第9話 桃と桃味

 桃味のお菓子を同僚からもらったので、キミにあげようと思った。だって、キミは桃が好きだから。


「ありがとう」


 小さく笑って、ぼくが差し出したお菓子をキミは受け取った。

 喜ぶかなぁと思ったのに、案外微妙な反応である。


「桃、好きじゃなかったっけ?」


 好みが変わったのかと問いかけると、ペリペリと包装を剥いでいた手を止めて、首を左右に振る。


「桃は好きよ」


 包装を剥ぐ手を再開させ、パクリと一口かじる。


「でもね、桃味は当たり外れがあるの」

「……桃味は桃の味じゃないの?」

「それが違うのよねー」


 手の中のお菓子をしげしげと眺めて、ちょっと首を傾げる。…今日のは外れだったということだろうか。


「どの味だって、そのものの味じゃないでしょ? やっぱりホンモノが一番!」


 まぁ、言われてみれば納得ではあるんだけど、喜ぶかなぁといそいそ持ってきた身としては、すこぅし複雑ではある。

 そんな心情を見越したかのように、キミはにっこりと笑った。


「でも、このお菓子美味しかった! ありがとう!」


『桃』味としてはイマイチだけどお菓子としては合格、ってこと? 難しいなぁ。


「だけどね」


 ぼくの顔を覗き込んで、キミは小さく笑う。


「私に、ってわざわざ持ってきてくれたことが、一番嬉しいかな。…ありがとう」


 ……ちょっと。そういうの、ズルくないかなぁ…。

 これだから、キミに会いにくるの、やめられないんだよね。

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