第40話【大魔導士リディア視点】

【大魔導士リディアちゃん視点】


 響さんとダメ男の間にただならぬ雰囲気を感じ取ったみんなは色恋沙汰に興味がある落とし頃なのか、吸い付けられるように扉に密着。

 ちょっと、クウ暑苦しいわね、離れさないってば。あんたの尻尾、本当にモフモフね。

 最も早く覗きに来たのはレティファ。

 どうやら王都に戻ることを響さんに伝えようでその後の動向が気になっていたらしい。

 そこにクウ、スピア、レベッカ、エリス、シオンが遅れてやって来て最後にあーしが呼ばれたという状況。

 あの響さんが土下座をして謝罪している光景はあーしたちにとっても珍しく、みんなが気になるのも分からなくはないわ。

 ただ、あーしには確信があった。

 どうせ、って。

 レオンは幼女であるあーしに変態ドスケベだとバレているくせになぜか他の娘たちからの好感度が高い。

 ぶっちゃけ引くわ! マジ引きレベルよ。

 もちろんアイツから【天啓】で才能を叩き上げられた娘たちだから、感謝してしまう気持ちはわかるわよ? 

 愛情に飢えていた上にガワだけは紳士っぽいし。心の声も含めて黙っていれば、まあ……見た目も悪くないわね。

 響さんに嫌われないためか、清潔感には気を遣っているし。

 けどさ、異性として意識し始めるとか、ありえなくない⁉︎ 

 あいつのこと好きになるなら本性を知った上で好きになりなさいよね!

 神セブンの肌に触れる度にレオンに対する恋慕を見せつけられているあーしの気持ちにもなりなさいよ。

 控えめに言ってマジムカつくんだから。

 だいたいあの変態を崇拝の対象――信仰するのがそもそもおかしいんだって。

 レオンなんか、見捨てられればいいのよ。みんな、みんな、あいつにはもったいない才女なんだから。

 まっ、まあ……美少女に養ってもらうのがレオンの夢のようだし?

 どうしてもって言うなら面倒ぐらい見てあげてもいいかな、なんて……?

 だからあーしはあえて傍観を決め込むことにした。

 だって、みんな盲目になっているせいで本性を明かしても全然信じないんだもん。

 というか、あーしが恋敵を減らそうと躍起になっているとか食い下がってくる始末。

 いや、もうマジでどうなってんのよ。

 だからみんなには悪いけど、自然とレオンの正体に気付くまで放置することにしたわけ。

 

 美少女のヒモになりたい、美少女に養って欲しい――孤児院経営はそのための一環だった。

 きっとその事実を知ったとき自分たちが夢を見過ぎていたこと、色眼鏡をかけていたことに気づくはず。

 信頼していたからこそ失望も大きいと思う。けどそれは大人になるための通過儀礼よ。

 レオンには悪いけれど神セブンのみんな悪い男に引っかからないよう、悪い見本になってもらいましょ。

 安心しなさい。

 たとえみんなが巣立ってレオンの世話を見なくなってもあーしだけは傍にいてあげるわ。

 そうね。可哀想だからちょっとぐらいならセクハラも許してあげてもいいわ。感謝しなさいよね! 

 クウやスピア、シオンたちから手を引かれ、強制的に連れて来られたことにうんざりしている間にも、みんなの気持ちが直接あーしに流れ込んできた。

(どっ、どどどどういうことですの⁉︎ レオン様の衣服が乱れていらっしゃいますわ! おっ、落ち着いてくださいませみなさん!)

 とレティファ。あんたが一番落ち着きなさいよ。あとレオンの鎖骨をジッと凝視するの禁止! 

(着崩したレオン様も素敵ですわ……)

 はぁっ⁉︎ あんたマジで頭イカれてんじゃないの! ちょっ、あいつのことエロい目で見てんじゃ――! 

(響さんがあんなに泣き崩れて……まっ、まさかレオンに愛の告白でもしたんじゃ……! 時期尚早よ響さん師匠! 迫りたくなる気持ちも分かるけれどレオンは私たちのことで頭がいっぱいの時期。タイミングが悪いわよ!)

