第41話【レオン視点】
どうもみなさんこんにちは。
愛しい女性にセクハラしかできない最低クズ野郎レオンです。
修羅場です。
セクハラ&パワハラ、通称セ・パ交流戦をしているときに娘たちが乱入してきましたとです。
神セブンから見れば父親の俺が母親の響さんにおっぱいを迫るという決定的場面。
しかも響さんは声を押し殺して泣くという――。
クソッ! ここまでか! 変態ドスケベ院長ここに敗れたり。ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
見た目は平然、中身は苦悩状態で突っ立つ俺。
どどどど、どうする! どうすればいい! なんと言えばみんなの好感度を維持できるんだ⁉︎
もういっそシオンだけ誘拐して『おもてなし』生活で後生を過ごすか?
大きくなったら食事も排泄も全部やってくれるつもりらしいし、ハーレム亡き今、俺に残された選択肢なんてそれぐらいだろう。
幼女に養われる大きなオジさん。クソッ、どこまで俺は無様になれば気がいいんだ!
「……お母さんの口から血が出ているの、なの! エリス、治してあげて欲しいの!」
とクウ。
響さんの口――というより犬歯から滴り落ちる血と床に散らばった血痕。
さらに俺の手には首筋を擦ったときに付着した血がべっとり。
乱れた衣服。荒い呼吸に紅潮した頬。土下座して涙ながらに謝罪する女性。
……。
…………。
………………。
あれ、ヤバくね? 想像以上にヤバくね?
これもうDVじゃね? ドメスティックバイオレンス。
俺が響さんに暴力を振るったみたいに見えるんじゃなかろうか。
「あのレオン様? 失礼を承知でお聞きするのですが、この部屋で一体何をされておりましたの?」
とレティファ。正直に告白するとセクハラとパワハラです。
あかん、打ち明けられるわけがない! そんなことをすれば積み上げて来たものが一気に瓦解する! 俺はまだロリヒモ光源氏計画を諦めるわけにはいかないのだ。
とはいえ、DV男はありえない。そんな落胤を押されるぐらいなら死んだ方がマシだ。
きゃわわな響さんを撫で回すことはあっても傷つけるようなことなどできようか。いいや、できない。
そもそも暴力を振るおうものなら俺がフルボッコだ。だって相手はあの殺人鬼。
推測だが、響さんは俺の血を吸っていたことをバラされるのは本意じゃないだろう。
だがしかし。
このままでは俺が変態ドスケベクズ院長から寮母長に暴力を振るう本物の屑院長になってしまう。
それはさすがの俺も望むところではない。
ここは正直に告白してもらおう。そう思い、響さんに視線で合図を送ったところ、
「まっ、待ってくださいレオンさん! さっきのことはその……私たち二人だけの秘密にしていただけませんか?」
「「「「「「「⁉︎」」」」」」
ええっ⁉︎ そんな絡め手ありですか響さん!
『まさか俺にチューチューしていたことは伏せてくださいと⁉︎』
「チュー⁉︎ チューってどういうことよ!」
と全く予想していない方からツッコミが飛んでくる。
視線の先には両目に涙を浮かべたリディアちゃんである。
しまった……!
たしか読心術を発動して会話が開通してたんだっけ。
あまりの衝撃に全力のツッコミをリディアちゃんに飛ばしてしまったじゃん! どうすんのこれ!
余談だが、リディアちゃんの読心術は魔力回路を接続することで、心の声――会話をすることができる。
この場合、胸中の感想などはそのままに発信する言葉だけ調節できるという優れた魔術である。
ただし、コントロールが困難で油断した瞬間に感想が会話として認識されてしまうときがある。
よりにもよってチューのところを盗み聞かれて……まっ、まずい。
「まずい? 何がまずいのよ! 言ってみなさいよ!」
俺の脚にしがみついて揺すってくるリディアちゃん。これで内心も筒抜けである。
というか、パワハラ会議始まってんじゃん! ひどいよ、こんなのあんまりだよ!
どうやって収拾すればいいのさ!
「いや、今のはリディアちゃんの聞き間違いで……」
「はぁっ⁉︎ 読心術を否定しているわけ⁉︎ 言い訳とかサイテー! あーしが聞き取ったことは絶対なの! あんたに否定する権利なんかない! あーしが聞いたことが正しいんだから!」
ちょっ……! まさかの嫉妬狂いですか? なんだこの可愛いパワハラ上司。全然怖くないどころか、愛おし過ぎて抱きしめたくなるんだけど!
