111.蜜がなくても蜂は花に惹かれる

 バシュレ子爵令嬢クリステルと友人になれて、少しずつ交友関係が広がっていく。彼女と開くお茶会に、クリステルの友人や婚約者のオードラン辺境伯令息が同行するようになった。前回お友達が一人もいなかったなんて嘘のよう。明るい庭に集まったご令嬢やご令息を数えながら、私は微笑んだ。


「目移りしないでくれよ」


 リッドがウィンクして寄越す。左側から私の手を握るカールも、そっと耳元で囁いた。


「本当、これ以上ライバルが増えるのはご免だからね」


「そこまで節操のない私ではなくてよ」


 くすくす笑って返す言葉に棘はない。だって、こんなに素敵な二人が私を取り合ってヤキモチを焼くなんて……素敵じゃない? 着飾った美しいご令嬢が熱い視線を送っても、カールもリッドも振り向かない。私を見て柔らかく微笑む彼らに、何を心配したらいいのかしら。


 私はヤキモチすら焼かせてもらえないわ。


 いくつも日よけのテントを張った庭は、普段と違う賑わいを見せる。華やかなご令嬢方の衣装は花のよう。薄い緑で統一されたガーデンセットに集まる花に誘われ、シックな出で立ちの令息が彼女らに誘いを掛ける。黒や紺を中心とした令息の装いは、花蜜を求める蜂のようだった。


 衣装をある程度統一することで、ガーデン全体を絵画のように彩る。こんなガーデンパーティは初めてだった。帝国で流行り出したスタイルで、いずれ他国にも広がるだろう。今回は花々と蜂、次はご令嬢方に蝶をお願いしても楽しそうだった。


 センスの良い集まりだと好評で、次回もたくさんの参加者が望めそう。まだ15歳の私が主催となるため、集まった貴族や裕福な商家の方々は成人前が主流だった。前回の記憶を持つ方が多いので、混乱が収まるまで婚約を控えた人が多い。


「フォンテーヌが原因ですもの。皆様に素敵なご縁があればいいのですけれど」


 すでに婚約しているクリステルも、婚約者と腕を組んで参加している。お相手がいる方は、胸に同じ色の花飾りをつけるのがルール。相手を探している方は白い薔薇の生花を飾ってもらった。


「グループになりつつあるけど、あの辺りは婚約間近じゃないかな」


 カールが指摘したのは、木陰に置かれたテーブルで微笑みあう二人。世界は徐々に変わっていく。以前は考えられなかったけれど、貴族と商家の結婚も現実味を帯びてきた。


「身分なんて価値がないわ。奇しくも頂点に立つ王族がそれを証明してしまったもの」


 ジュベール王家の末路を知るから、人々は地位や肩書きの虚しさを知った。内面をしっかり確認し、自分に合う相手を選ぶことを優先する。新しい風が吹き始めた世界は、色を変えながら人々を見守る。まるで女神様の加護のように。


「俺は君が公女でなくても好きだよ」


「おい、抜け駆けはずるいぞ。私も前回からティナを愛してる」


「俺だって愛してるっての!」


 言い争いが人目を集め、少し恥ずかしいけれど嬉しくて。ころころと笑う私は明るい未来に胸を高鳴らせた。

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