 レベッカ。あんたにはアレがそんな光景に見えてるわけ? いや、どこをどう見ても違うでしょうが! 

 だいたいすごく癪だけど、アイツの中で大人のレディは響さんだけ。

 まっ、まあセクハラしてくるあーしもレオンが異性として意識しちゃう一人ではあるけれど、響さんの告白をアイツが断るなんてことあるわけないでしょうが! 

 チッ、ああもうこんなこと思わせないでしょ! ムカつくでしょうが!

(もしかしてこれが男女の修羅場というものでしょうか。これはぜひ取材しないといけませんね。私、気になります!)

 スピア。あんたは作家魂に火をつけすぎ。というかあーし、知ってるんだからね。

 あんたそっくりのヒロインとレオンそっくりの主人公(白馬の王子様)がただひたらすイチャイチャする作品を書いてることを。

(ふふ。レオンさんは優しいですし、取材と称してデートに誘うのもいいかもしれませんね。もし振ってしまったのでしたら断ったレオンさんの方が傷ついているでしょうし、どさぐさにまぎれて恋人繋ぎというものを経験するのもいいかもしれません)

 いいわけねえだろっつうの! スピア! あんた見た目に反して小悪魔思考をやめなさいよ! いい加減に――、

(おっ、お父さんがお母さんに迫ったなの!)

 ちょ! ダメよ! あーしというものがありながらなに他の女にちょっかい出してんのよ! 

 響さんに告白なんかしたらもう絶対にセクハラさせてあげないんだから! 

 覚悟しておきなさいよ⁉︎

(あれ……首筋に唇の跡が残ってませんか? まっ、まままさか⁉︎ やはりレオン様と響様はそういう仲だったのでしょうか)

 そこどきなさいよエリス! レオンが見えないじゃない! 

 どうせすれ違うからと、響さん対策は後回しにしていたツケがこんな形で⁉︎ 

 ダメよ、あいつの初めては全部あーしがもらってあげるって決めてるの!

「リディア、早く盗聴の魔術を発動しなさいよ!」

 うっさいレベッカ! いま、あーしはそれどころじゃな――、

(響さんの股下に血痕が落ちていますわ! どういうことですの! まさか本当に一線を越えられて――⁉︎)

 ああもう! あんたらの邪念、ほんっっっっとに勘に触るわね! 少しは自重しなさいよ! あーしにくっ付いたら内心ダダ漏れになることぐらい、長い付き合いのあんたらなら知っているでしょうが!

 レベッカの「押さないで、絶対に押さないで」という言葉を耳にしたん、なんとなくヤバいと思ったときには手遅れ。

 執務室に雪崩落ちるあーしたち。

 首筋に残った唇の跡、声を押し殺すようにして泣く響さん、彼らの乱れた衣服に血痕――。

 そして、乱入と同時に血の気が引いた真っ青なレオンの顔。

 あんた、マジで一体何をやらかしたのよ!

 みっともなく転倒したものの、何事もなかったのように開き直りすぐさま響さんの元に駆けつけるエリスとレベッカ。

 レティファ、シオン、スピアは状況の説明を求めるようにレオンの足元へ。

 私は読心術を発動。異能による接触なしにレオンと会話ができるようにパスを繋ぐ。

(どっ、どどどどどうしようリディアちゃん! 響さんにセクハラしてマジ泣きされちゃったところにみんな来ちゃったよ⁉︎)

 

 ……。

 …………。

 ………………ふーん。へー。


 なーんだ。やっぱりそういうことだったんだ。


















 ――いいこと思いついちゃった。

 あーしの中に黒い感情が芽生える。

 生殺与奪の権を握っちゃった。


 上手くいけば、どうしようもないダメ男をあーし無しじゃ生きられないようにできるかも……。ここで正体がバレたら味方でいてくれるのはあーしだけ……よね?

 レオンには悪いけど、ここでみんなの目を覚まさせてもらおうかしら。

 この状況下で見落としがあったとすればそれは――。

 すでにこのとき神セブンのレオンを慕う気持ちがただの人間にどうこうできるものじゃないことだったってこと。

 それは成人してこの孤児院を巣立ったあともずっと思い知らされることになるのは――また別のお話ね。

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