第3話 注意力と戦闘力

「どうして注意力ってさんまんなんだと思う?」


 この問いを向けられたとき、ぼくには質問の意図がうまくつかめなかった。

 まず最初は、やっと自分のドジ具合に気がついたのかという驚きがあって、次に、いやでもそういうのって気がつけるもの?という疑問が湧いて、最後に、まずはもうちょっと話を聞いてみようといういつもの結論に落ち着いた。

 しかし、キミはぼくの内面の葛藤に気がつくわけもなく(こういうところが注意力散漫なんだと思うんだけどね)、眉間にシワを寄せて呟いた。


「ほら、さんまんじゃなくても、よんまんでもごまんでもいいわけじゃない?」

「へ?」


 えっと。

 もしかして。

 さんまんって、数値だと思っている……のか……!?

 ぼくの沈黙を不審に思って顔を上げたキミは、おそらくぼくの顔に大きく書かれているだろう疑問を正しく読み取った。

 ハッとして両手を大きく左右に振った。


「ちがうちがう! そうじゃないから! いくらなんでも、注意力三万だなんて今は思ってないから!」

「……今は?」

「子供の頃! 小学生の頃かな、ちょっとだけそう書くんだと思ってた頃があったの」

「なるほど」


 それならばわからない話ではないけど……けども。


「じゃあなんで、四万でもいい、とかって話が出てくるのさ」

「今日ね、先生に言われたの。『あなたは注意力は散漫だけど、破壊力は五万くらいありそうね』って」


 おそらくその先生の顔真似なんだろう、指でつり上がった眉毛を表現しながら、思い切り顔をしかめている。その爪の間が少し汚れているのが気になった。

 まぁでも、先生にそんなこと言われるということは。


「で、何を壊したの?」

「ちょっと……花壇の花を踏んじゃっただけ」

「ははぁ。それで破壊力?」

「そう」


 しょんぼりと肩を落としているキミを見て、ぼくはそのときの様子を考えてみた。

 キミは言わないけど、なにか理由があって花壇に足を踏み入れたんだろう。花を踏んでしまったことに、誰よりも心を痛めたのもキミだ。

 そして、先生に怒られたからではなく、キミ自身がそうしたかったから、花壇の花を手入れしてきたのだろう。

 うっかりドジなところもあるけれど、そんなキミの心根はとても優しいと思う。


 注意力は散漫。

 破壊力は五万。

 戦闘力は……いくつくらいだろう。


 ぼくはキミに勝てそうもない。

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