第23話【レオン視点】
みなさんこんにちは。
誘拐されましたレオンです。
拉致られた現実を自覚したときの気持ち?
うーん、そうだね、
このハゲー!! ちーがーうだーろーっ! 違うだろーォッ!! 違うだろっ!!! お前、頭がオカシイよ!
この◯◯◯◯が!
これ以上、俺の心を傷付けるな!
かな?
逆鱗に触れた政治家のような気分だったよ。
なにが不満って神セブンじゃなくて俺を襲ったところだよね。
無能の方を連れ去る誘拐がどこにいるんだよ!
いや、みんなが拉致られてもいい意味じゃなくてさ。
だから俺、誘拐犯に聞いてみたわけ。
どういうつもりだって。こんなことしてタダで済むと思ってんのかって。
そしたらさ、なんて返ってきたと思う?
孤児院には殺人鬼の響さんが目を光らせ、魔術師の天才リディアちゃんがなんかすごい結界を張っているとかなんとかで、俺しか手を出せなかったらしい。
……嘘だッ!
鬼隠し編で否定したけど、「うるさい黙れ」と頬をぶたれました。それから地蔵のように黙ったことは言うまでもないよね。
……いやぁ、世の中なにがあるか、わからないなー。
拉致られたあげく、拷問されて、シュン太郎になる異世界転生者がどこにいるんだろう。あっ、俺か。泣きたい。
くそ! どうして俺はこんなに弱いんだ!
つまるところ彼らの思考回路は以下に集約される。
幼女は強くて連れ出せないから、院長の方を狙おう。
いやいや。普通誘拐犯は幼女に行くでしょ。で、そのあと身代金の要求でしょ?
なんで院長? おかしいよ……こんなの絶対おかしいよ!
えっ、院長の命が惜しければ金を用意しろ?
いやぁ、それはお世辞にも賢いとは言えないんじゃないかな?
クウが日常品を次々に開発してくれたおかげで、実はそれほど孤児院経営には困っていない。
とはいえ、まだ幼いクウの実力が世間に広まるのは不味いので、一応俺が開発したことにして、市場で換金している。
本当は商会に卸すことができればいいんだけど、買い叩かれる恐れもあるし、今のところは生活に必要なレベルに抑えてある。
さらにリディアの魔術で顔も変えているから足も残らない。
響さんは俺にセクハラさせないために鬼修行中だけど、むしろ誘拐された状況を楽しんでいる説まであるから。
とはいえ、人間不思議なもので、教え子に神セブンを持つ俺はどこか落ち着いていた。
さすがに救出しに来てくれる……よね?
全身に脂汗をかきながら、唇を尖らせる俺。
……おっ、落ち着け。たしかに響さんとレベッカの俺に対する好感度はマイナスに振り切れている。嫌悪度はカンストしているかもしれない。
しかし、俺にはマイスイートエンジェル、エリスたんがいる。
美少女と金、怠惰、セクハラ、エッチしか頭にない俺だが、彼女はなぜか慕ってくれているのだ。
穢れを知らないエリスたんならきっと涙目でこう訴えかけてくれるに違いない。
「レオン様を助けてあげてください! お願いします!」
あとはクウも懐いてくれているはず。一緒に色んな実験をして楽しい思い出がある。
クウがあまりに色んな錬成に成功するから、金に目が眩んだ俺は四六時中ずっと一緒に過ごしたこともある。
あまりにクウと実験に没頭したもんだから、他の神セブンの娘たちから「ここに座れ」と土下座させられ、反省させられたことは記憶に新しい。
やはり幼女とはいえ女の子。
誰か一人だけを贔屓にすれば怒りも湧いてくるらしい。
嫉妬というより、クウの発明でひと財産築こうとした下心を敏感に感じ取ったんだろう。ぐうの音もでません。石ころを金にしようとしてすみませんでした。
禍々しいオーラと絶対零度の声音。棘しかない言葉は俺の胸に深く刺さりました。
もうしません。二度としないので許してください。
幼女に脅される異世界転生者。これも珍しいんじゃないだろうか。
何ひとつカッコいいところがねえな俺!
