曖昧ボールド
「お、山本! 佐藤が来たぞ!」
「
中に入ると、みんなに迎えられた。
どこか心配そうな表情に、申し訳なくなる。
その中で、木村くんが明るく手招きしてくれた。
「お菓子食えよ。ジュースもあるぞ」
「佐藤さん、大丈夫?」
「心配かけてごめんね、片山さん。木村くんも、ありがとう」
「苺樺、オレンジジュースでいい?」
「うん。ありがとう、かおりちゃん」
みんなに応えていると、隣に吉田くんがふらりと立った。
じっと顔を見つめられる。
ふいに近くなった距離に、どぎまぎした。
「また転んだの? 膝、大丈夫?」
「ああ、うん。大丈夫」
「そう。無理するなよ」
「うん。ありがとう」
良かった。いつも通り、話をすることができている。
何とか不審がられずに過ごせそうだ。
「あっちのお菓子、遠いでしょ。どれが好き? 取ってくる」
「えっ、いいよ、吉田くん。自分で取れるから」
「いいから。怪我してるんだから、座ってて。リクエストないなら、適当に取ってくるけど、いい?」
「う、うん。ありがとう」
「どういたしまして」
くすりと微笑まれ、どきりと胸が高鳴ると同時に、ちくりと痛んだ。
どうしよう……わたし、やっぱり吉田くんのこと、好きだな……。
「佐藤、これも食え」
「佐藤さん、こういうのは好き?」
次から次へと、目の前にお菓子が運ばれてくる。
そうして、わたしに用意された紙皿は、あっというまに埋まってしまった。
「お菓子が、いっぱい……」
「皆、苺樺のこと待ってたんだよ」
ジュースの入ったコップを持ってきてくれたかおりちゃんに、お礼を言って受け取る。
かおりちゃんは、紙皿を見て苦笑した。
「もう…… 皆、乗せすぎ。お菓子てんこ盛りになってるじゃん。苺樺、これ食べきれる?」
「た、たぶん……」
「お腹、ちゃんと空けといてよ。後で、ケーキもあるからさ」
「え、ケーキ?」
事前の話し合いでは、誰かがケーキを用意するなんて話は、一度も出なかった。
それなのに、ケーキがあるなんて、どうして?
「気にしなくていいよ。クリスマスパーティーをするって言ったら、お母さんが焼いてくれたんだ。クリームやフルーツもあるから、後で盛り付けよう」
「かおりちゃんのお母さんの手作り? うわあ、楽しみ!」
「良かった。元気になったね」
「何だ。ケーキに喜んでるのか? 佐藤、子どもだな」
「何言ってんの。あんたは、お菓子で大はしゃぎしてるくせに」
「ケーキで喜んでいる佐藤さん、可愛い」
「佐藤、ケーキが好きなの?」
みんなに見つめられて、恥ずかしくなる。だけど、かおりちゃんのお母さんのお菓子は、いつも絶品だから、つい浮かれてしまうのだ。
「えっと、ケーキも好き。お菓子が、好きかな。甘いものが好きなの」
「量は、あまり食べられないけどね」
「ふーん、そうなんだ。そういえば、修学旅行でもクッキー買ってたよね。鹿の形したやつ」
「へえ、そんなのあったのか。鹿、美味かったか?」
木村くんの質問に、戸惑う。
おいしかったけど、肯定したら何だかおかしなことになりそうだったからだ。
「木村、あんたね……」
「
「あん?」
きょとんとしている木村くん。おかしくて、わたしは笑っていた。
そのまま、わいわいと時間が過ぎて、おいしいケーキを食べ終えた頃、プレゼント交換をしようということになった。
普通にやったのでは面白くないからと選んだのは、ビンゴゲーム。
プレゼントには、あらかじめランダムに数字が割り振られており、ビンゴで当たった人から順にプレゼントを手にするというやり方だ。
「このビンゴセット、片山さんの物なの?」
「うん。よく、弟たちと遊ぶから」
片山さんは、五人兄弟の一番上。しっかりした、優しいお姉さんだ。
「じゃあ、片山っちに借りたこのセットを使って、早速始めるよ」
「よし、来い!」
「何だか、どきどきする……」
「佐藤、ビンゴで緊張してるの?」
ふっと唇に笑みを含ませる吉田くん。わたしは、ごにょごにょと口ごもった。
だって、何だか意地悪なのに、目が優しいから混乱してしまう。
本当に、何を考えているのだろう?
このひとは、松井さんの彼氏なのに……。
「はい、五番」
「あー、あった!」
「次は、三十六」
「惜しい! 三十五と三十七ならあるのに!」
「はい、次は十一」
「あー、ないー!」
「木村、うるさい」
賑やかな二人に、微笑が漏れる。
思ったよりも、楽しくいられている。
そのことに、こっそりほっとした。
やがて、ビンゴカードが穴だらけになってきた頃、隣から声が上がった。
「あ、ビンゴ……」
「何ーっ!
「言ったよ。名津が騒いでいて、聞こえなかったんだろ?」
「じゃあ、吉田は一番のプレゼントを取って。開けるのは後でね」
「あれは……」
一番の札がつけられたプレゼント。それは、わたしが買ってきた物だった。
まさか、あれが吉田くんの手に渡るとは……。
「山本! 早く次!」
「うるさい、木村。最下位にしてやろうか。ったく……ええと、次は一番」
「あ……ビンゴ」
「何っ、佐藤もビンゴ? 何だよー、羨ましいなー」
「はい、苺樺」
かおりちゃんにお礼を言って受け取ったのは、二番の札がつけられたプレゼント。
開けるのは、みんなの手元にプレゼントが揃ってからということだったので、わたしはちょっと離れたところで、ゲームが終わるのを待った。
中身は何だろう? わくわくするな。ラッピングはピンク色だから、片山さんが選んだ物かな?
しばらく成り行きを見守る。そうして十分後、かおりちゃん、片山さんの順でプレゼントを手にしていた。木村くんは、ビンゴになるまで一人でカードを握り締めていた。
「やっとビンゴしたの?」
プレゼントを手に輪へ入ってきた木村くんを見て、かおりちゃんがからかうように言い放つ。
ちょっぴりすねた木村くんが、そっぽを向いていた。
「山本の呪いだ」
「普段の行いでしょ」
ばっさりと切り捨てられ、既に相手にもされていない木村くん。
不満顔だったが、プレゼントを開けようというかおりちゃんの提案に、笑顔で瞳を輝かせていた。
あの切り替えの早さが、木村くんの良いところだろう。
かおりちゃんもそんな木村くんを見て、微笑んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます