第10話 猫となつき度

 友達と映画を見た帰り、通りがかった公園で、キミがしゃがみ込んでいるのが見えた。

 よくよく見ると、二匹の猫が足元にまとわりついていて、交互に撫でてやっているようだ。

 なんてうらやましい。もちろん、猫を撫でていることに対する羨望だ。

 猫を脅かさないようにそうっと近づく。とはいえ、猫は警戒心も高く、近づくぼくに気が付かないわけはない。ピクリとぼくを注視しはじめたようすに、キミも少し首を傾げた。

 ある程度近づいたところで足を止め、キミの後ろから声をかけた。


「ぼくも撫でていい?」


 その途端、猫はピャッと走り去ってしまった。

 ええぇ、なんでいなくなっちゃうのさ。


「驚かせちゃったのかなぁ…」

「というか」


 キミは立ち上がって、猫が去ったほうを見やった。


「撫でられたくなかったんじゃない?」

「ぼくに?」

「あなたに」


 ひどい。

 そんなズバッと言わなくてもいいじゃないか。ぼくだって薄々察している。ぼくが近づくと猫は逃げる。それはもう、それまでどんなに寛いでいたとしても、飛び上がって走り去ってしまうのだ。


「キミが撫でてたから、今度こそ平気だと思ったんだけどなぁ」

「残念だったね」


 まったくだよ。

 ぼくも名残惜しく猫が去ったほうを眺めていると、キミがぼくの顔を覗き込んできた。


「いつも逃げられるよね」

「……そんなことないよ。偶然だよ」

「偶然、いつも、逃げられるよね?」


 くぅぅ、人が気にしていることを。


「知ってる? あそこのお店のジーンズをはいてると、猫がなついてくるらしいよ?」


 キミが口にしたのは、全国チェーンの某お店。染料にマタタビが使われているとか、一時期話題になったことがあった。

 だからというわけではないけど。


「このジーンズ、そこで買ったやつなんだけどね」


 結局は、ぼくが猫に避けられてしまうことに変わりはなかったのである。

 一応追記しておくと、染料にマタタビ云々はデマらしい。でも、猫に懐かれるジーンズというのは本当なようで、それでもなお逃げられてしまうぼくは、猫から見ると魅力がないってことなのだろう。

 しょんぼりしていると、キミがぼくの腕を引いた。びっくりして顔をあげると、満面の笑みのキミ。


「いいじゃない、猫に懐かれなくても。代わりに私が懐いてあげるから!」


 ぐいぐいと腕を引いて歩く様子にピンときた。


「さては、なにかねだるつもりだな!?」

「せいかーい!」


 これ、懐いてるっていうのかなぁ…。

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