第14話 さけチー

「さけるチーズってあるじゃない?」


 いつもながら突然の話題に、ぼくは内心首を傾げながら頷いた。


「あるね」

「あれを、学校へ持ってきてた子がいたんだけど」

「さけるチーズを?」

「うん」

「学校に?」

「そう」

「女子高生が?」

「そこ、重要?」


 いやぁ、だって、さけるチーズだよ? 好みは人それぞれとはいえ、女子高生が学校に持っていくようなものじゃないでしょ? 

 ぼくがそう言うと、キミはやや白い目でぼくを見た。


「女子高生に夢を見過ぎじゃない?」

「キミを見慣れてるからそれはないと思うんだけど」

「なんて?」

「ナンデモナイデス」


 じろりと見られて、首をすくめる。

 でもさぁ、夢を見てるわけじゃないけど、女子高生が学校に持ってくるお菓子って、フリスクとかじゃないの? わずか数年でこうも変わるものか。


「ともかくね、持ってきてる子がいたの」

「ああ、はい、さけるチーズね」

「そう。で、誰かさけるチーズいるー?ってクラスの子に声をかけてたんだけど」

「そんなにたくさん持ってたの?」

「一人がすごくびっくりしたみたいで」

「そりゃ驚くだろうね」


 だってさけるチーズだもの。そんなもの学校に持ってくるとは思わないよね。しかも、友達に分けられるくらいたくさん。

 よかったぼくと同じ感性の子がいたと安心したのも一瞬のこと、続いたキミの言葉に思わず叫んでしまった。


「さけぶチーズってなに?ってその子が聞くのね」

「マンドラゴラかよ!」


 抜かれる瞬間叫ぶ植物と、裂かれる瞬間叫ぶチーズ。

 脳裏になかなかにシュールな絵が浮かんでしまった。


「まんどらごらってなぁに?」

「知らない? 抜かれるときに叫ぶ植物だよ」

「へー、そんなのあるんだ」

「もちろん実際にあるわけじゃないけど、その叫び声を聞くと死ぬんだったかな」

「なにそれコワイ」

「さけぶチーズのほうが怖いと思うけどね……」


 食べようとしたらギャーッて叫ぶんだよ、ギャーッて。いや、ギャーかはわからないけども。

 その後の顛末をキミが話していたけど、さけぶチーズのシュールさと、さけるチーズを学校に持ってくる女子高生がどうしても気になって、右から左へと抜けていってしまい、キミに怒られてしまうのである。

 そういえば。

 キミのお小言を聞き流しつつ、ふと思い浮かんだのが、さけるチーズもさけぶチーズも、略せばどっちもさけチーだな、ということだった。

 これまたキミに知られたらお小言が長くなりそうなので、口をつぐんでおくことにしよう。

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