第31話 ホンモノとニセモノ
「お帰りなさいませ、アラン様!」
魔王城の最上階。
その広間では、アランが帰ってきたと聞いて、魔王直属の配下たちが集結していた。
ヘビ男やカエル女などの幹部たちは勿論、そのほかの魔族たちまで。数にすれば、五十は超えているかもしれない。
そして、その部屋の中央で、配下達に頭を下げられたアランは、玉座に座る魔王を見つめていた。
一ヶ月ぶりの再会。
いや、今、アランに化けている颯斗にとっては、初めて目にする魔王の姿だ。
(絶対、ばれないようにしないと)
アランに成りすましながら、俺は、じっと魔王をみつめた。
魔界に向かう途中、俺はアランと計画を立てた。その計画を成功させるためにも、絶対にバレるわけはいけない。
「お父様に、お願いがあります」
アランの声で、アランになりながら、俺は魔王に話しかけた。すると魔王は
「皆の前では、魔王様と呼べと言ったはずだ」
「……へ?」
えぇぇぇ!?
ちょっと待って、そんな決まりあったの!?
アラン、お前いつも「お父様」って言ってたじゃん!? 呼び方指定されてるんだったら、前もって言っとけよ!!
いきなり、とんでもない指摘をされて、内心震えあがった。
やばい、いきなりピンチだ。
だけど、魔王は、アランがニセモノとは気づかなかったらしい。
そのあと『願いはなんだ』と、さっきと変わらない声でいわれて、俺は、内心ほっとしつつ、魔王に、二言目を発する。
「人質にしている人間の女の子を、人間界に帰してください」
「あぁ、シャルロッテとカールを壊し、お前が魔界に戻ってくるならな」
息子の言葉に、ハッキリとそう返した魔王は、平然とそう言った。
そして、その言葉に、俺は手にしていた二体の人形を見つめた。
俺が呪符を貼ったせいで、動かなくなったシャルロッテさんとカールさん。
このままになんて、絶対にさせない!
そう決心した俺は、魔王を見つめ、また口をひらく。
「わかりました。全て、言う通りにします」
◇
◆
◇
「えぇ! じゃぁ今、魔王の所にいるのは、威世くんなの!?」
その後、助けられた私は、ペガサスに乗ったまま、空の上で今の状況を説明されていた。
威世くん、うんん、アラン君の話によれば、ここに来るまでに二人で計画を立てたらしい。
威世君がアラン君に化けて、魔王や他の魔族をひきつけている間に、アラン君が、私を探し出して救出するという計画。
「ハヤトが、自分が
威世君の姿で、アラン君がニッコリ笑う。
見た目は威世くんなのに、いつもと全く雰囲気が違って、ちょっと戸惑った。
「それより、よく思い出したね。僕が消しちゃったのに!」
「え?」
すると、急に威世君の顔が近づいて、私は顔を赤くした。
び、びっくりした。
近い。なんか、すごく近い。
あ、そっか、前髪あげちゃったから、顔がハッキリ見えちゃうんだ。
「でも、おかしいなー。なんで思い出したのかな?」
「あ、それは、私にもよく分からなくて……なんでだろう?」
「うーん……もしかして、よっぽど忘れたくない記憶だったとか?」
「え?」
「たまに、あるんだよね。魔法が気持ちに負けちゃうこと」
気持ち──そう言われて、なんとなく、そうかもしれないって思った。
ガイコツに追いかけられたのは、すごく怖かったけど、威世君と一緒にいたあの記憶は、忘れたくないと思ったから。
「ゴメンね」
「え?」
「勝手に記憶を消して。さっきハヤトにも怒られたんだ。本当にごめん」
「あ、うんん! 普通ガイコツに追いかけられたら、忘れたいって思うよ! アラン君は悪くないよ!」
「あはは、アヤメって優しいね」
「あ、あやめ……っ」
急に、呼び捨てにされて、ちょっとびっくりした。
そういえば、アラン君って魔界の王子様っていってたけど、王子様って、みんなこんな感じなのかな?
でも、威世君の顔で、いきなり呼び捨てで呼ぶのは、やめて欲しい……っ
「あれ? 顔赤いけど、大丈夫?」
「だ、大丈夫! それより、早く威世君を助けに行こう!」
「うーん、そうなんだけど、まだ、はがせてないみたいなんだよね?」
「はがす?」
「うん」
すると、アラン君は真面目な顔をして、魔導書を開いた。
威世君の姿で、魔導書に手をかざしたアラン君は、ページの上に現れた魔法陣をみつめて、目を細める。
「シャルロッテとカールの波動が一切流れてこない。ということは、まだ呪符ははがせていないってこと。乗り込むなら、呪符をはがしてからだよ」
「そうなんだ。それって、簡単にはがせるの?」
「簡単ではないかな。相手は
そういって、アラン君が、またにっこり笑った。
きっと私に心配かけないように笑ってくれたんだと思った。
「いたぞ! 人間たちだ!!」
だけど、そこにまた魔族たちが現れた。
それも、一人じゃない。30人くらい!!
「ありゃ、見つかっちゃったね?」
「ど、どうするの! あんなにたくさん!?」
「大丈夫だよ。あれくらい、僕一人で十分だよ」
そういった、アランくんは、あまり焦ってないみたいだった。むしろ、すごく余裕そう。
「アヤメは振り落とされないように、僕にしっかり捕まっててね?」
「え?」
瞬間、ペガサスが大きく翼を羽ばたかせて、空を駆け出した。
私は、とっさにアラン君につかまったけど、もう色んな意味で、心臓がもたないと思った。
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