第5話 あまやどり

 帰宅途中、通り掛かったバス停にキミがいた。ベンチに腰を下ろし、うらめしそうに雨を落とす空を見上げている。


「傘、ないの?」


 問いかけると、ぼくを見て、いや正確にはぼくが持つ傘を見て、顔をほころばせた。


「ちょうどいいタイミングね!」


 さっと立ち上がり、ぼくの隣に滑り込んてこようとするのを制し、ほくは傘を閉じてキミに差し出した。


「ぼくはもう一本持ってるから、これ使ってくれていいよ」

「えー」


 なんで不満そうなのさ。

 渡された傘でいじいじと地面をつつきながら、キミがぼくを見上げた。


「こういうときは相合い傘じゃないの?」

「いやだよ濡れちゃうじゃないか」

「ほら、キミが濡れないように、とかって、あえて傘を傾けてくれる優しさとか」

「どうしてわざわざぼくが濡れなきゃいけないのさ……」


 傘を貸してあげるほうが、ものすごく優しいと思う。


「あ、それとも、キミがぼくを濡らさないように傘を傾けてくれるの? いやでも、背が足りない……あいたッ!」


 ぼくを蹴っ飛ばしたキミは、傘を開くと雨の中走り出した。同年代の子に比べるとやや(ここポイントね)小柄なことを気にしているからね。

 こちらを振り返ってイーッとするのに、早く行けと手を振り返す。

 その後は、キミはこちらを振り返らなかった。

 さて。

 どうやって帰ろうかな。

 雨足が弱まるどころか強くなっていく空を見上げて、ぼくはため息をついた。




 実はぼくが傘を持っていなかったためにずぶ濡れになり、風邪をひいてしまうのはそう遠くない未来だ……。

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