第12話 2021年7月7日 深夜

「さてと・・・俺ん家に行くか?」


 俺たちは電車を乗り継いで、俺の家がある町まで戻って来た。

 ずぶ濡れで疲れたのか、織姫は口数が減っていた。

 まぁ、それも無理はない。


 昨日の夜は気を失ってしまったが、まぁ・・・今度の夜は・・・。

 って、そんな勇気もないし、疲れているようだから変な気を起こすのは止めよう。

 でも、ただただ一緒にいたい。


 織姫となら、ベットでゴロゴロするだけだっていいし、大学生みたいに宅飲みとか、タコパをやったっていいんじゃないか、と思っていた俺。


「うーん、間に合わないと思う・・・かな」


 残念そうに笑う織姫。


「あぁん、最終バスには間に合わってないがタクシーを・・・」


「そうじゃないの」


 肩をトントンッと叩かれて「降ろして」と言われたので、そっと織姫を背中から降ろす。


「一体全体どうしたんだ?」


 夏とは言え、こんな格好で深夜にいるのもしんどい。

 早く帰って、風呂に入って、ガンガンに冷房除湿が効いた部屋でのんびりしたい。


「あのね・・・私・・・そろそろ帰らないといけないの・・・」


 俺はスマホをちらっと見る。


 2021年7月7日PM11時55分。


 時刻はまもなく深夜の12時を迎えようとしていた。


「シンデレラか、お前はっ」


 とりあえず、俺はツッコミを入れるが、


「はははっ・・・」


 織姫はさっきまでのような元気はなく、困ったように笑った。

 

「まぁ、いいぜ。明日も明後日も、その次の日も。俺は暇だからなっ。なんたって、ニートだからなっ!!はーっはっはっはっ・・・」


 自虐笑いで笑いを誘うけれど、織姫は笑ってくれなかった。というか、もっと寂しそうな顔をする。


「どうした?今日はやっぱりつまらなかったのか・・・?」


 急に不安になる。

 「おもてなし」をしていたつもりはない。

 けれど、織姫が笑えば嬉しかったから、俺も織姫が楽しみそうなことを一生懸命考えた。引きこもりで拙いエスコートだったかもしれないけれど、この頑張りは俺史上最高のものだった。


 その精一杯が織姫の御眼鏡に適わなかったとすれば、仕方ないことが・・・久しぶりに頑張った俺には辛かった。そりゃ俺は頑張ってこなかったけれど、これが報われなければ正直・・・二度と頑張れる気がしない。


(ダッセー性格っ)


 自覚はしているだけど、あの織姫の笑顔は愛想笑いじゃなかったと信じている。


「言ったでしょ・・・最高に楽しかったって」


「じゃあ!!」


(なんでだよ・・・)


 織姫は静かに天を指した。

 夜空には星空が広がっていた。


 

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