第25話【レオン視点】

「全く貴方という人は――反省してください!」

「すみませんでした」

 

 どうもみなさんこんにちは、エッチがしたいレオンです。

 響さんに筆下ろしをお願いしたいのですが、なぜかぷりぷりお怒りです。

 俺が男爵にボコられたから? 誘拐されたから? 自力で抜け出そうとしなかったから? パンチラを拝もうと躍起になっていたから? 響さんでエッチな妄想していたから?

 身に覚えが無さすぎる!

 俺だって男の子なんだ! 太ももを撫で回したい、挟んで欲しい、手を忍ばせたい、膝枕して欲しいって思うことが罪なのかよ!

 たったそれだけで有罪なのかよ⁉︎ 

 女の子に触れてみたいと思うことが罪だというなら一生犯罪者でいい! それが俺の生き様だ!

 なんかカッコいいな。今度叫んでみようかな。えへへ。

「さてはまた聞き流していますね!」

「痛い痛い痛い! あの、響さん⁉︎」

 どうやら響さんの説教をテキトーに流していたことがバレたらしく耳を引っ張られる俺。

 殺人鬼だったとはいえ、あの優しい響さんがいよいよ手を出し始めたぞ?

 ぼっ、暴力反対!

「いつも申し上げていますが――少しは私たちの立場に立った言動をお願いします。私のことを想ってくれているのは嬉しいです。ですが、(それでレオンさんが危険な目にあうぐらいなら)ありがた迷惑です!」

「ぐああああああああああああ!」

 いちげきひっさつ! 

 レオンは白目を剥いている。

「これに懲りたらご自身を危ぶめる行為は謹んでください……ぐすっ、いいですね?」

 ぐすっ……?

 鼻声が気になったので急いで視線を上げると響さんの目には涙が溜まっている。

 あっ、ああー。

 それを視認して一気に血の気が引いていく俺。

 泣かしてしまった。一生笑顔でいてもらおうと胸に誓っていたのに! それなのに泣かしてしまった!

 そっ、そんなに不甲斐なかったでしょうか。いや、わかってます。

 男爵フルボッコ後に誘拐事件ですもんね。

 そんな情けない男が院長なんて泣きたくもなりますよね。

 ただ一つだけいいですか?

 泣きたいのは俺なんですけど⁉︎

 もはや男としての矜持はズタズタ。救いを求めてレベッカたんを見てみると、

「……今回は、その……レオンも反省した方がいいんじゃない?」

 と苦笑を浮かべて響さんを追うように踵を返すレベッカたん。

 やめてよ! レベッカたん、やめてよ! こんなのやめてよ! 

 必死に手を伸ばすものの、無慈悲にも去っていく響さんとレベッカたん。

 いつもそうだ。大切なものは俺の手から溢れ落ちていく。もういいや、闇堕ちしよ。

 いつの間にか仮面のように張り付いていた紳士はもう捨てるよ。これからは堂々と真正面からセクハラすることにするよ。

 それでいいよね?

 と思ったと同時に背中に小さな手が乗った。

「いいわけないでしょうが! 次はあーしだから。覚悟しておきなさいよ」

 底冷えするような冷たい目と声。

 なんとリディアちゃんまでお怒りである。

 しかし、今の俺に怖い者はない。なにせ紳士の仮面を脱ぎ捨て変態として生きることを誓ったんだから。闇堕ちレオンは誰にも止められない!

「キモ」

 誰か助けて。


 ☆


 魔女の工房は山奥にある。

 人里離れた古屋の前で俺は必死に許しを乞うていた。

 絵的には幼女に土下座しています。

 矜持? なにそれ美味しいの?

「……あーしに言うことがあるんじゃない?」

 目の前には漆黒のミニスカドレスに身を包んだリディアちゃん。可愛い。

 俺は女の子の衣装や化粧品には金目をつけないようにしている。

 ただでさえ可愛い嫁や娘が着飾るデコレートすることで可愛さが天元突破するからである。

 シオンの意思次第ではあるが、第二期生、三期生の孤児に受け入れるための計画もある。

 裁縫やデザイン関係で才能がある幼女がいたら寝る暇も惜しんで一緒に下着や服を作りたいと本気で思っている。可愛いは正義。エロいも正義。

 女の子の魅力を引き立てるものは大好物なのだ。

 というわけで、

「えっと……失礼します?」

 ぷにっと。リディアちゃんの太ももを摘む。

 うわすごい! めっちゃ柔らかい!

