第6話 エイプリルフール

「私、カレシができたんだ」


 キミの言葉に、ぼくは思わず固まった。

 それはまぁ、彼氏なんていつできたっておかしくはないのだろうけど、いささか急すぎやしないだろうか。ここしばらくは、あの先輩がカッコいいとか、隣のクラスの子の笑顔にキュンときたとか、そんな話はしてなかったと思うのだけれど。

 いやでも、告白されてその気になるとか、有り得そうな気もするし……。

 などとぐるぐる考えていたが、キミの顔を見て思い直した。


 うん、これはウソだな。


 あの笑顔は、彼氏ができて浮かれている顔じゃあない。うろたえているぼくを見て、ほくそ笑んでる顔だ。

 確かに今日は4月1日だ。嘘をついてもいいのかもしれない。

 だけども。


「知ってる? エイプリルフール、嘘をついてもいいのは午前中だけって話があるよね」


 一部の国では適用されているルールだ。日本でも最近は言われてることだけど、まぁ絶対のことではない。

 けど、根が素直なキミは、目に見えてうろたえた。


「え、え? そうなの? どうしよう、嘘ついちゃった……」


 そんなに気にすることでもないのに、キミは困った顔をする。

 だからぼくは、一つ助け舟を出してあげたのだ。


「簡単だよ。嘘じゃなくすればいいんだ」


 つまり、実際に彼氏を作ればいい。

 理解したキミは、パッと顔を明るくして立ち上がった。


「そっか、そうだよね! じゃあ、ちょっと出かけてくるね!」


 言って、ぼくが止める間もなく、家を出ていってしまった。


 えっと。


 わざわざ出かけなくても、ここに手頃な彼氏候補がいたんですけどね……?

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