孤独さ

バブみ道日丿宮組

お題:孤独な夕飯 制限時間:15分

孤独さ

「じゃぁボクは帰るからね」

 返事はなかった。

 病室の扉をあけ、

「……」

 肩越しに振り返る。

 視界に入るのは呼吸器をつけた弟の痛ましい姿。いつ目覚めるのかわからない眠りについてる。

 こんなことになるんだったら、ボクが変わってあげれば良かった。

 マスコミがボクを叩くように、そうしてあげればきっと全て上手くいった。

 それに……最低の人間っていうレッテルも貼られることもなかった。

 両親を失い、弟の才能まで潰したボクは孤独になった。

 学校でも、どこでも誰かがボクをみてざわつく。聞こえないふりをしても事故の話が耳に入ってくる。

『あのこのせいで弟さんは二度と目が冷めなくなった』

『保険金目当てだったんじゃないの?』

『殺人犯だろ』

 そんな言葉。

 実際事故のことはニュースに取り上げられた。ボクの名前がでることはなかったけど、両親と弟の名前はでた。弟は中学生でありながらIQ150を超えた天才だった。市でなんども表彰されたし、TV番組に出たこともあった。

 それだけに交通事故で眠りについたのはおかしいと惜しまれた。

 ボクはといえば赤点を取ろうと、授業をサボろうと大人に言葉をかけられることはなかった。非難だけは続けるのに、ボクのことはどうでもいいらしい。

 わかってたけど、弟のいない世界は姉として居心地が悪かった。

 ないものねだりも誰かがいなきゃできない。

 ご飯は軽食しか口に入らなかった。

 少しでも多くのものをみれば、どうしても両親の肉のかけらが思い浮かぶ。

「……」

 ゼリー状の栄養剤と、医者から処方された注射をうつ毎日。

 これが生きてるというのなら、ボクは弟と何も変わらない。

 生きてる感じがしない。

 あの事故でボクという存在は消えた。

 例え弟がボクを庇ってくれたとしてももうあの時ボクは死んだ。


 だから、弟が意識を取り戻したと聞いた時、何をしたらいいのかわからなくなった。

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孤独さ バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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