「ちょっ! なっ、ななななにしてんのよ⁉︎ バカじゃないの!」

 ちっちゃな手で俺の頬を平手打ちしたあと、ミニスカドレスの裾を掴んで下に下げようとするリディアちゃん。

 ……マジで可愛い。食べちゃいたいぐらいだ(性的にじゃないよ?)。

「いや、リディアちゃん目の前に立って何か言うことあるでしょって言ったから……」

「だからなんでそれで失礼します……? になんのよ! マジ意味わかんない! 頭沸いてんじゃないの⁉︎」

 なんとかもうとてつもなく必死なリディアちゃん。うおー、はんぱねえー、すげー。

「尊い」

「なに拝んでんのよ⁉︎」

「毒舌幼女。いい! すごくいい! 刺さる! 性癖にすごく刺さる!」

「えっ、マジでキモいんですけど……」

「リディアちゃんはきっと大人になったら豹柄のパンツが似合うと思うよ?」

「死ね! 幼女に堂々とセクハラとかマジ死ね! 言っとくけど全然嬉しくないから!」

「からの?」

「ふーん。あんたってそういう柄が好きなんだ。仕方ないから覚えといてあげ――じゃなくて!」

 すごい。可愛い。マジで可愛い。

 ぺろぺろして、くんかくんかしたい。

「ちょっ、ざけんな! なんでまた太ももに触れて――《ぺろぺろして、くんかくんかしたい》――この、また邪念セクハラして!」 

 俺とリディアちゃんの関係は他の神セブンの中でも特殊だ。

 なにせロリヒモ光源氏計画や響さんに対する本心を見透かされているんだから当然だ。

 彼女は早い話魔女である。

 それも肌が触れ合うだけで心を読み取ってしまう『異能』まである。

 詳しくは知らないんだけど、魔術と異能は全く異なるもので、魔術師と異能者は相容れない水と油のような関係らしい。

 そこには迫害や差別、追放や殺害という闇が潜んでいるほど。

 リディアちゃんは名うての魔術師を数多く輩出してきた家系であり、異能持ちというだけで辛い目にあってきた――らしい。

 厄介なのは『異能』を己で制御できない点にあるらしい。

 おかげで肌が触れ合うだけで相手の思考や感情がように覗けてしまうらしい。本気を出せばその人の記憶――それも一生分を把握することも不可能じゃないらしい。(相手が抵抗しなければ)

 その感触は俺もよく知っていて不思議な気分になることは否めない。こう、なんていうの、『うわー、持っていかれる!』みたいな感じ? 幽体離脱の情報や感情版といえば雰囲気は伝わるかな?

 その感覚が病みつきになっている俺はともかくとして、捨てられるまでの――孤児になるまでのリディアちゃんはそれはもう大変だったらしい。

 触れた人、触れた人に軽蔑され、異能者だと罵られ、暴力や虐めは日常の一部、友人はおろか愛情を注いでくれる家族さえいない。

 孤児院で居場所を見つけるまでの彼女はまさしく孤独。

 ようやく響さんやエリスのような人格者を見つけたところにドスケベ院長異物乱入

 当然、俺たちの間に衝突があったことは言うまでもない。

 こんな下心見え見え変態野郎にも拘らず、たった一つ交換条件を守るだけでみんなに本心を黙ってくれているリディアちゃんは幼女ながら、本当にできた女の子だと思う。

 触れた相手の感情や記憶を吸い上げるという異能の性質上、触れた相手は血相を変えて離れることが多いそうだ。

 リディアちゃんのお手てすっごくぷにぷにしてて気持ちいいのに勿体無い。

 というわけでトラウマを刺激しないよう俺はこう決心した。

《積極的にリディアちゃんに触れていくスタンスで行こうって》。

「ざけんな! レディに気安く触れていいわけないでしょ! しかも邪念セクハラなんてもんまで編み出して――ありえないっつうの!」

 説明しよう。邪念セクハラとは触れた相手の思考や感情を読み取れることを逆手に取り、本音をダダ漏れにすることで純粋うぶなリディアちゃんを恥じらわせるという高等セクハラの一つ。

《やられた相手はすごく可愛くなる。いや、いつも可愛いんだけど》。

「サイテー! マジでサイテー男だわ! というかいつまで太ももに触れてんの! いいかげん離しなさいよ」

「ごめん。そこに太ももがあったから」

「なに、雨が降っていたから傘さしたみたいな軽いノリで言ってんのよ!」

「……大きくなっても俺に太ももを触らせてくれる?」

「触らせるわけないでしょ! バカじゃないの!」

「じゃあお尻でいいや」

「部位の問題じゃないわよ!」

「そんな……ひどいよ! 俺のことは遊びだったの⁉︎」

 あぁー、癒されるわぁ……!

