第8話 ネギとメンマ

 近所のラーメン屋では、塩ラーメンがキミのお気に入り。ちょっと柚子の風味がするところがイイらしい。

 日曜日のお昼、ラーメンを食べに来て、新メニュー美味しそうとひとしきり迷ってから、結局いつもの塩ラーメンを注文する。ぼくは味噌ラーメンのチャーハンセット。

 ラーメンが来るまでの間、キミはふと思い出したように話しだした。


「この間ね、学校の友達とラーメン食べに行ったの」

「学校の近くのとこ?」

「うん。でね、ふつーにラーメン頼んで、きたときに、あ、って思ったの」


 タイミングよく、ぼくたちが注文したラーメンもきた。パキンと割り箸を割り、レンゲを手にとって、キミはため息をつく。

 レンゲの上にネギを乗せて、ぼくのラーメンの上にどさっと移動させる。


「いつもこうやるから、ネギ抜きを注文すればいい、って考えないのよね」

「あーわかる」


 お返しに、ぼくも自分のラーメンからメンマをキミのほうに移動させる。

 いつのころからか、こうやって自分の苦手なものをトレードするようになって、注文するときに悩まなくなったのは確かにある。

 いつも一緒ってわけでもないのに、不思議なものだ。


「そのときは、ネギどうしたの?」

「こう…」


 言いながら、ラーメンを軽くかき混ぜる。


「さりげなーく、下の方にまわしたよ」

「それ、絶対さり気なくないから」


 言いながら、ぼくもキミがいないときに同じことをしたなぁと思い出す。さりげなーく、メンマを下の方に……。

 そう、全然さり気なくないことを知っているのは、容赦ない友達に指摘されたからだ。


 キミの友達は優しいから、指摘しなかったのかな。まぁ、ぼくの友達も、ベクトルは違うけど優しいんだけどね。

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