第29話【レオン視点】

 どうもみなさんこんにちは。

 幼女に鼓舞されて、元気百倍、レオパンマンです。アーン、パーンチ!

 まさか幼女を元気づけるために幼女から勇気づけられるなんて。

 ……情けないオジさんでごめんね。

 というわけで、深呼吸。

 今にも消えてしまいそうに丸くなったシオンの傍に寄る。

「…………どうせレオンちゃんも私のことなんて要らない娘だって思ってるんでしょう? もう放っておいて!」

 シオンの十万ボルト。豆腐メンタル、みずタイプのレオンに効果は抜群だ!

 9999ダメージ!!

 こっ、これが娘に嫌われた父親の気持ち、なのか――⁉︎

 世の中のお父様方の偉大さが身に染みてわかる。

 しかし、ここで「シオンに嫌われたぁ!」と踵を返すわけにはいかない。それはあまりにもカッコ悪過ぎる。俺の後ろに道はない。

 君たちはなぜ目があるか知っているか?

 前に進むためだ(ドヤァ!←当然のことを言っただけ。

「よっこいショット」

 電車で対面に座った爺の先制攻撃『よっこいショット』を発動し、シオンの横に腰を下す俺。

 ……さて。とりあえず座ったもののなんと言って切り出すか。

 いや、無能な俺にできることなどしれている。『褒める』『撫でる』『髪を梳く』『抱きしめる』『手を握る』『セクハラ』『土下座』だ。

 泣く子も黙るレオンの七つ道具である。

 こうして改めて再確認するとマジで使えねえな。弱すぎ。ワロタ。いや、笑えない。

 まずはコマンド▶︎『撫でる』を選択。

 シオンの艶のある黒髪にやさしく手を乗せようとしたのだが、

「触らないで!」

 緊急事態発生! 緊急事態発生!

 脳内でけたたましい警報が鳴り響く。

 悲報。レオンちゃん、いよいよ『撫でる』を拒否される。

〈肉体から魂が離脱。至急蘇生を開始します〉

 口から魂が抜けて天に召され始める俺。

 機械的な女性アナウンスがぼんやりと聞こえてきた。

〈魂の回収に成功。肉体との融合を試行します。失敗。再度試行。失敗。再度試行。成功しました。コンマ二秒後、意識が戻ります〉

 ……はっ! いかん! あまりのショックに一瞬意識を失っていた。

 シオンは神セブンの中でも大人びた女の子である。リディアちゃんほどチョロくない。

 強敵だ。

 ミッション、シオンを慰めろ開始である。こちらスネーク。失敗しそう。帰還したい。

「――シオンは勘違いしている」

「勘違い? 勘違いってなに⁉︎」

 自分で言っておいてアレだけど俺が聞きたい。勘違いってなにが? なにが勘違いしているの?

 シオンを始め、神セブンのみんなが俺が聖人や賢者だと思っていること?

 うん、それはたしかにひどい勘違いだ。

 こちとら響さんの胸チラ、パンチラを決して見逃さないただの変態なのである。

 父親はおろか、そもそも恋人ができたこともない俺が幼女を宥めるなんてハードモードもいいところだ。

 前世じゃ少子高齢化が加速していた。俺のような幼女の一人も笑顔にできないようなクソ童貞を生み出さないために国は強制子づくり法案を提案するべきじゃないだろうか。

 くそ! 二次元ならやたらと可決される子作り政策さえあれば今ごろ俺は――。

 思考が横にずれ始めたところでシオンの顔が視界に入る。

 おそらく俺がリディアちゃんのお腹に泣きついているとき、シオンも泣いていたんだろう。目は真っ赤に充血して腫れていた。

 うぐっ……! あろうことか響さんだけでなくシオンまで泣かせてしまった。

 俺は七つ道具のコマンド▶︎『褒める』を選択! くそ! 本当に使えねえな俺!

「ここだけの話――私は神セブンの中でもシオンに最も期待を寄せている」

「――えっ?」

 一人取り残されてしまっているシオンからすれば、到底信じられる話ではなかったのか、目尻には大粒の涙をためて、目を見開いている。

 ちな本音である。そりゃそうだろう。シオンに潜む才能は『商売』

 もしも才覚を発揮し、商会でも興そうものなら一気にロリヒモ光源氏スパイラル達成だ。そりゃ期待もする。

 前世の日本で培った知識や知恵によるチートを展開するためにはそれをお金に換えるためのシステムを構築する必要がある。

 だがしかし。

 面倒なことはごめんだ!

 商人というのは人情さえも計算し、利益を出す人種である。

 つまり、ただの会話でさえも頭を稼働しなければいけない。

 嫌だァァァァァァ! 俺は脳死していたいんだ! 

