第6話 おばあちゃんとすずしろ ②
紐をこっちから通して、反対からも通して、結んで、……
紐をこっちから通して、反対からも通して、結んで、……
「おばあちゃん、6cmくらい編めたよ」
「いい感じじゃないか。幅もそろっているし、上出来だよ。じゃあ、次は、編んだ
「こう?」
「おお。長さもいい感じだね、そう、その紐とこっちの紐を結んで、……」
おばあちゃんって本当にほめ上手。
わたしも、おばあちゃんみたいに、アクセサリーを作る才能があるんじゃないって思ってしまうもの。わたしは、ウキウキした気持ちで、紐を巻き結びで固定していく。
「しっかりひっぱって結ばないと、石が落ちちゃうからねぇ」
「こんな感じ?」
「そうそう。……なずなは器用だねぇ」
「っふふ。 そう? なら嬉しいなぁ。わたしもおばあちゃんみたいにアクセサリー屋さんになれるかなぁ?」
「仕事にするには努力が必要だねぇ。お金をだして買ってもらえる作品を作るのは大変なことなんだよ。でも、なずながやりたいというなら、日頃から少しずつ練習してごらん。……、そうそう、この石もペンダントにつけておくといい」
おばあちゃんが、綺麗にカットされた小さな石を、棚から取り出すと小さな皿の上にのせた。
黄金色をしている石。キラキラしている。
も、もしかして、金?
ドキっとする。
「これって?」
「ふふふ……、この石は、見た目は金にそっくりだろう?」
「うん」
「
おばあちゃんが、棚の上のすずしろに声をかける。
すずしろが『ふわぁぁぁぁ』と大きく伸びをすると、するりと棚から降りてきて作業台の上にのった。
『五角形で作られた正12面体の
「…… なずなを、あんまり、危ないことには巻き込まないでおくれよ」
おばあちゃんが、すずしろの頭をなでながら言う。
『どーかなー。ボクのお世話係だからねー。約束はできないよ。でも、ちゃんと、護るから、大丈夫だよ』
「頼むんだよ。約束だよ」
『じゃあ、金平糖、ちょーだい』
すずしろは、おばあちゃんの腕にしっぽをすりすりさせながら、おねだりしている。おばあちゃんは、小さな声ですずしろに耳打ちしながら、六角形の箱から金平糖をとりだしてすずしろにあげている。すずしろが『契約成立だね』と言っているのが聞こえる。
「おばあちゃん、この石も編んだ紐で包むの?」
「いや、黄鉄鉱は小さいから、全体をぐるぐるとまくといいよ」
「うん。それなら、残った紐で出来そう」
黄鉄鉱にぐるぐると紐を巻きつける。
「これでいい?」
「上手にできたね。じゃあ、それと月長石と鍵をチェーンに通して出来上がりだ」
「うん」
◇
「あら、なずな、こっちにいたの?」
工房の扉があいたと思ったら、ママが顔をのぞかせた。
「あ、おかえり、ママ。今ね、おばあちゃんにペンダント作りを教わっていたんだ。見て!」
わたしは出来上がったペンダントをママに見せる。
「なずな一人で作ったの? 上手に作れたじゃない? 月長石と金? どうしたの?」
「月長石は昨日、散歩していたらメノウ浜で拾ったの。それでね、こっちの金みたいなのは金じゃなくて、黄鉄鉱って言うんだって。おばあちゃんにもらった」
「黄鉄鉱? そうだったの。こっちの鍵は?」
ママは石の隣にぶら下がっている鍵を指した。
「学校の理科準備室の鍵。理科部長の柳井センパイが肌身離さず持っているようにって言ってくれたの」
「あ、なずなって、理科部だったわね。でも、どうして?」
「それでね、ママに話があるんだ。すずしろ、おりてきて」
すっかりお気に入りになった棚の上でまあるくなっていたすずしろに声をかけた。
「あのね、このこを家でお世話したいんだ」
「どうしたの? 子猫を拾ってきたの? ママもおばあちゃんも昼間は家にいないから、うちは猫が飼えないっていったじゃない」
ママが困ったわぁと首をかしげる。
「子猫じゃないよ。猫もどきっていう物の怪なんだ」
物の怪と聞いた途端、ママの顔が曇った。
「ママは、すずしろの背中の翼が見えない?」
「翼? なんのこと?」
すずしろが翼をひろげて見せるけれど、ママは眉一つ動かずにすずしろを見ている。
「なずな、もし、なずなの言うように物の怪なら、すぐに出て行ってもらって」
ママはさっきまでとは変わって、冷たく言う。ピリピリした感じが伝わってくる。
「でも、理科部の決まりごとなんだって。この月長石を持っている部員がお世話するんだって」
「そんな決まりごとは聞いたことないわ」
「うん。わたしも知らなかった。昨日この石を拾ったんだけど、この石、持っているとたまにチカッチカッって光るの。不思議だなと思って、理科の西園先生に相談しようと、今日の放課後、理科室に行ったの。それで、理科室に行ったら、柳井センパイ ― 理科部の部長さんとすずしろに会ってね、それでね、……」
ママに説明すればするほど、その内容が薄っぺらく感じてきた。ママの顔から表情が消えていくんだもの。怒られている時よりもずっと不安になる。
「おばあちゃん……」と言いそうになって、ぎゅっとすずしろを抱きしめる。
だめだめ!
ちゃんと自分で説明するって決めたんだから!
わたしは、ちゃんとママの顔をみる。
だったら、それなりに理由があるはず。
それに、わたし、すずしろのこと好きになっちゃったもん。
もふもふしてて、アイス最中が好きで、……可愛いんだもの!!
「あのね、ママ。わたし、このこと一緒にいたい。物の怪とかお世話しなきゃいけないとかそんなの関係なしに、わたし、すずしろと一緒にいたいって思ったんだ。だから、お願い、すずしろを家においてもいい? 」
ママが腕組みをして難しい顔をして、考え込んでいる。
「ちゃんとお世話する。ママやおばあちゃんが昼間いなくても、わたしが学校にいるときは理科室で預かることになっているから、問題ないの。だから……お願い!!」
「……」
「わたしね、一人っ子じゃない? ママが忙しい時は姉妹がいたらなぁって思ったこともあったわ。……、だからってわけじゃないけど……、すずしろと一緒にいたら、すごく毎日が楽しくなりそうな予感しかしないの。……お願いします!」
わたしは、すずしろを抱いたまま、大きく頭をさげた。
「……、わかったわ。好きにしなさい。どうせ、おばあちゃんはいいと言ったんでしょ? 」
「ありがと!! ママ! 大好き!!」
わたしはすずしろを離すと、ママに飛びついた。ママが困ったような顔をして、それでも、わたしの背中に手をまわしてぎゅうっとしてくれた。
やったぁ! やったぁ!!
ペンダントは出来たし、おばあちゃんとママは許してくれたし、あとは、なずなの寝る場所と、食器を用意してあげなきゃ。私はウキウキしておばあちゃんの工房を後にした。
わたしが寝てしまった夜中、ママとおばあちゃんとすずしろが話し合っていたなんて、全然知らずにいた……。
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