96.鉢合わせした両国の使者

 子猫は白い女の子でブランシュ、元気な男の子の茶色い子犬はノエルと名付けられた。どちらも公爵家の屋敷で飼うことになり、芝生の庭で走り回ったり昼寝をしたり。ブランシュにちょっかいを出したノエルが引っ掛かれて小さく悲鳴を上げる。


 穏やかで平和な光景に、自然と気持ちが和む。芝生の上に綿のワンピースで座り、少し先で手合わせをするカールとリッドに手を振った。父と兄が必死で守った平和を満喫する私の元へ、アリスが大慌てで走ってくる。転びそうになる彼女に首を傾げたが、持ち込まれた話に慌てて立ち上がった。


「すぐに着替えます」


「かしこまりました」


 侍女として答えたアリスを連れて部屋に戻る私を見送る2人へ、振り返って声を掛けた。


「バルリング帝国とランジェサン王国から、使者が着いたわ」


 どちらもほぼ同時に到着し、門の前で馬車が鉢合わせしたらしい。そのまま客間を分けて案内された彼らに、礼を尽くさなくてはならない。急ぐ私の事情に目を見開いて顔を見合わせ、練習用に刃引きされた剣を手に駆け戻った。


 待っている時間はないので、自室で着替えを済ませる。屋敷内なので急いで客間に向かう途中、階段で躓いた。転がり落ちてしまう。焦った私が手を伸ばす。手摺りを掴み損ねた手にアリスが触れた。だが引っ張られてしまい、彼女と一緒に落ちかけたところで……どさっと受け止められる。


「ご無事ですか?」


 執事クリスチャンが通りがかり、私とアリスを抱き留める。まだ成長した18歳じゃなくて良かったわ。13歳だから軽かったと思うの。


「ありがとう、ごめんなさいね。ケガはない?」


「お嬢様がご無事なら、私は何も……アリスは無事ですか」


「は、はい」


 互いの無事を確認し合ったところで、用件を思い出した。


「いけない、お待たせしているんだったわ」


「ご安心ください。すでにカールハインツ皇太子殿下とアルフレッド第二王子殿下が応対しておられます」


 自国の使者からそれぞれに話を聞いているらしい。階段だけはゆっくり降りて、二つの客間の間で立ち止まった。どちらから入るべきかしら。国の大きさで言ったらランジェサン王国が大きい、でも軍事力はバルリング帝国が上だわ。距離が近いランジェサン? それとも遠くから遥々来てくれたバルリング?


 ぽんと後ろから肩を叩く兄が苦笑いした。


「バルリング帝国は任せろ、代わりにランジェサン王国を頼む」


 手分けすると提案され、頷いてお礼を言った。深呼吸して、乱れた髪をアリスに直してもらう。ノックして入室した。使者は立ち上がり一礼し微笑む。見覚えのある顔立ちをじっくり確認し、居心地悪そうにするアルフレッドを見て気づいた。


 国王アシル陛下ではなくて? まさか一国の頂点に立つお方よ、そんなはずないわ。でも……アルフレッドによく似た顔立ちと、お母様を思わせる雰囲気は間違いない。


「……伯父様?」


 ここで何をしておられるの!?

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