第38話【レオン視点】

 どうもみなさんこんにちはレオンです。

 死にたくありません。

 僕は…僕は死にましぇん! 

 とりあえず響さんには百一回プロポーズをしようと思っています。鬼告ってやりますよ。ストーカーのようにな!

 先に尽きるのは俺の命か、響さんの精神か。

 まさしくdeadデッド orオア dieダイ

 あかん、それどっちもワイが死んどる。aliveアライブはどこ行ったアライブは!

 と、脳内でふざけ倒さないと自我を保っていられないくらいには焦っていた。

 いや、そりゃそうでしょ。だって状況を考えてよ。

 まず執務室でキレた元殺人鬼と二人きり。

 この時点で俺のタマタマは縮こまっている。そこに加えてドスケベ院長による数々の失態。愛想を尽かされるのには十分なそれである。

 極めつけは私が始末しますという宣言と鞘から抜き去った真剣。

 ……これ助かる可能性ある? 現状、微レ存だけでもありがたいレベルよこれ。

 しかし、俺には夢がある。

 綺麗なお姉さんに抜いてもらって感謝されるという夢が。

 あっ、もちろん血のことですよ。

 エッッッな方はしばらく控えようと思います。いや、控えるも何も俺、童貞なんですけどね。やかましいわ!

 

「お願いします! 私はまだ響さんと別れたくないんです!」

「えっ⁉︎ どういうことですか⁉︎」


 俺の嘘偽りざる告白に響さんがここ一番の驚きを見せていた。

 んん⁉︎ どういうことですか、ってどういうことですか⁉︎

 えっ、なにその反応。まさか俺が死にたがっているとでも思っていらっしゃる?

 こっわ! うちの嫁さんこっわ! マジの鬼じゃねえか!


 とはいえ、未だ吸血を頑なに断り続ける響さんに初めて響いた様子。ここは倍プッシュ。伝説のナンパ王の指南書にしつこい男になれ、と書いてあったことを思い出す。

 粘り腰のレオンという異名は伊達じゃないことを見せてやりますよ!


「これからもずっと一緒に孤児院をやっていきたいんです! その為に私たちはもっと奥深くまで繋がる必要があると思いませんか⁉︎」

「おっ、奥までですか⁉︎」

 

 あかん。素が変態なせいか、妙な言い回しになってしまった。もっと奥深くまで繋がるってエッッッッロ。なに考えてんねん。

 命の危機に瀕してまでピンク一色とか引くわ! 引くな!

 しかし、俺には若干の勝算があった。数字にして0.01%ぐらい。

 血の味見さえしてもらえれば鬼としての本能が勝り、理性を取っ払ってもらえるはず。

 くそっ、避妊具ならこのぐらいの薄さでもいいが、生存確率にしては低すぎるだろ!

 命の危険に晒されておきながらこんなことしか考えられない院長マジ院長。


「……もう一度おっしゃっていただけますか?」

「えっ?」

「さっきレオンさんが口にした想いをもう一度ぶつけていただけますか? その……できるかぎり心をこめて」


 こっ、これはまさかのチャンス到来か⁉︎

 打算と下心しかなかった思いの丈でも優しい響さんに届いたのだろうか?

 まさかの変態ドスケベが功を奏したのかもしれん。誰だ俺の長所を短所とか言ったやつは! あっ、俺か。

 なんにせよ俺の妙な言い回しが響さんの鬼としての本能を刺激したのは間違いない。やっぱり彼女も吸血牙を突き刺し、一つになりたいに違いない。

 たしかナンパ王の指南書にも『女には言い訳をもたせろ』と書いてあった。

 女性は心理上、自分が悪いと思い込まないよう生きている、と。

 男がという言い訳を欲しがっているとか、なんとか。

 吸血衝動やその場面を神セブンを含め俺たちの前で見せなかったのは鬼としての一面を見せたくなかったからだろう。小さな孤児たちには恐怖を抱かせてしまうかもしれないからな。

 つまり、吸血は響さんが衝動を抑えられなかったのではなく。俺が生き延びたいからこそ提案した、という方向に持っていくのである。やれやれ。マジで天才だな。

 なんでモテないんだろう。


「響さんと奥深くまで繋がりたいです!」

「!!! なっ、ななな……そっちじゃありません! 貴方は一体なに考えているのですか!!」


 ブンブンと真剣を振り回してこちらに詰めてくる響さん。

 さようなら神セブン。美少女や美人になった

みんなのヒモになる夢こそ叶わなかったけど、たくさんの思い出を胸に旅立つよ。

 これまで女の子に一度も褒められたことがなかった俺の承認欲を満たしてくれてありがとう。これまで愛情に飢えていたからだろうけど純情な幼女からの「すごい」「カッコいい」「天才」は最高の褒め言葉だったよ。

 幼女に認められて本気で嬉しくなるオジさんでごめんね。さようなら。


「レオンさんはいやらしいです!」


 はい。すみません。それは自他ともに認めます。

 そうですよね。殺人鬼とはいえ、元々は孤児たちに無償の愛を注ぎ続ける聖母でしたもんね。

 多分口にして欲しかったのって、前者の方ですよね?