 口をパクパクさせるだけで美少女から美味しい料理をあーんしてもらいたい。

 美少女の服を好きなときに脱がしたい。

 難しいこと、厄介ごととは無縁の生活を――いや、性活を送るんだ。

 そのためにはなんかそれっぽい言動をしただけで、後は勝手にパトロンが活躍して欲しい。幸い俺には【天啓】がある。決して不可能な話じゃない。

 たとえば俺は響さんのグラビア、水着姿やコスプレを堪能したいと思っている。

 この世界には『モデル』『写真集』『可愛い/エロい下着』などがない。

 今後俺は女性の魅力を引き立てる化粧品や衣服、下着といった方面にもチカラを入れていきたいと考えている。第二、三期生にそういった才能がある娘がいれば快く引き取りたい。

 しかし。

 流通網の構築、情報の収集、製造などは丸投げしたい。だけ堪能したいのである。

 そのためには顔が利く商人が欲しい。

 そんな状況でシオンの秘めた才能が『商売』

 今の俺はヨダレを垂らしながら待てを命じられた犬同然。

 ……もういいかな。響さんの了承こそ確認できなかったが、ダメ男製造機ことバブバブリディアちゃんからお許しも得たわけだし。

 さっきまでは欲望に塗れることを躊躇してしまっていたけど……でも、こういう大事な状況って、心にもないことを口に出しても響きかないと思うんだよね。

 結局、人間を突き動かすのはハートだよ。

 ――よし。ゲスに振り切ろう。

 俺は鼻息荒くして、いつのまにか強引にシオンの両手を握っていた。

「シオンが要らない子? とんでもない! 必要不可欠な娘に決まっているだろう! いいか、よく聞きなさい。シオンには『商売』の才能がある。思い返せばその片鱗はあった。読み書きや計算、知恵を絞る方面に関して神セブンの中でも右に出る者はいない。I have a dream。私はね――夢があるんだ」

「レオンちゃんに夢……?」

「ああ、そうだ」

 裸ワイシャツ。スク水。メイド服。JKの制服。スケスケのTバック。花柄の刺繍されたカップ数の大きな可愛いブラジャー。縦セタ。

 可愛い女の子に可愛くてエッチな衣装や下着を身につけて欲しい。

 響さんだけじゃなく、町を歩く全ての女性がエロ可愛いくなればいいと心の底から思う。

 外を出歩きたくない? ノンノン。ちょっと都会に足を運ぶだけで薄着のお姉さんやブラチラした女の子に会えるんだよ。引きこもってなんかいられないよ。

 可愛いは正義。可愛いは罪。

 エロいは正義。エロいは罪。

 そういう世の中になって欲しいんだよ俺は!

 けれどそのためには網が必要だ。商品と情報の網を張り、感情を上手く操作コントロールできる人材が必要不可欠だ。

「いいかい。まだまだ幼いシオンにこんなことを話すのは早いかもしれない。だが、私の言葉を理解できるのはおそらくシオンだけだ。聞いて、もらえるかい?」

 いつの間にか紳士スイッチがオンになっていた俺はイケボになっていた。CVは大塚明夫氏のつもりで聞いてくれ。

「私だけ……レオンちゃんの夢の話をできるのが私だけ――」

 なにやらシオンは恍惚に表情になり、うろんな瞳で俺のことを見つめてくる。

 響さん(バージョンJKコス)のパンチラを見てえな、とか平気で考えているんでそんな真祖を見るような目を向けられるとさすがに罪悪感が。

 けど俺は止まらねぇからよ……。死ぬときはでっけぇおっぱいに埋もれて死にてぇからよ! だから俺はその先にいるぞ!

「これを見て欲しい」

「えっ……これって――」

 俺が胸から取り出してきたのはロリヒモ光源氏計画がまとめられた羊皮紙だ。

 これは賭け――だ。

 賢のシオンなら経営方針がまとめられた裏に隠された欲望――俺のヒモ計画に勘づく恐れもある。たとえ幼少期を騙せても大きくなるに連れて違和感を抱くかもしれない。

 下手をすれば寄付を募る前に俺が生きる価値のない変態ドスケベ院長だと気づいてしまうかもしれない。

 だが。

 勝負をしない者に勝利の女神が微笑むことは決してない。

 響さんの生着替え。生パンツ。水着。コスプレ衣装。ポロリ。それを拝むためにはシオンが商会を立ち上げ、商品開発という大義名分が必要だ。

 その後ろ盾を得るためにはここでシオンを心酔させるしか道はない。

 俺だって辛い。幼女の純情を利用するような真似をしているんだから。

 けど俺はナマ乳が見たいんだ! 下乳を拝みたい!

