第2話 青春はどんな味?

「青春って何味だと思う?」


 いつも通り、キミは突拍子もない問いを口にしてぼくを見上げた。

 公園のベンチ、隣には自動販売機。

 キミの手には買ったばかりのレモン味の炭酸ジュースがあり、ぼくはいつも飲んでいるコーヒーを買った。

 ガコン、と落ちてきた缶を取り出し、キミの隣に腰を下ろす。


「セイシュンねぇ……」

「よくさ、レモン味って言うじゃない? どうしてだろ?」


 手の中のペットボトルを見て、キミは真剣な顔。


「甘酸っぱいからじゃない?」

「レモンって甘酸っぱいかな?」

「じゃあ……爽やかだから?」

「レモンって爽やかなの?」

「うーん……単なるイメージ?」


 やっと満足の行く答えが出たのか、蓋をしたペットボトルを僕の方に向けた。ちゃぷん、と中のジュースが揺れる。


「そう、イメージなのよ結局」


 うんうんとしかつめらしい顔で頷いて、ぼくを見やる。


「青春が爽やかだって誰が決めたのよ」

「さぁ……」


「苦い青春だって、あまぁい青春だって、固い青春だってあるかもしれないじゃない」


 固いは味じゃないと思うけど、それを言ったら面倒なことになりそうだから流しておこう。

 キミが言いたいことは何となくわかったし。


「またフラれたの?」

「またって言わない!」

「あ、ごめん。何度目かなぁって思ったからつい」

「謝らない!」

「あ、はい」


 ぼくはそっとキミから目をそらし、誰に聞かせるでもなく言葉を継いだ。


「青春って、青い春って書くよね? イメージとして、果物とか青いと酸っぱいけど甘い気もするぅ、みたいな話で、青春って甘酸っぱいのかなぁと思うな」

「……でもレモンは甘くないもの」

「そうだねぇ。でもさ、青春が苦いとして……苦い食べ物って何だろ? ゴーヤとか? ゴーヤ味の青春ってどう?」

「それはちょっと……」

「ぼくも嫌だなぁ……」


 つぶやいて、同時に吹き出した。

 青春って、あとから思い出すものだと僕は思う。思い出したときの感情に味があるとしたら、みんなそれぞれ違う味なんだろう。


 だとしたら、きっとぼくの青春はキミの味がするのかもしれない。

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