 間に合うかわかりませんけど死にたくないんで一生懸命心を込めて言わせていただきますね。


「これからもずっと一緒に孤児院をやっていきたいんです!」

「遅いですよもう!」


 どうやら手遅れのようです。あざした。ナマ太ももの感触だけ味合わせて黄泉の國に逆戻りとか生殺しもいいところですよ。


「そっ、そんなに私がいいんですか……?」


 好調した頬でチラチラと俺の方へ伺ってくる響さん。舌の根も乾かない内からこれである。

 俺は思った。

 ちょっろ〜。まさかのチョロインですか響さん。

 あっ、いやわかってます。わかっていますよ。これがラブコメのそれじゃないことぐらい、童貞を拗らせた俺だってよーく理解しています。

 姿見で顔面を見るたびに『マジでジミ面だな』と嘆くのが日課のレオンさんですよ? 

 中の下の顔面偏差値しか持たない俺が万に一つも顔面偏差値二千オーバーな響さんに惚れられているなんてことがないことぐらい知ってますよ……辛え。

 ああ、俺もラブコメの世界に行きてえな。誰がどう見てもヒロインがデレている場面に遭遇しておきながら「えっ、なに?」みたいな難聴のふりをしてみてえよ。

 見てくれよ。目の前には真剣を振り回す赤鬼ですよ。マジで切り捨て五秒前。助けて神セブンのみんな! 

 たすけてリディアちゃぁぁぁぁぁん!

 

 響さんの、『吸血したいけど、あくまで仕方なくなんだからね!』という言い訳を欲していることを察知した俺はここぞとばかりに畳みかけることにした。

 こんなどうしようもないドスケベ野郎の血で良ければいくらでも吸ってくだせえ……!


「言っておきますが、私だって鬼なら誰でもいいというわけではないんですよ。他ならぬずっと一緒にいたい響さんだからこそ吸って欲しいと思っているんです。もしも私が誰にでも吸わせるような男だと思われているなら心外です」


 一体、なにを食べ、どういう人生を送ればこんな台詞がすらすら出るようになるのだろうか。もしかして俺は詐欺詐欺サギサギの実でも消化しちまったんだろうか。

 というか、見事に男女が逆転した台詞じゃない? 

 ふつうベッドの上で「言っておきますが、誰でもいいわけじゃないんですからね! レオンさんだからこそ」と響さんが口にする台詞だよね。いつになったら響さんと子づくりに明け暮れる生活、いや性活を送れるようになるんだろうか。理想が遠過ぎて泣きたいよ。


「いいですか。私はこれからも(生きていたいので)孤児院を経営したいと思っています。そしてその隣には響さんに寄り添っていただきたいです。そのためには吸血衝動に対応できる信頼できるパートナーが必須だと考えました。先ほども申し上げましたが生理現象と変わりません。それ自体に罪などないですし、むしろ制御コントロールを誤ったり、抑えつけ過ぎた反動の方を気にすべきでしょう。ですから、私の寝込みを襲おうとしたことに罪悪感を持つ必要なんてないんです。喉が渇いたからそれを潤そうとした。たったそれだけのことじゃないですか」


 さて、例のごとく聖人ブームをかまし、全面的に響さんを肯定。

 これでダメなら俺は未練タラタラで黄泉の國に旅立つことになる。

 響さんはかつてないほどに見せたことのない複雑な表情――きっと葛藤しているに違いない――で、俺の目を見据えていた。

 まさしくdead or alive。願わくばaliveを勝ち取れんことを!


「うっ……ぐっ……!」


 悩む響さん。これは――押せば堕ちてくれるか? 俺の愛読書ナンパ王によれば『女はとにかく押して押して押しまくれ。強引なぐらいでちょうど良い』と書いてあった。

 だからこそ俺は人生で言ってみたい台詞ベスト3にランクインするそれを口にした。


「先っちょだけ、先っちょだけでいいですから」


 いつかベッドの上で言える日が来ることを切に願いたい。


「――っ、じゅる」


 理性と本能のせめぎ合い。吸血衝動という名の発情モードなのか、響さんの柔らかそうな唇からよだれが滴り始めていた。

 ヤレる――!

