キミとぼく
琥珀
第1話 透明写真
「ねぇ、透明写真って知ってる?」
神社へと続く長い階段を登りながら、キミがぼくを振り返った。急な問いかけによく聞き取れなかったぼくは、問い返す。
「証明写真?」
「ちがうよ、透明写真。と・う・め・い」
一文字ずつ区切って、キミが言う。
そうか、透明かぁ。って、いや、透明写真って何よ。
「なにそれ?」
「私もわからないんだけど、ほら、あれ、証明写真ってあるじゃない? あれ見てて、ふと思ったわけよ。透明写真ってあったらおもしろそうだなーって」
ぼくがいる段まで降りてきて、キミは腕を組んでそんなことを言った。
ぼくは少し感心してしまう。証明写真からそんなことを連想してしまう想像力? いや、空想力かな、その発想の飛躍さ加減は、他の追随を許さない。ついていけるのは、ぼく以外にいるのかな?
にこにことぼくの返事を待っているキミを追い抜いて、階段を一つ上がる。
「まず、何が透明かにもよるよね」
「うん?」
「撮っても何も写らないから透明写真とか、撮ったら透明になっちゃう透明写真なのか」
「うわあ、ホラーだ」
なんでうれしそうなのさキミ。
ふふ、と小さく笑いながら、キミがぼくを置いて一気に階段を駆け上がる。
薄暗かった木々の間を抜け、明るくなったてっぺんで、キミはぼくを振り返った。
そして、両手の親指と人差指で小さなファインダーを作る。
「ほら、これも透明写真」
ぼくも同じように小さな四角を作って、キミをその中に捉える。
そう、これは、ぼくの心の中に残る、キミとぼくだけの透明な写真。
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