第16話 ムトウくん、カトウさん、そしてビトウくん

「私、ムトウくん苦手なのよ」


 キミが難しい顔で言う。いつもはなだらかな眉間に、深いシワが刻まれている。


「子供っぽいって言われてもいい。苦手なものは苦手なんだもん」


 学校の友達に言われたことでもあるのだろうか。大きなお世話よ、と小さな声で吐き捨てている。

 うん、まぁ、人それぞれってやつだよね。


「ほんとはカトウさんが一番好きなんだけど」


 キミは手の中の缶を見つめながら、悲しそうな顔をする。


「ビトウくんでも大丈夫なのに」


 はぁ、と大きくため息をつく。


「どうして間違えて買っちゃったかなぁぁぁ」


 キミの手の中のコーヒー缶にはBLACKの文字。甘党なキミはブラックコーヒーが飲めないのだ。

 なんでよく確認しなかったのさ、と言いたかったけど、打ちひしがれているキミに追い打ちをかけるのも忍びない。

 ベンチの横にある自販機に、コインを投入してカフェオレのボタンを押す。ガコンと音を立てて出てきた缶をキミに差し出すと、キミが満面の笑みを浮かべた。パァァと効果音でも聞こえそうなほどの、輝かんばかりの笑みだ。


「ありがとう!」

「どーいたしまして」


 キミがカフェオレを飲みだすのを見て、ぼくもコーヒーを飲む。


「ぼくはムトウくんが好きだからね」


 ぼくのセリフに、キミがカフェオレの缶を傾けていた手を止めて、首を傾げた。


「その言い方……」


 ぼくも飲むのを止めてキミを見ると、ややためらいがちにキミが言った。


「なんだかアヤシイ感じね……?」

「キミにだけは言われたくないね!」

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