第13話 2021年7月7日午後11時59分50、51・・・

「まさか、お前・・・・・・月に帰るのか・・・?」


「だれが、かぐや姫やねん。それ、めっちゃ嫌やからやめてな?」


 織姫がちょっと、関西弁でツッコミを入れる。関西弁だから冗談っぽく言ったと思うことなかれ。顔はめっちゃ嫌悪でいっぱいだった。


「こほん・・・。時間がないから手短に。私はデネブの近く・・・あの天の川のあちら側へそろそろ呼ばれるの」


 そこまで俺も目がいいわけじゃないが、デネブと言われた星だけが見えた。

 

「いやいや・・・まぁ・・・そうだったとしても・・・だな。また来れるんだろ?」


「・・・」


 黙る織姫。

 

「まさか・・・もう・・・会えないのか?」


「・・・」


 織姫は悲しい顔をして返事をしない。


「お父様があなたに会うことを許すことはもうない・・・と思うわ」


「なんでだよ?俺なんか悪いことしたか?」


「数千年・・・あなたは全く働かない。何度も何度も生まれ変わってもあなたは私に出会ってから・・・一向に働いてくれない・・・」


 胸が痛い。働いていないという負い目は社会人からドロップアウトして一番俺が気にしているところだ。


「はぁ、生まれ変わりとかわけわかんねーよ。それにこちとら、自分人生でいっぱいいっぱいだ。そんな前世とか持ち出されても他人の人生にしか感じないし、そいつらの人生まで背負えんよ」


 ギロッ


 織姫が睨む。


「なっ・・・なんだよ?」


「じゃあ、私の人生も背負えないじゃん・・・」


「違うっ、それは違うっ」


 俺は必死に弁明する。

 俺がくそみたいな俺を背負うのは無理だ。

 でも、織姫のためなら俺は、頑張れるはず・・・だ。


「じゃあ、働いてよ・・・私のために」


 弱々しく出会ったけれど、織姫が笑った。


「あぁ・・・見てろ、ちゃんと働いて見せる!!」


 そういうと、織姫はとてもびっくりした顔をする。おいおい、どんだけ「前世の俺たち」は働くことにネガティブだったんだ?


「じゃあ・・・今度は本当に信じて・・・いい?」


 ウルウルした目で見てくる織姫。


「ああ・・・もちろんだ」


 織姫がいればやっていける、そう俺は確信した。





「待ってるねっ!!」




 その笑顔は最高に美しかった。

 しかし、それも一瞬。

 俺は目の前が眩しくなって目を閉じ、腕で目を覆った。




「織姫・・・?織姫っ!!!どこだ、織姫っ!!?」


 周辺をしばらく走って探したけれど、織姫はいなかった。

 日付は7月8日になっていた。

 眩しくて目がちかちかしているはずなんだけれど、夜空には綺麗な天の川に浮かぶデネブとその近くに光る星が2つ、天の川を挟んで光り輝いているのがわかった。



 

 

 

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