第12話 キミの勇者はトロい。
「どうしてこんなにトロいの?」
急に呟いたキミに、何事かと思って顔をあげると、キミは真剣な顔で携帯ゲームの画面を睨んでいた。
横から画面を覗き込むと、どうやら話題のアクションゲームをプレイしているようだ。いくつかシリーズが出ていて、前作をやったことがある。意外と難しいんだよね。
ぼくが見ていることに気がついたのか、キミは画面をぼくに見やすいように向けてくれた。
「ほら、ここ、ここを弓で射なくちゃいけないんだけど、さっきからずっと外すの」
「……」
「あ、また外した! この子、ちょっと下手すぎない?」
……うん、まぁ、確かにその距離で外しちゃうのは下手かもしれないけど、その言い分は可哀想じゃないかな?
「あ、矢がなくなっちゃった…」
肩を落として、キミは矢を拾うために近くの敵を倒したり、タルを破壊している。そして集めた矢を持って、またチャレンジ。
狙いを定めて……撃つ! なるほど、撃つ瞬間に力が入りすぎて、照準がブレてるのかな。横から見てるとよくわかる。
案の定またもや外れて、キミは大きくため息をついた。
「この子、こんなに下手で、ちゃんとお姫さま助けられるの?」
そこはまぁ、キミの腕次第だよねぇ。
拾い集めた矢で再挑戦していたキミだけど、奇跡的に一本の矢が的を射抜いた。キミは嬉しそうに笑って、やっと先に進めるとつぶやく。
その後も見ていると、敵を倒すために剣を振っては空振りし、ジャンプも方向がズレて谷底に真っ逆さま。
勇者が可哀想になってくる有り様だ。
いや、でも、がんばってるんだから、いつかはむくわれるに違いない。
遠回りをしたり仕掛けがわからずに右往左往したりしつつも、なんとかそのエリアのボスにたどりついたキミは、上目使いでぼくを見た。
「あのね、もう、回復薬がなくって」
「うん」
「ここ、代わりにやってくれないかなー、って」
エヘ、と実にかわいらしく首を傾げる。くそぅ、ぼくがその顔に弱いことを知っててやるんだからたちが悪い。
ぼくはため息をついて、ゲーム機を受け取った。
当然のことだけど、この一回で終わるわけがなく、このゲームをクリアするまでこのやり取りは繰り返された。
もう最後のダンジョンなんかはぼくがプレイしていたといっても過言ではない。
でも仕方ないのかな。キミの言葉を借りれば、勇者が「トロい」からいけないんだもんね?
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