第25話 白玉団子とすずしろと鳴釜占い ①
『なんで豆腐がいるの? ごはんじゃなくて、おかしを作るんだよ?!』
「いいの。いいの」
冷蔵庫からお豆腐をとりだしてくると、椅子に丸くなっていたすずしろが立ち上がり抗議を始めた。
『白玉団子を作るんだよ? 色は一緒でもお豆腐は甘くないよ!』
「白玉粉も甘くないよ」
『白玉粉の原料は米粉でお豆腐は大豆だよ』
「すずしろはよく知っているね」
『白玉団子はつるっとして柔らかいけど、お豆腐はぼそぼそしているよ』
「そんなことないよ。これから使う絹ごし豆腐は舌触りもいいわよ」
『でも、変だよぉ!!』
「大丈夫。まあ、見てて」
わたしはボールにお豆腐をそのまま入れる。
『あー。ほんとにいれたー』
「ここに、同じくらいの白玉粉をどどーと入れます」
『あー。白玉粉を容赦なくいれた!』
「そして、混ぜます!」
『あー!』
すずしろが耳をぺたんとしてボールを見つめている。がっかりしているのが手にとるようにわかる。わたしは笑いながらお豆腐と白玉粉を混ぜる。「耳たぶくらいの柔らかさにするのよ」とおばあちゃんに言われたことを思い返す。
「ふふ」と笑って、わたしはすずしろの耳を触った。ヒヤッっとすずしろが悲鳴をあげて飛びのく。
『な、な、なにする????』
「おばあちゃんにね、耳たぶくらいの柔らかさを目指して、分量を調節するように言われてるの」
『だからと言って、いきなりボクの耳を触らなくてもいいじゃん!』
「だって、すずしろの耳、へんにゃりぽんとしているんだもの」
わたしはふふふと笑う。すずしろも『もう』と言いながら、前足で耳を触る。
柔らかさを確認しつつ、一口大にまるめて、まんなかにくぼみを作る。
「これを茹でます!」
『茹でるの? ほかには何もはいってないよ』
「お団子だもの。そんなものよ」
わたしは、沸騰したお湯の中に一つ一ついれる。しばらくするとお湯の中に沈んだお団子がふわっと浮き上がってくる。
『なずな! お団子が浮いてきたよ』
「うん。ちょっと待って。氷水を用意するから」
用意したボールに氷をいれて、その上にざるをおく。火を止めて、穴あきおたまでプカプカ浮いているお団子をすくうとそぉっとその中にいれる。もちっとしたお団子がおいしそうだ。
すずしろが、ごくんとつばを飲み込んで、ボールに顔を近づけている。
『……、ひとつ食べてもいい?』
「どうぞ。まだ、お醤油たれもあんこもないけど……」
わたしは、ひとつお団子をとるとお皿に入れてすずしろの前に置いた。
『おいひぃ!! もうひとつちょうだい!!』
さっきまでの態度からは想像もできないくらいしっぽがぴんと立っている。
すずしろが喜んでいるのがすごくわかる。
でしょ! でしょ!
お豆腐入りの白玉団子は作るのも簡単だけど、おいしいんだよ!
「あとは、おばあちゃん工房で食べようよ。おばあちゃんが、三好堂からあんこを買ってきてくれてるし……」
『えー。あと一つだけお味見! お味見!!』
ほんと、すずしろって、食い意地がはっているのだから……。
◇
作業台の上には全身の毛をそばだてているすずしろ。白玉団子がはいっているボールを抱えて、戦闘態勢全開中……。「ねえ。すずしろ」と声をかけても、ふぅっと唸っている。
そりゃ、そうだろうな。
わたしとすずしろが、白玉団子をもって、おばあちゃんの工房へ行くと、そこには、ぬらりひょんのぬ~べ~、鳴釜のりんりん、ムジナのテンが座っていた。ちゃっかり、おばあちゃんにお茶を入れてもらっている。
『なずな殿が手作りの白玉団子を作られたとお聞きしまして……』とぬ~べ~。
『あげないよ』
『おやかたさま~。おいらも食べるなりん』とりんりん。
『絶対、あげないよ』
『ぬ~べ~においしいものが食べられるって聞いたナ』とテン。
『食べれないよ』
「すずしろ、みんなでおいしく食べようよ」とわたしがとりなそうとしても、すずしろは、『僕がなずなと契約したんだ。イヤダ!!』の一点張り。
困ったなぁと思っていたら、おばあちゃんが助け舟をだしてくれた。
「仕方ないねぇ。三好堂に行ったときにあんこの他に、アイス最中も買ってきたのだけど、それをお客様にだそうかねぇ……」
おばあちゃんの言葉に、すずしろの耳がぴんと立つ。
『アイス最中?』
「すずしろはなずなの作った白玉団子があるから、なしだよ」
『ヤダ!!』
「じゃあ、白玉団子を9つばかりおくれ。アイス最中と交換だよ。大きさも同じくらいになるだろ?」
おばあちゃんが、お皿にアイス最中を置いた。もう一つのお皿に、ボールから白玉団子を9つとるとそれを並べた。すずしろは、アイス最中のお皿、白玉団子のお皿を何度も見比べている。
『し、仕方ないな。交換だよ。交換』
「ありがとよ。じゃあ、これで、パフェ風アレンジしてあげようかね」
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