 その、なんていうの。本当は俺、こっち側なんだよね。幼女にセクハラして楽しむ変態。

 ほら、響さんに好かれたい一心で必死にガワ作ってたらさ、なんかそっちがウサイン・ボルト並みの速さで一人歩きしちゃってさ。

 いや、もちろん本気で嫌がっていたら無理矢理はしないよ? 

 ゲス・ドスケベ・クズ・変態ではあるけど、畜生ではないつもりだからさ。

 セクハラするときは満更でもない相手を見極めているつもり。

「本気で嫌がってるわよ!」

「……からの?」

「まっ、まあどうしてもあんたが触りたいっていうならちょっとぐらい――バカ!」

 なにこの可愛い生き物。一家に一人欲しいんですけど。抱き枕に欲しすぎるんですけどぉ。

「言っとくけど今日という今日は許さないから」

 すりすり。太ももを優しく撫でられながらそんなことを言うリディアちゃん。

 いや、撫でられながら、そんな真剣な顔されても。

「あんたが全然やめないからでしょうが! なんであーしが悪いみたいになってんのよ⁉︎」

 頬ずりしたら――ミニスカの中に顔を突っ込んだら怒られるかな? いや、ギリギリイケる――!

「余裕でアウトよ!」

「あっ!」

 俺の手からリディアちゃんのすべすべ太ももが離れていく。

 シュンです。

 シュン太郎です。

 俯く俺を見かけたのか、

「あーもう! 頬ずりだけはダメだからね! それやったらマジで落雷させるから。いい?」

「リディアちゃん……!」

 再び俺の手のひらに柔らかい感触が戻ってくる。いいわー。めっちゃいいわー。

 体温が高いのか、程よい温かさ。

 落ち着くわー。

「あんたまた賢人ぶったでしょ?」

 幼女の太ももを撫でながら説教。

 ご褒美かな?

「えっと……どういう意味?」

「誘拐されたあんたの居場所を特定するために読心術と声を拾う魔術を同時に発動したのよ。前者はあーし、後者は響さんとレベッカにね」

 ええっ、すご! 魔術を同時発動⁉︎

「ええっ、すご! 魔術を同時発動⁉︎」

「……別に。それほどでもないわよ。で、問題なのは――あんた内面と外面、真逆すぎるでしょ!」

 えーと、なんて言ったっけ? 要するに心の声と声に出したそれがすごいことになってるってことだよね?

 でも、おかしなことは言っていないはず。

 そりゃ響さんをバカにされてカッとなって口に出してしまったこともあるけど……。

「……はぁ。どうしてこいつのやること成すこと裏目に出るんだろ。おかげでコロッと騙されちゃってるじゃない。気がついたらあーしの周り、ダメ男製造機ばっかだし」

 ダメ男製造機。ひどい言われようだ。

 まあ、たしかに今回の件で幻滅はされたに違いない。

 もしかして『私がいないとダメなんだから……』と母性を刺激した?

 そっか。そっち方面のヒモもありなのか。

 クズで変態でゲス野郎だけど、私が見限ったら――私だけが見放したらもっとダメになる。そう思わせることでいつまでも捨てられない、と。

 ほうほう。なるほど。そういうことだったのか。

 どうしてこんな情けない院長に優しくしてくれるのか、その謎が解けた気がする。

 俺がダメ男だったからだ!

「で、こっちはこっちで違う方向でブっ飛んでるし……もう嫌だぁ……」

「どうしたのリディアちゃん? お腹痛いの? 飴ちゃん食べる?」

「あんたのせいで頭痛に苦しまされてんのよ! (コロコロ)」

 怒りながらもなんだかんだ俺の差し出したお菓子を口に入れるリディアちゃん。

 ……可愛い。

「それじゃそろそろみんなのところに戻ろっか」

「はぁ⁉︎ まだちっとも全然終わっていないんだけど!」

 どうやら説教を切り上げられるのが気に食わなかったらしい。

「ん」

 と言ってリディアちゃんの方に手を差し出す俺。

「はっ? 何その手」

 出た。リディアちゃんのジト目。

「仲直りしよ」

「バカなの?」

「…………ダメ?」

「幼女と手を繋ぎたいとかいつか絶対捕まるわよあんた」

 とかなんとか文句を言いながらも俺の手を握ってくれるリディアちゃん。

「大人になっても手を繋ごうね?」

「……はぁ。全力でお断りしたいんですけど」

「あっ、そうそう。そう言えば言い忘れてたけどさ」

「なに? 別に心配しなくてもあんたの本心をみんなに伝える気は――」

 助けに来てくれてありがとね。 

「助けに来てくれてありがとね」

「べっ、別に。ただの暇つぶしよ」

 俺は知っている。そっぽを向いたリディアちゃんの頬が心なしか紅潮していたことを。

「照れてなんかないわよ!」

 可愛い。

「うっ、うう〜」

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