 そう確信した俺は首筋を肌けさせ、誘惑するように見せつけることにした。


「なにごとも経験です。私の血が飲めたものじゃない、不味いものや副作用が出た場合はまたそのとき一緒に考えればいいんです。我慢することはありませんよ。味見だけしてみませんか?」


 そのお誘いを最後に響さんは目にも止まらぬスピードで迫ってきた。

《瞬歩》――いや《縮地》だろうか。

 さすが元殺人鬼。王都の大罪人を切り捨てて来た鬼。隙のつき方がエゲツない。


 目と鼻の先にまで迫る響さん。

 よく見ると瞳孔が見開き、鼻息も荒くなっている。唇からはよだれ。


「ほっ、本当に本当に本当にいいんですね――⁉︎ 加減はもちろんしますが、久しぶりで上手く調整できないかもしれません。私の意識が戻ったら飲み干していた、なんてこともないとは言い切れないのですよ?」

 

 マジですか。気づいたらミイラになっている可能性もあるんですね。それはやっぱり嫌だなぁ……。

 どうせ搾り取られるなら赤じゃなく白濁の方をお願いしたいのですが。

 それならなんの躊躇もなくお願いするんですが――。

 しかし、これは響さんなりの最終警告なのだろう。ここで俺の誘いに乗ってきたということは家畜にするつもりはあっても絞り尽くすつもりはないということ。

 ならば俺の答えは決まっている――って、ええ⁉︎ あの響さぁぁん⁉︎ どうして俺の頬を愛おしそうに撫でていらっしゃるので?

 しかも眼も虚にとろんと溶け始めてません⁉︎

 ええい、ままよ! 転んでもタダでは起き上がらない、それが変態ドスケベ院長だ!

 飲み干される可能性もあるなら役得がないと割に合わない! 響さんの柔らかさを堪能してやるぜ!


「おっ、お手柔らかにお願いしますね。それと――情けないことを承知でお伝えしますが、怖いので手を繋いで抱きしめて――「――ごめんさい、もう待てません! いただきます!」」


 ――いやあああああああぁぁぁぁぁ――柔らかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁい!

 なんと響さんは俺の言葉を待たずに指を絡ませ、強引に引き寄せるようにして俺の吸血童貞を奪い去る。  

 本当に生身の人間の血に飢えていたのか、むしろ離さないと言わんばかりに強く抱きしめながらの吸血である。

 俺から見て右手は恋人つなぎ、背中にはもう片方の腕を回されるという、またしても男女逆転のそれである。

 首筋にピリピリとした神経痛が走るものの、想像よりは痛くない。というよりむしろ、心地よい痛みと言える。注射とはまた違ったそれだった。

 それよりも俺は感動のあまり意識を失いそうになっていた。

 響さんのおっぱいすげええええええええええええええええええええええええええええ!

 えっ、なにこれ! すごっ! むにゅむにゅって! むにゅぅぅぅむにゅぅぅぅって!

 苦しそうに俺の胸に押し当てられてんの! すげええええええ! ブラや服を着ているのにマシュマロなのかよ! ということはナマ乳はもっとすげえってことか⁉︎

 ふおおおおおおおおおおおおおおお!

 しゅしゅぽっぽしゅしゅぽっぽ! 最高おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

 うひょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

 こっ、これは思わぬ幸運だ!!!!

 だって吸血衝動に襲われる度にこの幸せすぐる感触を堪能できるってことなんだぜ?

 しかも片方の手は空いていて響さんの背中に回すことも可能。優しく抱き寄せたり、撫でる振りをしてブラホックの場所を探ることもできる!!

 やべえよ、これやべえよ! おっぱいだ! 俺は今おっぱいに包まれている!

「はぁ…はぁ…ごくっ、ごきゅっ。美味しい…美味しいよぉ…止まらない」

 しかも発情期、いや発情鬼の官能ボイス付きですとおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ⁉︎

 脳が! 脳みそが高温で焼いたお餅のように溶けちゃうよ! 震える! 脳が震えちゃう! 脳髄が焼き切れちゃう! 痺れちゃうよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 

「あっ、やっ、んんっ……! レオンさんっ……あっ、レオンさぁっん!」


 いつもニコニコあなたの隣に這い寄る混沌、レオンさんはここですよ。

 よし決めたぜ! 俺、家畜になる!!!!

 豚になるのも悪くないかおしれない!

 黒スト響さんに踏まれるのも悪くなさそうだよね!

 

「こんな美味しい血飲んだことない……!」

 ――チュー! チュー!

 ……あれ、やばい。おっぱいの感触に集中し過ぎて気がつかなかったけど、吸血速度早ない? めっさごっそり持っていかれている気がするのは俺だけ? 

 なんか段々とチカラが抜けて、瞼がおも、たく…な……って、き――。

 これ、が、本、とうの――dead or alive。

 やか……まし――。

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