108.いつか誇れるような決意を胸に
「本当にごめんなさい。もう勝手なことはしないわ」
私がお兄様の忠告をきちんと聞いていたら、こんな騒動にならなかった。川に近づくなと言った声に従っていたら……そう思うと申し訳なさに胸が詰まった。
「反省し繰り返さぬことが大切だ」
お父様はそう言って私を許そうとする。でもそれじゃいけないわ。跡取りのシルお兄様が大ケガをして、リッドやカールも軽い手傷を負った。私は守られて震えていただけ。愛馬のリディは幸いにも休養だけで済んだ。一歩間違えたら、誰かが失われていたのよ。
「そこまで反省したなら、何も言うことはないよ」
お兄様は私の髪を撫でる。反省なんて当たり前よ、私が悪いんだもの。
「お姫様を守るのは騎士の役得だし」
「宝である姫を救うのは私の役目だ」
騎士として当然と笑うリッドの横で、カールがちくりと嫌味を言う。睨みあう二人に険悪な雰囲気はなくて、私を気遣った結果なのでしょうね。許されても自分の戒めはしっかり持たなくてはならない。彼らの優しさに甘えて、同じことを繰り返す気はなかった。
「ありがとう、嬉しかったわ」
助けてもらったお礼を再度重ねてから微笑む。セシャン伯爵家次男パトリスは助からなかった。公式発表ではそうなっているけれど、私は知っている。お兄様達がわざと出血を放置した事実、今後の憂いを断つ意味で行われた処置だった。
私の足元は誰かの血で濡れている。前回は自分の血で大地を汚し、今回は私を守るために血が流された。ならば、覚悟を決めるしかないのでしょう。
お父様やジョゼフおじ様が動いたように、私も誰かのために動く決断をする時期かも知れません。
「次も必ず守るから安心しろ」
お兄様がカッコよく微笑んで告げた後ろから、リッドが口を挟む。
「いや、次があったらまずいです」
「事前に手を打って万難を排すべきですね」
カールまで! くすくす笑う私にお父様は手を伸ばした。素直に引き寄せられた私のつむじにキスをして、抱き締める。こっそり決意したことを祝福するように。
「お前はそうして笑って過ごせばいい。それこそが我らの幸せに繋がるのだからな」
「はい」
まずは距離を詰めるところから始めましょう。幸せを自分の手で掴むために、彼らに歩み寄るのが大切だわ。両方欲しいと思ったのは私、ならば両方得ても誰も文句を言えない実力を付けたらいい。過去にそんな女王の逸話が残っていた。彼女に出来て、私に出来ないはずがない。
誰にも公表しない決意だけれど、いつか誇れるように。
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