第11話 溶ける前にアイスを食べよう

「あつぅい」


 ここのところ毎日聞いているボヤキが、今日もキミの口からこぼれた。


「とけちゃいそう……」

「いや、とけないよね?」

「わからないじゃない。こうも暑いと、本当にうっかりとけちゃいそうな気がする」

「うっかりでとけたりしないでね」


 そしてまた冒頭の一言に戻るわけだ。何度も繰り返してしまうその気持ちはとてもよくわかる。よくわかるからこそ、言いたいことがある。


「だったらさぁ、もっと涼しい所に行こうよ」


 こんな公園のベンチなんかじゃなくてさ。そう言い返したぼくを、キミが横目で見やってくる。


「その言い方、オヤジクサイ」


 なんだとぅ。

 とっさに言い返そうとしたけど、数日前に聞いた愚痴を思い出した。塾の帰りに、酔っ払いに絡まれたと言っていた。

 だから、あえてこう言い返してやった。


「あ、そう。せっかく涼しいコンビニで、つめたぁいアイスでも奢ってあげようかと思ったのになぁ」


 ピクリとキミの肩が揺れた。


「お高いやつでもオッケーだったけど、やめておくかぁ」


 腰を上げかけたところで、キミがぼくのTシャツの端を掴んだ。

 チラリと見下ろすと、先程とは打って変わって満面の笑みである。


「ハーゲンダッツでもいいの!?」

「さっきまではそのつもりだったけど、オヤジクサイ人には奢ってもらいたくないだろ?」

「オヤジクサイだなんて、暑さのせいで口走った錯覚よ。あなたはとてもステキなおにいさん!」


 それはそれで嘘くさいが、まぁキミの気分が上向いたのならよしとしよう。

 それから二人でコンビニに行って、やっぱりハーゲンダッツは高いからとパピコでいいと言われた。しかし、ミニ扇風機つきの雑誌もねだられたのだけど、ハーゲンダッツよりも高くついたなぁと思うのは、気のせいじゃあないよね?

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