「そうやって都合の良い言葉で誤魔化してんじゃないわよ! 返答次第じゃマジで許さないから!」
「……チュー⁉︎ もしかしてレオンとチューしたの師匠⁉︎」
とはレベッカ。
さすがは女の子。そういったことに敏感なお年頃なんだろう。
リディアちゃんの暴言を皮切りに執務室が騒がしくなり始めていた。
まずいまずいまずい! なんか全く予想していない事態に急変して――!
「あれ……響さんの肌、いつもよりすごくツヤツヤしていませんか」
エリスたん! エリスたああああああああああああああああああああああああああん!
お願いだから空気読んで! それはたぶん俺をチューチューしたことで肌にキラキラのエフェクトが付く――吸血鬼特有のそれだよ!
たぶん俺から養分を補充したんだよ!
お願いだからそこを追及しないでもらえる⁉︎ これ以上ややこしくなったらオジさんもう手に負えない!
誰か助けて! ヘルプミー! へルピミー!
なんでだよ! なんでいつもこうなるんだ! パワハラ&セクハラは悪。そんなことは俺だって知っている。
でもそこまで法外な取引でもなかったでしょ⁉︎ ちょっと役得をもらおうと思っただけじゃん!
「ほらっ! やっぱり! チューしたんじゃない! 浮気者! マジ信じらんない! しかもあんた――院長という立場を利用して響さんに迫ったの⁉︎ ほんっっっっとサイテー! バカ! 変態! ドスケベ!」
ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
なんかここぞとばかりにリディアちゃんがめっちゃ冷たいんですけど⁉︎
俺の聖人ムーブで固めたメッキを引き剥がそうとめっちゃ必死なんですけどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお⁉︎
「おっ、落ち着いてくださいリディア。こっ、これはその……(ポッ)」
おいいいいいいいいい! 響さん! 貴女という
なんでこのタイミングで乙女に⁉︎ いくらなんでも今はダメなんじゃない⁉︎
えっ、これもしかしてハメられた?
「はっ、ハメ――ハメられ⁉︎ ちょっ、いい加減にしなさいよ! 執務室でなにしてたのよ!」
違ああああああああああう! ハメられってそういう意味じゃなくて――というか、ちょっ、ダメだ。なんかものすごいスピードで俺が変態ドスケベ院長になっていく!
ちょっと離れてよリディアちゃん!
「白状するまで離れてなんかやらないわよ!」
小ちゃなお手てで俺の片足にしがみつくリディアちゃん。
おっ、落ち着け……! まずは深呼吸。
「あっ、あわわ……やっぱり響さんとレオンさんってそういう仲だったんですね」
スピアちゃん! 何言ってんのスピアちゃん!
このカオスを解決するためには響さんの助力が必要不可欠。
早く冷静さを取り戻してもらわないと。
いや、待てよ。むしろセクハラしようとしていたことがバレるより、このままの方がいいのか……?
「みんな聞きなさい! いま、この男、響さんにセクハラしようとしていたことを認めたわよ!」
「「「「「「「「えっ⁉︎」」」」」」」」
ご乱心だ。ギャル魔女リディアちゃんの暴走がすぎる。
「レオンさんが私にセクハラ……?」
何かを思い出しかのように視線を逸らし頬を紅潮させる響さん。その様子は誰がどう見ても照れている。
なんで? なんでセクハラしようとしていたことが発覚して照れてんの? いま、どういう思考回路ですか?
いや、可愛いけど! 可愛いけれども! けどここであった本当のことを告白できない以上、その反応はダメでしょうよ!
追及を食う俺の身にもなってくださいって――!
「響さんとチューって……どういうことレオンちゃん?」
ほら消えた。シオンの瞳から光が消えた。
なんか変なスイッチ入っちゃったじゃん。
「響さんとレオンさんはいつからそういう関係だったんですか? スピア、気になります!」
スピア、目を輝かせて響さんに何を聞いてんだゴラァ!
「いっ、いい加減にしてください! 私とレオンさんは決してそんな関係じゃありません! 今までもこれからもです!」
ぎぃやあああああああああああ! それはそれでダメでしょうよ! こっちは必死に距離を詰めようとしているのに、そんなにハッキリと断言しちゃう⁉︎
身に覚えは――あり過ぎて困る。そうですよね。響さんのおっぱいの感触を堪能する男なんて気持ち悪いですよね!
「ひっ、響さんのおっぱいを堪能⁉︎ あんたたち本当にここで何してたワケ⁉︎」
「れっ、れれレオンさんっ⁉︎」
胸元をバッと腕で隠すようにして退く響さん。彼女は知らない。その行動さえもたわわな果実を盛り上がらせ、逆にエッッッッになっていることを。
そしてこの感想をリディアちゃんに読まれていることも。
「響さんの胸ばっか、気にしてんじゃないわよ!」
私は貝になりたい。
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