小さな魔法使い

瑞希 綵

第一章・新しい日常

1.窓越しの海


「わぁ~すごーい!海だぁ!」

多くの人達を乗せ決まったレールを走る電車

そんな車両の一つ、窓に手を付けながら窓越しに現れた広大な海を見る少女

先程まで少々長いトンネルの中を走っていた電車、少女からしたら退屈しかなかった

座席に座りながら正面の窓越しに広がるトンネル内の暗闇、退屈そのもの

そんなトンネルを抜け、いきなり現れた海は少女の心を魅了し、興奮させた

「パパ!パパ!見て見て!海だよ!海!」

都会で生まれ、都会で育った少女にとっては海は新しい世界を見るようだった

「ああ、凄いな・・・凄いけど電車の中では静かにな」

座席に座りながらスマートフォンで誰かと連絡を取り合っていた父

少女に言われ、操作を中断して振り向き窓越しの海を見ながら少女に注意する父

「うん!分かった!!」

少女は父親に元気に返事をするが、興奮している少女に注意は無意味だった

下車駅に着くまで、窓越しの海を見つめる少女

過ぎ行く景色、日が落ち始め、先程までの青空が赤く染め変わる空

「・・・赤いな、私みたい」

少女は海に沈みゆく太陽を見つめながら呟いた

その呟きを聞いた父、操作を止め少女を見つめた

空が赤く染まる中、車両内とこの親子も赤く染めた


2.迎え


長い電車の旅を終えた少女とその父

電車から下車し、到着駅に着いた

「お化け出るかな?」

薄明かりでホームを照らす蛍光灯達、既に日が落ち夜になっていた

そんな薄暗いホームを見渡しながら少女は言う

「お化け、出たらどうするんだ?」

少女と同じように薄暗いホームを見ながら問う父

「お友達になる!!」

「ははは、そうかそうか!友達にな!」

右手を握りこぶしにしながらドヤ顔で言う少女と

その返答に対して笑う父

薄暗いホームを明るい雰囲気にする親子

「さてと、駅から出るか」

荷物を持ち直し、薄暗いホームの中を改札口へと歩き出す父

「うん!」

その後を追いかけ始めた少女、その時だった

「・・・やっと出会えた」

「?」

少女の耳元に囁く声を聞き、歩みを止め振り返る少女

そこには誰も居なかった、少女は周囲を再度見渡すが

ホームにはこの自分達以外誰も居なかった

「まさか、お化けさん?」

少女は誰も居ないホームを見ながら呟いた

「おーい!置いてくぞ!」

既に改札口前に着いていた父に呼ばれた少女

「待って~~!!」

少女はお化け探しを止め、父の元へと走り出したのだった

「さて、迎えが来るまで待ちかな」

数本の街灯が照らす、静かな駅前には人の気配は殆ど無かった

そんな駅前に設置されたベンチに座りながら、迎えを待つ親子

「パパ~新しいお家ってどんなの~?」

足をぶらんぶらんしながら、周囲を見渡していた父に問う少女

「ああ、凄い家だぞ~楽しみにしてろよ~」

「本当!?大きいお屋敷!?」

ぶらぶらしていた足を止め、目を輝かせながら父の顔を直視しながら聞き返す

「あぁ、屋敷では無いが・・・良いぞ!」

「良いんだね!!」

「ああ!!良いぞ~~!!!」

人が殆ど居ない静かな駅前で騒ぐ親子がここに居た

街灯に照らされながら、立ち上がる父の握りこぶしは僅かに震えていた

夜空を見上げながら、新しい家の期待度を上げてしまった事を後悔する父

父の押しにより新しい家の期待度が上がり、わくわくが止まらない少女

そんな親子を強い光が照らす、親子が振り返るとそこには商店街の道を走ってきた

一台の軽トラックが現れた、そしてブレーキ音と共に親子の目の前に

停車したのだった・・・

「よう!お待ちどうさん」

軽トラックから降りて来たのは50代ぐらいの男性だった

「すまん、すまん、待たせたか?」

「あっ・・・いえ、大丈夫ですよ」

「すいません、わざわざ迎えに来て頂いてありがとうございます」

迎えに来た男性に頭を下げながら言う父

「いやいや、長旅ご苦労さん」

迎えの男性は笑顔で言ってくれた

「ほら、お前も挨拶しなさい」

迎えの男性を観察していた少女に促す父

「あっ、こんばんは!お世話になります!」

頭を深く下げながら挨拶する少女

「お~元気が良いね~、こちらこそ宜しくな!」

元気に挨拶する少女と迎えの男性

「俺の名前は山野 司郎(やまの じろう)どうだ、カッコイイ名前だろう?」

「うん!カッコイイ!!俺の名前はじろうだぁ~!」

「はははは!!」

腰に手をおきながら、笑う司郎

「さあて、帰るか!!乗んな!二人共!」

司郎は軽トラックの運転席へと意気揚々と乗り込んだ

「あぁ、荷物は荷台に乗せな」

「分かりました」

司郎は親指で荷台を差しながらいい、司郎を見てから荷台へと視線を移す父

「パパ~私の乗る所無いよ~?」

背伸びをして、助手席のドア窓から中を見ながら言う少女

「ああ、お前は俺の膝の上に座るんだよ」

「分かった!!」

敬礼をしながら自分の席を理解する少女

バンッ

軽トラックの助手席に乗り込み、ドアを閉めた

「よし、シートベルトしなよ!」

司郎はそう言うと、軽トラックのエンジンを起動した

新たに乗せた親子と共に司郎の家へと軽トラックは走り出すのだった

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小さな魔法使い 瑞希 綵 @ayanosora

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