第6章 魔王城での戦い

第30話 お姫様と王子様


「アヤメ、出口みつかりそう?」


 ぬいぐるみのララ君が、私に話しかけた。


 肩の上にのって、きょろきょろと辺りを見回すララ君は、注意深く、魔族がいないか見張ってくれてる。


 あれから、部屋を出て、しばらく歩き回ったけど、お城の中はとっても広くて、どこがどこだがわからなかった。


(どうしよう、早く人間界に戻らないといけないのに)


「おい、そこのチビ!」


「ひゃっ!?」


 すると、いきなり声をかけられて、心臓が飛び上がった。恐る恐る、振り返れば、そこには、ライオンの顔をした大男がいた。


「そこで、何をしている!」


「え、あ! し、城の中で、迷ってしまって!」


 とっさに裏声をつかって、頭を下げる。

 すると、ライオン男は


「なんだ、新入りか。どこに行きたいんだ?」


 あ、思ってたより優しい。

 いやいや、そうじゃなくて。


「に、人間界に行きたいのですが、どうすれば」


「人間界? 何を言っている? 人間界に行くには、あの【魔界の門】を通らないと出られない。この世界じゃ常識だろう」


「え?」


 すると、ライオン男が窓の外を指さした。


 見れば、街の奥に、両開きの扉が見えた。このお城と同じくらいの高さがある、大きくて重そうな扉。


(うそ……っ。あんな大きな扉、私じゃ、絶対開けられない)


「ジャファー様~」


 すると、また別の魔族がやってきて、ライオン男に話しかけた。ていうか、この魔族、前に私達を追いかけた、ガイコツ男だ!


「なんだ、グール」


「アラン様が、お帰りになりました! 今すぐ魔王様のもとにお戻りください!」


「おぉ、アラン様が!?」


 え?──ちょっとびっくりして、私はフードで顔を隠したまま聞き耳をたてた。


 アランって、あの銀髪の男の子のことだよね? 魔王の息子で、威世くんのお友達の


「それで、シャルロッテとカールは?」


「まだ、生きてるようです。とはいえ、呪符を貼られているので、身動き一つできませんが」


「そうか……アイツらとも、ついにお別れか。いいヤツらだったのに。残念だな」


「そうですね。しかし、あの愛妻家だった魔王様が、奥方であるローズ様の作った人形たちを壊そうとするなんて」


「仕方ないだろう。アラン様も、もう十歳だ。いつまでも人形遊びをしていたら、次期魔王としての威厳にもかかわる」


 シャルロッテとカールって、さっきララ君が話してくれた人形のことだよね?


 良かった。威世君、壊してないんだ。


 だけど、その話を聞いていると、ライオン男たちは、私の側から離れていって……


 良かった。もしかしたら、このまま、あっちに行ってくれるかも?


 ──ビービービービー!!


 だけど、その時、いきなり城全体にサイレンみたいな警戒音が流れだした。


『人質にしていた人間の少女が脱走! 見つけ次第、捕らえろ! 繰り返す──』


 女の人の声が、城中に響きわたって、私は青ざめる。


 うそ。逃げだしたのがバレちゃった!?


「は! もしや、その娘は!!」


 すると、ガイコツが私に気づいて、私は慌てて逃げだした。


 息を切らしながら、長い廊下を必死に走る。だけど、気がつけば、あっという間に取り囲まれて


(あ、どうしよう……ッ)


 四方八方から魔族たちが現れて、私は壁際に追い込まれた。


 どうしよう、もう逃げられない……!


 一応、側に窓はあったけど、ここから飛び降りたら、命なんてないし


「アヤメ、窓を開けて!」

「え!?」


 だけど、そんな時、ララ君がそういって、私は驚いた。


「な、なにいってるの!?」

「いいから、早く!」


 とにかく開けてと、必死なララ君。私は、困惑しつつも、側にあった窓を開けた。


 すると──


「え? 威世いせくん?」


 そこには、威世くんがいた。

 ペガサスに乗って、こっちを見上げてる。


「アヤメ、ララと一緒に飛び降りよう!」


 私の肩にララ君がしがみつく。すると、威世くんと目が合った瞬間、なんだか泣きそうになった。


 威世くん、助けに来てくれたんだ。


 私は、その後、思い切って覚悟を決めると、ララ君とを一緒に窓から飛び降りた。


 落ちる時は、凄く怖かったけど、そんな私を、威世くんはしっかり抱き止めてくた。


 男の子に抱きしめられるのは、なんだか、すごく恥ずかしかったけど、威世に会えて、すごく安心して


「ぅ、う……威世、くん……っ」


 その後は、一気に涙があふれてきて、私は、ありがとうの言葉を伝えようと、威世くんを見上げた。


 だけど


「部屋から逃げ出しちゃうなんて、案外おてんばな、お姫様だったんだね?」


「?」


 ニッコリ笑って、威世君がそういって、私は首をかしげた。


 あれ? 見た目は威世くんなのに


「………あなた、誰?」


 は、ぜんぜん違う人だと思った。


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