マジでどうなってんの⁉︎
「それにしてもあんたも運がねえよな」
とチンピラA。
「どういう意味だ?」
「殺人鬼と一緒に奴隷商に売り飛ばす女を育てさせられてんだろ……? 同情するぜ」
「は?」
魔道具の縄で拘束されていなければ殴りかかっていたところだ。
ちなみにここから逃げ出すほどの実力は俺にはない! 俺にできるのは盗聴と覗きぐらいのもんだ。なにせそれ以外に興味・関心がないんだから。
己の無力さと相まって、可愛い娘と嫁さんを馬鹿にされたことで怒りが爆発してしまう。
性奴隷だと……違う!
彼女たちは俺のパトロンだ! 肉便器のような口ぶりはやめてもらおうか!
たしかに俺はいずれみんなとにゃんにゃんしたいと思っている。
だが、それはヒモとして、だ。
エッチで彼女たちを満足させる。エンターテイメントで彼女たちを喜ばせる。
俺も気持ちいい。女の子も気持ちいい。
肌も懐も温かくなる。みんな幸せ。目指す先はそれだ。
たしかにかつては性奴隷を買うつもりだったこともある。
しかし、俺はできれば愛されたい!
たとえ呆れられようともなんだかんだ慕われたいんだ!
ジト目を向けられながら、「バカなの?」と毒を吐かれたい!
「仕方ないわね」「ほんと節操がないんだから」「何回出せば気が済むのよ」と呆れられながらも相手をしてくれる関係になりたい!
ただ気持ち良くなるだけなら娼館で十分だ。身も心も一つに混ざり合うからこそエッチは気持ちいいんだ!
そんなこともわからねえのか! 俺も童貞だからわかんねえけど!
「取り消せ」
俺はチンピラを睨みつける。
「アん?」
「取り消せと言ったんだ三下。響さんが殺人鬼? ああ、たしかに彼女はかつてたくさんの魔術師を殺めてきた。けれど切り捨ててきたのは罪人だ。心優しい彼女はそんな彼らを手にかけるだけでも精神をすり減らしてきた。お前たちのような他人を傷つけることしかできない人間が殺人鬼なんて言葉を使っていい女性じゃない」
「うるせえ!」
俺は殴られた。
痛ってえええええええぇぇぇぇ! マジ痛ってええええええぇぇぇぇ!
ざけんな! マジふざけんなよてめえ!
こちとらほとんど一般人だぞ⁉︎ 手加減ってもんを知らねえのか!
あー、もう怒った。俺をキレさせるとは大したもんじゃねえか。
覚悟しておくんだな! 神セブンがここを嗅ぎつけたときがてめえらの最期。
ほんとマジで覚悟しておくんだなぁ!
思った俺もドン引きの他力本願である。
ムカついたので、転げ落ちたまま、痛いのを我慢して怒りをぶつけることにした。
「みんなが性奴隷だぁ⁉︎ バァカか! 彼女たちはいずれ王都で輝かしい活躍をする才女たちだ! 両親に見捨てられ、身内に不幸があったにも拘わず、毎日を笑顔で懸命に生きている。彼女たちの未来は性奴隷なんかじゃない! 私の可愛い弟子であり、妹であり、自慢の娘たちだ! 私の目の前で悪く言うのはやめていただきたい!」
彼女たちは俺のパトロンだ! と牙を剥きながら胸中で吠える。
「うるせえって言ってんだろ!」
俺はまた殴られた。
痛ってええええええええ! やっぱ痛ってええええええええ!
ちょっ、早く! 神セブンのみんな早く! 院長がまたボコられてますよ⁉︎
いいんですか! 一応、みんなと楽しい日々を過ごさせてもらった自負はあるんですけど⁉︎ もうそろそろ救出しに来ていただけませんか!
「無能のくせに賢者さまぶりやがって! てめえみたいな偽善者が一番ムカつくんだよ!」
ぎっ、偽善者だと……⁉︎
どうやらあんたは絶対に言っちゃいけないことを口にしたみたいだな。
その通りだよ! すみませんでした!
