みんなが、おもむろに包みへ手を伸ばす。わたしも倣うように、リボンを解いた。
「わ……可愛い……」
中から出てきたのは、黒猫のぬいぐるみ。両手よりちょっと大きいくらいのサイズで、つぶらな瞳が、じっとこちらを見つめている。
とても可愛くて、一目で気に入ってしまった。
「げっ。何だ、これ!」
「あはは! さすが木村」
「これ、山本が選んだのか?」
木村くんの手にあるのは、偉人の学習漫画。かおりちゃんが、本屋さんで買ったものだ。
「ちょうどいいじゃない。それ読んで、勉強しなさいよ」
「げええ……プレゼントなのに勉強かよ」
「片山っちのそれは、何?」
「お菓子の詰め合わせ」
「これ選んだの、木村でしょ」
「なんでわかったんだよ」
「いかにもあんたらしいわ」
「じゃあ、あたしのこれは、片山っちが選んだのかな?」
「そうだよ。髪飾り」
かおりちゃんの手にあったのは、可愛いリボン付のゴムとピンのセットだった。
あれが片山さんの選んだ物だったら、わたしの手にあるこれって……。
はっとして、吉田くんを見る。
吉田くんもわたしを見ていて、ふいに目が合った。
「これ、佐藤が選んだの?」
「うん。これは、吉田くんが?」
吉田くんの手の中には、まさかまさかの可愛い白猫のぬいぐるみ。
悩みに悩んだ末の選択だった。
まさか男子の、それも吉田くんの手に渡るとは。
最悪、交換もありだし、何とかなるでしょというかおりちゃんの後押しで買ったけど……。
本当に、何とかなるのかな……?
「なんだよ、お前ら。白猫と黒猫かよ。仲良しか」
「名津のより断然マシ。おれ、こっちで良かった」
「うぐ……」
「どっちも可愛いね」
「まさか、吉田に猫が渡るとはね」
吉田くんは、手の中にある猫をじろじろと眺めている。
やっぱり、気に入らないのかな。でも、この黒猫を選んだのは、吉田くんなんだよね……?
「佐藤は、それ気に入った?」
「うん。気に入ったよ」
「それなら、良かった」
今の、どういう意味なんだろう?
聞きたかったけれど、ゲームをしようと言う木村くんの声に場の流れが変わって、聞くことはできなかった。
そうして、何事もなく楽しいパーティーがお開きとなり、方向が一緒である木村くんと吉田くんと三人で、帰途に就くことになった。
◆◆◆
「あー、腹いっぱい」
「確かに」
「晩御飯、食べられないかも……」
おしゃべりをしたり、ゲームをしたり。とにかくみんなではしゃいで、楽しく過ごした。
やがて、木村くんとは分かれ道で別れて、吉田くんと二人きりになった。
「あの黒猫、店で見た瞬間に佐藤のこと思い出したんだ。ハロウィンの時に着てたでしょ、衣装。動物好きって言ってたし、うさぎと悩んだんだけどね」
そんなこと、言わないでほしい。だって、自惚れてしまう。
わたしへのプレゼントを選んでくれたのかなって、勘違いしてしまう。
だって、彼は松井さんと……。
俯くわたしに気がついた吉田くんが、そっと顔を覗き込んでくる。
わたしは、見られたくなくて顔を逸らした。
「どうした? やっぱり、体調悪い?」
ああ……もう本当に、優しいな……。
優しくされればされるほど、もやもやが強くなる。
わたしは、思わず口を開いていた。
「吉田くん。そうやって、誰にでも優しくしちゃだめだよ。今は……彼女が、いるんでしょ?」
言ってしまった。後悔した。
何も、本人の口からとどめを刺されなくたっていいのに。
まあ、でもいいか。どうせ、明日から少しの間は会わなくなるのだし。
その間に、心の整理をつけておこう。
そうだよ。そうしよう……。
ぐっと唇を噛み締めて、スカートを握るわたし。
しかし、届いた言葉は不思議そうな色を宿していた。
「彼女? いないけど……」
「え?」
その言葉が信じられなくて顔を上げると、吉田くんはきょとんとしていた。
「いたことないよ。誰かと間違えてない?」
「いない? だって……今日、松井さんと……」
「松井……ああ。もしかして、あの時、近くにいたの?」
「あ……その、たまたま聞こえちゃって……盗み聞きするつもりは、なかったんだけど。あ、でも、すぐに帰ったから、全部を聞いたわけじゃないよ」
「そっか。それで、勘違いしたのか」
勘違い? 今、吉田くん勘違いって言った?
「……勘違い?」
「うん。勘違い。だっておれ、松井の告白、断ったから」
「嘘……だって、ありがとうって……」
「言ったかも。でも、それは告白してくれてありがとうって意味。好きになってくれてありがとうって。だけど、ちゃんと断った。気持ちには応えられないって」
「そう、だったんだ……」
「どう? 誤解は解けた?」
「うん……早とちりして、ごめんなさい」
「別にいいけど……どうして、さっき変な顔したの?」
変な顔って、もしかして複雑な気持ちになった時の顔のこと?
そんなこと言えるわけない。勘違いして落ち込んでいたなんて、絶対に言えない。
わたしは、精一杯の虚勢を張った。
「変な顔なんて、してないもん」
「してたよ」
「してないよ」
「してた。変だけど、可愛い顔」
ねえ、本当にどういうつもりで言っているの? わからない。わからないよ。何ですぐそうやって、簡単にわたしの心を嬉しくさせるの?
「変だけど可愛いとか、よくわかんない。そんな顔してないもん。吉田くんの意地悪」
「ごめんにゃー、怒るにゃよー」
白猫を取り出し、動かす吉田くん。まるで、猫がしゃべっているかのようだ。その様子に、笑みが零れる。
「やっと笑った。笑ったら可愛いんだから、笑ってろよ」
「……吉田くんって、時々恥ずかしいこと言うよね」
「そうかな? 思ったことを言ってるだけだよ」
それが恥ずかしいんだけどな……。
「そうだ。イチゴは順調?」
「うん。バッチリだよ。ちゃんと、お世話頑張ってる」
「そっか。じゃあおれも、ちょっと良い物を用意しないとな」
「良い物?」
「だって、何ヶ月もかけて世話してくれてるんだから、テキトーな物じゃダメだろ。佐藤は何がいいか、全然言ってくれないし」
「あ……」
「ま、でもだいたい何を好きかがわかってきたから、おれが選ぶ。楽しみにしてて」
「わかった……って、あれ? 吉田くん、家向こうだよね?」
分かれ道に差し掛かってもわたしと同じ方へ進もうとする彼に、首を傾げる。
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