第32話 魔王様は壊したい



「わかりました。全て言う通りにします」


 アランに成りすました俺は、まっすぐ魔王を見つめて、そういった。すると魔王は


「そうか、なら、まずは二人を渡せ」


 と、玉座に座ったまま、手を差し出してきた。でも、かなり距離があるし『持ってこい』ってことなんだろう。


 だけど、渡したら壊される。


 俺は一度シャルロッテさん達に目を向けると、また魔王に話しかけた。


「わかりました。でも、最後に少しだけ、二人と話がしたいです」


 大切な人形たちとの最後の別れ。


 俺は、イチかバチか、これに賭けることにした。話すためには、この呪符をはがさなくてはならないから。


 すると、差し出していた手を下げた魔王は、次に玉座から立ち上がった。


 ピリッと場の空気が、引きしまる。


 魔王が腰をあげた。その姿を見て、その場の全員が息を飲んだのが分かった。


 カツカツと魔王が近づいてくる。


 長い黒髪が速度に合わせて揺れて、真っ黒なマントで全身を覆った魔王の威圧感は、とてつもなく重い。


 顔はアランと同じで、すごく整った顔をしているに、その目はとても冷たかった。


 はっきり言って──怖い。


 つーか、ほんとに親子か!?

 アランはいつもニコニコしてるのに!?


 心の中では、かなりビビっていたけど、あくまでも、落ちついた態度で、アランとしてふるまった。


 すると、そうこうしているうちに、ついに魔王が俺の目の前までやってきた。


「いいだろう」

「……え?」


 ちょっとびっくりした。

 それって、はがしてくれるってこと?


 少し疑っちゃったけど、魔王は俺の手から二人を取ると、言葉の通り、呪符をはがしてくれた。


 案外あっさり剥がしてくれて、びっくりした。でも、それからしばらくして、シャルロッテさん達が、目を覚ました。


 呪符をはられていたせいか、体は思うように動かないみたいだったけど、二人ともしっかり目を開けて、俺を見上げてきた。


「よかった……!」


 二人を受け取って、俺は、ほっとする。


 呪符をはがせた。これであとは、アランが花村さんを助け出せば──


「うッ──!!?」


 だけど、その瞬間、いきなり魔王に胸ぐらを掴まれた。片腕で頭上高く持ち上げられて、地面から足が離れる。


「……ッ、は、なに」


「貴様、アランではないな」


「え?」


「アランがしてるのは、の腕輪だ。ではない」


「……ッ」


 ──バレた。

 俺が、アランじゃないって!


 すると、魔王が俺に向けて手をかざした瞬間、アランがかけた《変身魔法》がゆらゆらと解けだした。


 銀色だった髪は、赤毛の髪に変わって、服装も背丈も元通りになって、あっという間に、威世いせ 颯斗はやとの姿に戻る。


「ほう……元に戻っても、このなのか、確かにアランとよく似ているな」


「ッ……ぅ、は」


 苦しい、首がしまって息ができない。


 魔王のやつ、アランに、ほとんど会いに来てなかったくせに、金色の腕輪をしてたことは知ってたんだ!


「アランはどこだ。一緒にきたのだろう」


「誰が、教える……か、」


「そうか。では、こっちの人形達から始末するとしよう」


 すると、魔王が足元を見つめた。


 さっき、掴みあげられた時に、落としたシャルロッテさんとカールさんを!


 まずい! 踏みつぶすきだ!!


「やめろッ!!!」


 とっさに魔王の脇腹を蹴り上げた。サッカーは得意だから、蹴りには自信がある。


 だけど、軸足が宙に浮いてるせいか思うように力がでなくて、俺は更に追い打ちをかけようと、魔王の手を思いっきりつねった。


「くッ……!」


 すると、魔王が軽くひるんだ。

 どうやら痛覚はあるらしい。


 おかげで、なんとか魔王の手から離れた俺は、すぐさま、シャルロッテさんたちに呼びかけた。


「二人とも、腕輪の中に入って!!」


 手の平に乗せて叫べば、二人がシュッと消えたと同時に、魔王が、俺に向かって剣を突き立ててきた。


 早い。それは、見えないくらいの速度で


 ガキン──ッ!!!



「は、はぁ……」


 間一髪、魔王の剣を交わした。


 服の袖がすこし切れたけど、あと少し反応が遅れていたら、服だけじゃすまなかったかもしれない。


 だけど、シャルロッテさんたちは今、俺の腕輪の中。ここなら、絶対に魔王でも壊せない!


「すばしっこい……それに、なかなか頭もいい」


 すると、床に座り込んだままの俺を、また魔王が睨みつけてきた。目は殺す気満々って感じ。だけど、そのあと


「君は、アランのらしいな」


「は?」


 急に、そんなことを言われて、こめかみを引くつかせた。


 お気に入りって……っ


「俺は、アランのだ!! お気に入りとか物みたいに言うな! それに、シャルロッテさん達だって、アランにとっては家族みたいに大事な人たちなんだ! それなのに、なんで壊そうとするんだよ! なんで、わざわざ子供が悲しむようなことするんだよ! あんた、アランの父親なんだろ!!」


「「ひぃぃぃぃぃ、魔王様になんてことをぉぉぉぉ!!!?」」


 俺の言葉に、魔族たちは、みんな震えあがっていた。


 でも、言った。言ってやった! やっぱりコイツ、アランのことを、全然心配してない!


「シャルロッテとカールは、アランのだ」


「!?」


 だけど、その次に言われた言葉に、俺は耳を疑った。


 し……失敗策??


「な! あんなに綺麗で可愛いシャルロッテさんたちが、失敗作なわけ……!」


「人形の"出来でき"の話ではない。あの人形たちは、寿


「え……?」

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