第26話 白玉団子とすずしろと鳴釜占い ②
おばあちゃんが作ってくれた、白玉団子いりのパフェを食べ終わると、すずしろはぬ~べ~のそばに音を立てずにそっと近寄った。ぬ~べ~のお皿にはまだ、三好堂のアイス最中が少し残っている。ぬ~べ~は両手で湯呑茶碗を持つと、ゆっくりとお茶を飲んでいる。わたしは、ぬ〜べ〜に危険が迫ってると教えたほうがいいか悩んでいると、すずしろが、何気ない顔をして話しかけた。
『それで、お前たち、なんで、ここにきたんだよぉ』
『それは、なずなどのが白玉団子を作るとお聞きしまして……』とぬ~べ~。
『ちがうな。……嘘つくやつはこうだ!』
すずしろが、一瞬のスキをついて、あっという間にぬ~べ~のお皿のアイス最中を口の中に入れてしまった。『せっかく残していたのに……』とお茶を飲んでいたぬ~べ~がぼやく。『ふん』といってすずしろは飛び上がり、お気に入りの棚の上に陣取った。
危ない。危ない。
すずしろは、あそこから作業台の上のお皿に残っているものをチェックしているにちがいない。ほんと、食い意地がはってんだから……。
わたしはあわてて、残していたアイス最中を口に入れる。それを見て、鳴釜のりんりんとムジナのテンもあわてて、お皿をきれいにする。白玉団子いりのパフェを食べ終えて、ほっとしたりんりんが思い出したように、わたしの顔を見る。
『なずなりん! やっと、おいらの釜が見つかったなりん。 ぬ~べ~がなずなりんの家にいくって言うから、なずなりんの鳴釜占いをしようと思ってやってきたなりん』
嬉しそうに、背中にしょっていたお釜を見せる。確かに、古くて錆びついたお釜だった。ちなみに頭には相変わらず金ぴかのお鍋をかぶっている。なんといえばいいのかいい言葉が思い浮かないから、お鍋のことは見なかったことにしよっと。
「……やっぱり、図書室で見つけたお釜はりんりんのお釜だったのね。よかった。見つかって……」
『そうなりん。こいつが図書室に隠していたなりん』
りんりんが、ぬ~べ~を挟んで反対側にいるムジナのテンを指さす。
『おら、焼却炉のそばで拾っただけナ。なくしたりんりんが悪いナ』
りんりんとテンがぬ~べ~を挟んで言い争い始めた。ぬ~べ~は我関せずと『由紀さまの入れるお茶は、心にも身にじんわり沁みますな』と言って茶をすすっている。
「見つかったから、よかったじゃない。それに、テンはそれがりんりんの釜だって知らなかったんでしょ?」
『知らなかったナ』
しらっとした顔でテンが言う。もしかしたら、知っていたかもと思わせる雰囲気があるけど、そこは追及しないことにする。
「だったら、りんりんも見つかってよかったって思わなきゃ。それにしても、りんりんのお釜を持って行った男子生徒はだれなんだろう? 安倍くんとは思えないし……」
『
「そうなの?」
今度はわたしの言葉をするっと無視して、ぬ~べ~はお茶を飲む。
ほんと、ぬ~べ~ってつかみどころがない。
ぬらりとかわされてしまう。
ぬらりひょんだから仕方ないのかもと思いつつ、少しもやもやする。なんとなく気まずい雰囲気が流れて、お茶を飲む音だけが部屋に響く。黙ってテンと睨みあっていたりんりんが声をかけてきた。
『なずなりん、今度は、ちゃんと鳴釜占いができるけど、する?』
「わたし、してほしい占いとかないんだけど……」
『そんなりん……』とがっくりうなだれるりんりん。
『やーい。もう鳴釜の時代は終わったナ。これからは、ぶんぶく茶釜の時代ナ!』
『なにをぉー』
また、テンとりんりんが言い争いを始めた。
「じゃあ、お願いしようかな。この前は、見れなかったからね、た、楽しみだわ」
『そうなりん! そうなりん!!』
りんりんがうれしそうな顔をする。初めから頼んでおけばよかったとちょっと後悔。
『じゃあ、はじめるなりん』
りんりんがゆっくりと一礼をして、お釜を自分の前におくと、すうっと息を吸い込んだ。そして、可愛らしい歌声で『ちょろちょろ ぱっぱ ちょろぱっぱ』と歌いながら、踊りだした。『さあ どっちだ?』という言葉と同時に、りんりんが、ぴょんとはねて目の前のお釜の中に頭から飛び込んだ。ぱあっとお釜から七色の光があふれでる。とたん、しゅーという音と一緒に、猫の鳴き声と風を切る音が聞こえてきた。この声はすずしろかしら? そう思うとわたしの胸の中がほんのり温かくなってきた。幸せだなぁって思う。思わず、わたしは胸に手を当てて目を閉じた。
『終わったなりん』
りんりんが声をかけてきた。
『この占いは、吉凶は自分で判断するなりん。あれこれ、解説はないなりん。なずなりんが感じたままでいいなりん。温羅からの伝言なりん』
「温羅?」
『温羅は温羅なりん』
なぜか、それ以上は聞けない雰囲気になる。
『りんりんの鳴釜占いも終わったことですし、それでは、おいとましますか』
ぬ~べ~がゆっくりと席を立った。りんりんとテンもあわててお茶を飲み干してぬ~べ~のあとに続く。
「……、あの、文車妖妃は?」
ぬ~べ~の後姿に声をかける。ぬ~べ~は振り返るとにやりと笑った。その笑顔の裏に何かあるのかと、わたしはたじろいでしまった。
「彼女はしばらく、お屋敷に戻るそうです。なんでも、読むのもいいけれど自分で物語を書きたくなったとか申しておりましたな。……、そういえば、すっかりお伝えするのを忘れておりましたが、なずなどのによろしくお伝えくださいと伝言を預かっておりました。あっそれから、……、そうそう、今度はなずなどのの恋のお話をお聞かせくださいとも言ってましたな。出来るなら、ユウどの絡みの愛憎劇とかがいいですな。……確かにお伝えしましたよ。それでは、また……」
ぬ~べ~は丁寧にお辞儀をして、りんりんとテンの手をつなぐと何か小さくつぶやいた。すると、三人ともぽかっとその場から消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます