95.選べないなら欲張るのも手

 愛らしい小動物を見ると頬が緩むのはどうしてかしら。カールハインツが持ち込んだ子犬も、アルフレッドが抱いてきた子猫も、とても可愛い。小さな声で鳴き温もりを求めて擦り寄る姿は素直で、どこまでも貪欲で純粋だった。


「どちらがお気に召しましたか?」


 尋ねるアリスを振り返るものの、答えられずに困惑した。だって、両方可愛いわ。どちらもいいところがあって、当然どちらも欠点があるのよ。犬は構ってあげなくてはいけないけれど忠実、猫は自由奔放で愛らしいけど媚びを売らない。どちらも好き。


「両方飼ってはいかがか。我らを両方選ぶように」


 カールの言葉にどきりとする。私がカールとリッドを選べずにいること、両方欲しいなんて欲張ったこと、知られているの? 恐る恐るリッドを見上げる。気分を害してしまうのではないかしら。


 男性が女性を複数侍らせる王侯貴族はいるけど、逆なんて聞いたことないもの。きっと女だと思われるわ。顔が羞恥で赤くなる。隠すように顔を覆った私の上に、リッドの柔らかな声がかかる。


「どちらか選べないなら、両方欲張るのも手では? 俺は構いませんよ、カールより愛される自信がありますから」


「おやおや、この私と張り合う気か? 負ける気はしないね」


 カールまで。そっと指の隙間から覗いたら、優しい笑みを浮かべた2人が見えて、慌てて顔を伏せた。金髪がさらりと肩を滑り顔を隠す。代わりに真っ赤な首筋が露わになった。どうしましょう。


「困らせるつもりはない。ゆっくり考えてくれ。ひとまず、この子達の寝床を作ろうか」


 カールが私の気持ちを察したように、別の提案をしてくれた。拒む理由はなくて頷き、髪で顔を隠しながらアリスの手を取る。目の前に差し出されたカールとリッドの手を取るのは、まだ勇気が足りなかった。気にせず苦笑いしたカールと、肩を竦めたリッド。無礼を許してくれるの、助かるわ。


「子猫は小さな箱がいいね。たしか竹籠がいいんだっけ?」


「犬を連れてきたのによく知ってるな、カール」


「昔迷い込んだ子猫を、母上が竹籠で保護した。宰相が気に入って連れて帰ったけどね」


 仲良く話す彼らの会話が気になって、耳を傾けてしまう。それを見透かしたように振り返ったリッドが、にっこり笑った。混乱してぷいっと顔を背けてしまったけど、真っ赤な首や顔でバレてしまったみたい。


「可愛いなぁ。先に子猫の籠を探そうよ」


 はしゃいだ様子で足元を走り回る子犬は元気そうだが、子猫は眠いらしい。アリスの提案で、厨房にある果物を載せる竹籠を譲ってもらう。柔らかな布を敷き詰めると、すぐに中に入って匂いを嗅ぎ、満足そうに眠ってしまった。


 子犬は勝手にベッドの下に潜ってしまい、皆でベッド脇から呼ぶとどこへ行こうか迷っている。誰を選ぶか興味があって、頑張って呼んだのに。カールのところへ行ってしまったわ。大きめのクッションをひとつ用意し、そこが子犬の寝床となった。

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