 そんな俺の本心など知るよしもないシオンは食い入るように経営方針がまとめられた資料を食らいつくように見つめている。

 執務が苦手な響さんと違い、数字に強いシオンは表面上はそれなりの出来になったそれから目を離せないようだった。

 ちなみにワシ、中小企業診断士の資格持ってましてね。経営計画を立てる企業や作成のお手伝いを腐るほどしてまして。

 このぐらいならちょちょいのちょいさー。

「すっ、すごい……完璧だわ」

 そりゃそうでしょうよ。そこには美少女に養われたい俺の欲望が書き記されている。その緻密さには自信しかない。

「さすがシオン。一目見ただけでこの計画を理解したか――」

 レオン七つ道具『褒める』『撫でる』『髪を梳く』の三つを同時発動。自分で言うのもなんだが、超絶技巧である。これをやられた神セブンは気持ち良くなる!

「――どれだけ綺麗事を並べたところで孤児院の運営にお金が必要なことは言うまでもない。私はできるかぎりこの孤児院を長く続けていきたい。そのために卒院した娘たちから寄付を募ろうと思っている。だが、『商人』の才能を持つシオンは他の娘たちよりも多くなってしまうだろう。娘であり、弟子であり、妹であるみんなから寄付してもらうことに私とて抵抗がある。しかし、第二、三期生――もっと長い目で見れば二十期生、三十期生と一緒に成長を見守っていくためには資金提供元が必要だ。幸い私には知恵と案がある。しかし、それを現実にしていくためには商会が必要だ。私の言いたいことがわかるかい?」

「うん……うん……」

 まるでようやく生きる道を見つけたと言わんばかりに大粒の涙をぼろぼろと流すシオン。

 溢れて落ちた雫は地面を濡らしていく。

 ……感動的な場面なのだろう、きっと。

 こんなドスケベ院長の役に立ちたいと願い、それができないと悩み、涙を流してくれたシオン。ようやく悲願を果たすことができると今度は嬉し泣きである。

 いや、もうマジでごめん。こんなどうしようもないクズでごめん。

「私はずっと迷っていたんだ。シオンに秘められた才能のことを打ち明けるかどうか」

「……どうして?」

 シオンは本当にわからない表情を浮かべる。

 このとおり。純粋で優しくて可愛い幼女だからだよ。いくら俺がヒモでも一人の女の子人生を縛る権利はないからさ。

「心優しいシオンのことだ。きっと私のために役に立ちたいと思ってくれるだろう」

「もちろん! 私の夢はレオンちゃんを甘やかしてダメ人間にすることだもの!」

 えっ、なにそれ。しゅごい。初耳! シオンは言うまでもなく美人が約束された美形である。今はまだつるぺたすとーんだが、きっとスタイル抜群の美女になるだろう。属性は愛人。大人の色香を醸し出すはずだ。

 ――そのときはシオンに永久就職させてもらおうかな。たぶんその頃にはもうお金にも困らないほど稼いでいるだろうし。

「大きくなったら、レオンちゃんのお世話を全部してあげる。食事も入浴も排泄も全部。たしかおもてなしって言うのよね? レオンちゃんは呼吸だけしてくれたら大丈夫だから」

 食事も入浴も排泄もってそれただの介護やないかーい!

 と軽く心でツッコんだものの……怖っ! シオンのおもてなし怖! それもう完全に廃人になっとるやないか! どんだけ快適な環境とサービスするつもりだ。

 えっ、さすがに冗談だよね? それ表現を換えたら軟禁・監禁の部類じゃね?

「……はぁ……はぁ」

 いや、チミ、なに呼吸乱してんねん。

 瞳孔も開き始めとるやないか。

 こわ! えっ、こわ!  

 前言撤回。脳死はやめる! 脳死はやめておくわ! 俺はまだ人間をやめたくない。

 あれ、これひょっとしてやべえヤツにやべえ才能を示して、しかもとんでもない秘密まで共有させちまったんじゃね?

 一番お金を持たせちゃいけない人種だろ、これ。

「ワタシ……タイキン…カセグ」

 なんかカタコトで呟き始めたんですけど⁉︎

 俺より前に人間を辞め出した幼女が目の前にいるんですが⁉︎

 ええい、ままよ! 俺の後ろに道はない。

 どうして目が前についていると思う。

 それは前に進むためだ!

「私の夢のためにシオンの才能を貸して欲しい。もちろん一生とは言わない。何か別の道を見つけたら迷うことなく進んで欲しいとも思う。けれどそれが見つかるまで私のために稼いでくれるかい?」

 俺は一体幼女に何をお願いしているんだろうか。クズここに極めたり、である。

「ええ! 末長くお願いするわ!」

 いや、快諾する幼女もどうなん?


 ☆


「どっ、どどどどういうことよ! レオンが一番期待しているってどういうこと!」

「ふふっ。落ち着いてくださいませレベッカ。あれば言葉の綾というやつでしてよ」

「いや、そういうあんたが落ち着きなさいよレティファ。それレベッカじゃなくてクウに話しかけているわよ」

「嫌なの! クウもお父さんに期待されたいの! シオンだけずるいの!」

「よろしい。ならば戦争です、ですね」

「「「「「⁉︎」」」」」

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