俺は再びシュン太郎になり一方的にボコられていた。
最近、フルボッコにされることが多すぎやしないだろうか。
意識が薄れていく中、「ぎゃぁ」「ぐはっ!」「どうしてここが――!」などと悪役モブ野郎の叫び声が耳に入ってくる。
――バンッ‼︎ と金属の扉が蹴破られるとそこには全身返り血で真っ赤に染まった響さんとレベッカ、リディアがいた。
まさかの最強チームである。
クウがいないのはお留守番組がレティファ、シオン、エリス、スピアと非戦闘系になるからだろう。
本来なら俺ではなく孤児に魔の手が迫るのが普通だ。おそらくリディアちゃんの判断だろう。
ごめんね。実は院長の方が弱すぎて攫ったんだって。孤児のみんなは誘拐したくてもできないんだって。
こんなんもうイジメやで?
響さんは額に二本の角を生やしていた。鬼人化の中でも最上位のそれだ。
顔面に鬼の仮面を張りつけたようで、「はぁー」と蒸気のような熱を帯びた息。
ご愁傷様。
ああなったら剣の錆になることを覚悟した方がいいよ。
鬼の形相で俺を見つけるや否や、響さんはこう言った。
「レオンさん――あとでお説教ですからね」
なんで?
なんで俺が折檻なん?
いとも簡単に誘拐されたから?
男爵にボコられた後すぐに誘拐されたから?
自分で尻拭いせず、神セブンに救出されるまで待っていたから?
そんなんイジメやで?
「――レベッカ。ちょうどいい機会です。一撃で仕留めなさい。ただし、殺してはなりませんよ」
「わかったわ」
いや、レベッカたん。ヒロイン補正エグない?
さっきやで? 君剣握ったんさっきやで?
俺じゃ逃げ出すこともできひんチンピラを峰打ちで――それも一撃で仕留められるように成長したん? ちょっと早すぎんへんやろか。どんな成長補正してるん?
【天啓】でレベッカたんを覗いてみると〝覚醒〟したらしい。
【天啓】は俺から対象に才能を示し、伝えられた相手がとある感情を抱くことで急激に成長できるらしい。
肝心のとある感情が何かは不明だが、クウやエリス、リディアちゃんのときもそうだったので、レベッカたんも何かに気づいたということだろう。
最近になって俺はそのとある感情に察しをつけ始めている。多分、俺のことをダメ男認定することで、目覚めるんじゃないだろうか。
というのも、彼女たちが覚醒するときって、共通点があって『私がしっかりしないと』みたいな気づきがあったときなんだよね。
俺みたいな変態ドスケベホイホイ院長に任していたら大変なことになることに気がついたのかな?
みんな、なんだかんだ俺には優しいからはっきりと公言しないんだけどさ。
……幼女に気遣いされる大きな子ども。
こんなんイジメやで?
「あとで話があるから」
どれだけ修行しても覚えることができなかった『瞬間移動』で俺の背後に回り込み、拘束を解きながら耳打ち――そのまま誘拐犯から離れた先に再び『瞬間移動』という超絶技巧をやってのけるリディアちゃん。
彼女はギャル魔女。唯一、俺の本心を知っている神セブンである。
得意な魔術は読心術。
ギャルに脅されるオタク。夢が広がるよね。
「あんたまたしょうもないこと考えるでしょ? あとで二人で話あるから。返事は?」
「……はい」
ギャル魔女とはいえ、幼女に脅される俺。
心なしかご機嫌斜めのようだ。
衝撃的なことを打ち明けるとリディアちゃんは肌に触れると相手の心が読める魔術師である。
そして俺の下心はすでにバレている。
生かすも殺すも彼女次第というわけだ。そんなリディアちゃんの機嫌が悪いということすなわち――誘拐されたこと以上の絶対絶命ということである。
全力で許しを乞おう。俺はまだロリヒモ光源氏計画を諦めたくない。
「今度という今度は絶対許さないから」
そこをなんとかリディアちゃん……!
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