思えない。
何せかたや首に剣を突き付けられていて、かたや首に棍を突き付けられている。
そんな状況から仲良くする奴が居るならよっぽどのバカだろう。
「まあでも、此処で体験しておいても、損は無いんじゃ無いの?」
とサヤカが少し、怖い事を言ってくる。
それを聞いた男たちも恐怖していた。
まあ確かにこれから先、こんな事ごまんとあるだろう。そうして殺さざるを得ない状況になった時、躊躇ったり、動けなくなる状況は困る。
…ならば此処で体験するのも手だろうか。
いつもの、と言うよりも以前の、進化する前の俺ならばこんな事は思わなかっただろうが、思ってしまった。
世界が変わった事で自分の思考がだいぶ変わっているのが分かる。
そりゃそうだ。
幾ら魔物と言えど、何匹も葬ってきて入るし、それに、死にかける場面も幾つかあった。
その経験は二十台後半と言う思考が固まる頃であったとしても簡単に思考を変えてしまうには充分らしい。
こう思ってしまう自分自身に困惑はすれど恐怖は無い。
時期にやらねば、いつかはやらなければとでも思っていたのだ。
だからこそ心の備えは多少、本当に多少出来てはいた。
だがそれを改めてやるとなると、それはだいぶ変わってくる。
そして俺は殺す事を選択した。
今までの理由もあるが、一番は、コイツらを逃してもどうせ、同じ事を繰り返すだろうと思ったからだ。
突き付けていた剣を横に引いて、1人の首を刎ねた。
そして彼女が棍を突き付けている相手の心臓部分を剣で一突き。
即死とは言わないが助からない、致命傷だろう。
表面上、何も無い様に装ってはいるが内心ガクガクのブルブルだ。
当然、魔物や動物とは違う。
はっきりと同族、自分と同じだと認識している生物を殺めたのだから。
その罪悪感は半端な物では無かった。
俺はそれを噛み締める様にして、今、殺めていった男達をチラリとだけ見やった。
血だらけの床に横たわる首が無い男の死体。
血だらけの床に横たわる全身が紅く染まった男の死体。
それらを見て、胸が締め付けられる様な思いだった。
そして剣を見て、自分の腕を見て。
剣につく血が改めて自分がやったと訴える。
そして胃の中から何かが込み上げる様な感覚がし、口の中に酸っぱさが広がった。
胃酸が逆流を起こしたのだろう。
あまりのストレスに。
あまりの恐怖に。
ただ、その一方で、これは仕方のない事だ、と冷たく割り切る自分も居る。
正直、今の自分の気持ちは色々とぐちゃぐちゃになっていて分からない。
悲しいのかもしれないし気持ち悪いのかもしれない。
嬉しいのかもしれないし悔やんでいるかもしれない。
怒っているのかもしれないし情けないと思っているかもしれない。
俺には分からなかった。
人を殺すと言う重大さを、重みを。
それを理解した今、何か大切な物を失った気がした。
≪──同─────ス────────し───≫
何かが聞こえたが俺の耳には入らない。
いや、頭に残らない。
右から左へ、左から右へと抜けて行く。
ただ、それだけだった。
俺は半端な覚悟でやる物では無かったと、後悔した。
俺は軽い気持ちでやる物では無かったと、後悔した。
俺は子供が見知らぬ玩具で勝手を知らぬ内に、勢い余って壊してしまった、そんな状況はどこか、似ている。
「ねぇ、ちょっと、大丈夫なの!?」
とずっと黙り込み俯く俺を心配してか、サヤカの声が聞こえる。
それに軽く、返事する様に片手だけを挙げる。
今しゃべれば更に胃酸が逆流する。
そんな確信があったからだ。
だからこそ一言も喋らず、身振りで答えた。
十分後
だいぶ楽にはなっている。
いつまでもくよくよと、過去だけを見ている気にもなれない。
俺には目的がある。
彼女と共に観光を楽しみ、安寧を求める事。
この目的は俺らにしか通じない、そんな自分達だけの、そんな目的だが、こうして殺してしまった以上戻れないし、何も出来ない。
だからこそ、コイツらの分まで日本を見て回ろうと思う。最初こそ乗り気で無かったが、今、俺も観光に伴う目的が出来た。
かと言って進んで殺す気も無いが。
…そういえばさっきの奴らは4人組…だが、今のは2人しか居なかった。
あと2人は、何処だ?
気配察知を使って、校舎を調べてみたがそれらしき気配は見つからない。
何処だ?
まだ外に居るのか?
分からない。
「なあサヤカ。あと2人、何処に居るか分かるか?」
「は?わかる訳ないじゃ無い。アホじゃ無いの?」
と返ってくる。
そりゃそうだ。
彼女は気配察知すら持っていないのだから。
索敵は俺任せなのだ。
だがやはり、何度探してもあと2人の気配は校舎内に見つからない。何度も、何度も探すが見つからない。
あと2人は何処だ?
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