第28話 勇気をだして


(あれ……私……?)


 ふと、目を覚ますと、私──花村はなむら 彩芽あやめは暗い部屋の中にいた。


 さっきまで、威世いせ君と話していけど、あれから、どうなったんだっけ?


 そう思って、ゆっくり体を起こす。


 冷たい床には、絨毯が敷いてあった。他にも、テーブルとか、イスとか、ベッドとか、生活に必要なものは全てそろってる。


 だけど、窓には出られないように鉄格子てうごうしがついていて、閉じ込められているのは、すぐに分かった。


「ここ……どこ?」


 何が起こってるのか分からなくて、すごく不安になった。


 目には、じわじわと涙が浮かんでくる。


 だけど、そんな私の服を、くいっと何かが引っ張った。


(え? なに?)


 と、思って下を見れば、そこには、がいた。


「きゃぁぁぁぁ!!」


 だけど、びっくりして、思わず叫んじゃった。


 だって、ぬいぐるみが立ってる!?

 しかも私の服を、引っ張った!?


「あれ? あなた……もしかして、威世くんの?」


 だけど、そのウサギさんが、誰のぬいぐるみなのか分かって、溢れそうな涙が、少しだけひっこんだ。


 この子、威世君のぬいぐるみだ。


 前に落とした時は、妹のだっていってたけど、あれは嘘で、本当は可愛いものが好きで、裁縫が趣味で……


 あれ? でも、この話、どこかで……



「アヤメ、泣かないで」


 すると、そのウサギさんは、心配そうに私をみあげてきた。


 慰めてくれるんだ、優しい。


 その、可愛いぬいぐるみを見て、不安だった気持ちがちょっとだけやわらいだ。


 だけど、ここは、どこなんだろう。


 そう思うと、やっぱり怖くて、また泣きそうになって、だけど、そんな私を励まそうとしたのか、そのウサギさんは、ポンと音を立てると、今度は人間の姿になった。


 ピンク色の髪をした、幼稚園児くらいの女の子に──


「アヤメ、大丈夫だよ! ララが守ってあげるからからね!」


「……ララ?」


 あれ? なんだっけ?

 この子、見たことあるような気がする。


 たしか、女の子みたいだけど、本当は、男の子で……


「あ、ララちゃん?……うんん、ララ君だ! この前、ガイコツをやっつけてくれた」


「え!? もしかして、思い出したの!?」


 ぱっと顔を明るくしたララ君。


 するとその瞬間、前に威世くんと一緒に、ガイコツに追いかけられたことを思いだした。


「……あ、うん、そうだ……思い出した。私、ガイコツに……あれ、でも、なんで忘れてたんだろう?」


「それは、アランが記憶を消しちゃったからだよ」


「アラン? あ、そうだ。あの時の銀髪の……男の子」


 忘れていた記憶が、次々と蘇ってくる。すると、ララ君は、嬉しそうに私に抱きついてきた。


「すごい! すごい! ねぇ、どうやって思い出したの?」


「え!? それは、わからないけど……そんなことより、いったい何が起こってるの!? さっきの人たちは、何!? 私のこと人質にして、威世くんに何をさせる気なの!?」


 色々思い出して、今の状況が、なんとなく見えてきた。


 でも、私がつめよれば、ララ君は、少し泣きそうな顔で答えた。


「それは多分……ハヤトにシャルロッテとカールを壊させようとしてるんだと思う」


「え?」


「シャルロッテとカールはね、アランの大事な人形なの! ララみたいに人間になるんだけど、体の中のハーツを壊されたら消滅しちゃうの。今、魔王は、アランを魔界に連れ戻そうとしてて、だから、アランと仲良しのハヤトに二人を壊させて、アランを連れ戻そうとしてるのかも」


「なに、それ……っ」


 ひどい。仲が良いのを利用して、友達の大切なものを壊させようとしてるなんて。


 それも、人質なんて汚い手を使って……!


「戻らなきゃ!」


「え? 戻るって人間界に!? でも、ここ魔界だよ!」


「そうだけど……でも、私のせいで、威世くんが辛いめにあってるのに、じっとなんてしてられないよ!」


 威世くんは、友達を大事にする人。


 そんな威世くんに、そんな酷いこと絶対にさせたくない!


「分かった! じゃぁ、ララも一緒に逃げる方法探す! よーし、そうときまったら、ララ、この部屋の鍵開けてくるね!」


「え?」


 すると、ララ君は、部屋の入口までトコトコと走って、扉の上にある10cmくらいの小窓までピョンとびあがると、また小さな人形になって、あっさり外に出ていった。


(そっか、人形になれば、小さな隙間にも入れるんだ)


 あっという間の出来事にびっくりしたけど、私は、そのあと、ポケットから威世くんから貰ったヘアピンを取り出した。


 リボンとお花のついた、私の好きな青色のヘアピン。


「かわいい……」


 私は、それをキュッと握りしめると、長かった前髪を左耳の上で束ねて、パチンとヘアピンでとめた。


 額には、があるけど、しっかり前髪を上げて深呼吸をすると、私は、まっすぐ顔をあげた。


(勇気を、出さなきゃ……っ)


 威世くんだって、私のために勇気を出してくれた。


 なら、今度は私が、威世くんのために頑張る番!


「大丈夫、勇気をだして……!」


 私は、祈るように手を組むと、人間だとバレないように部屋の中で見つけたフード付きの真っ黒なローブをきて、ララくんと一緒に部屋から逃げ出した。


 早く、ここから逃げて、人間界に戻らなきゃ……!


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