第27話 嫌な予感
「花村さん、走って!」
俺たちは、とっさに逃げようと方向を変えた。だけど、走る間もなく移動した魔族たちは、一瞬にして俺たちの前と後ろに回り込んだ。
「だめよ、逃げちゃー。君には、シャルロッテとカールを壊すのを、手伝ってもらうんだから!」
「は?」
今なんて言った? シャルロッテさんとカールさんを壊すのを、手伝う?
だけど、その後、カエル女がパチンと指を鳴らすと、俺たちの足元に黒い影が現れた。
そしてそれは、ぐにゃりと柔らかくなると、あっという間に、俺の横にいた花村さんの足に巻き付いた。
「きゃッ!?」
「花村さん!!」
影は、花村さんを地面の中に引きずりこもうとして、俺は慌てて花村さんの腕を掴んだ。
「ッ──花村さんは、関係ないだろ!」
「関係あるわよ。その子には人質になってもらうんだから」
「人質!?」
「威世くッ」
「ッわ!?」
グラッと体勢が崩れる。
花村さんは、一気に影の中に引きずり込まれて、俺は慌てて地面に手を付いて、それを食い止めた。
何とか引き上げようと力を込める。
だけど、影の力が強すぎて
(っ……だめだ、引きずり込まれるッ)
片腕は、もう影の中に飲み込まれて、それでも、必死に花村さんを離さないよう、地面にへばりつく。
もしかしたら、また、
そう思って必死に耐えた。だけど
「カー! カー!」
「そうそう、アラン様のカラスなら、私達が捕まえたあとだから、助けは来ないわよ!」
「……ッ」
カエル女の声に、じわりと冷や汗が流れた。少しだけ顔をあげれば、レイヴァンが鳥籠の中に捕まっていて
(レイヴァン……ッ)
それを見て、助けが来ないことを確信した俺は、花村さんを助ける方法を必死になって考えた。
だけど、繋がった手は、今にも離れそうで
(くッ……だめだ……っ)
もう限界だった。
腕が痺れて、指先も痛い。
かろうじて繋がってるけど、このままじゃ、花村さんは一人で魔界に連れていかれる。
「ッ──ララ!!」
瞬間、俺は、ララに呼びかけた。
すると、腕輪の中から出てきたララは、俺の気持ちを察したのか、素早く花村さんの手に乗り移った。
だけど、その直後
「うわっ!?」
グイッ!!──と、後ろから、誰かに引っ張られた。
「少年、君がそこにいたら、影が閉じないではないか!」
俺を引っ張り上げたのは、ヘビ男だった。
一瞬あっけにとられて、ハッと我に返って、また影の方をみれば、そこにあった影は、もう、跡形もなく消えていた。
(花村さん、ララ──)
でも、二人の心配をする間もなく、今度はカエル女が俺の前に立った。
「さて、ハヤトくんだったわね。あの子を返してほしかったら、私達のお願い、聞いてくれるわよね?」
◇
◆
◇
──カチカチカチカチ。
午後五時を前にし、アランが暮らす屋敷の中では、カールが一人キッチンに立っていた。
今から、アラン様の夕食を作ろうと、冷蔵庫をあけたカール。だが、そんなカールの元に、シャルロッテがやってきた。
「カール!」
「ん? どうした、シャルロッテ」
「それが、レイヴァンが、まだ戻ってこないの。少し嫌な予感がするわ」
不安げな表情を浮かべるシャルロッテ。それを見て、カールは、ふと時刻を確認する。
確かに、帰って来るのが遅い。
カールは、慰めるように微笑むと
「わかった。お前のカンはよく当たるからな。少し外を見てくるよ」
そういって、シャルロッテの頭をポンと撫でたカールは、その後、玄関に移動する。
「気を付けてね。あなたに何かあったら、アラン様が悲しむわ」
「分かってる。お前は、アラン様の傍に」
「えぇ」
二人は、少しだけ話をしたあと、玄関の扉をあけた。
だが、その瞬間、玄関先にいた人物を見て、二人は目を見開いた。
「……ハヤトくん?」
顔を青くし、立ち尽くす
だが、その瞬間
──バチッ!
と、電気のような刺激が二人に走る。
見れば、颯斗は、シャルロッテとカールに黒い紙を貼りつけていて、そして、その黒い紙は、あっという間に二人を人形の姿に戻し、動かなくなったシャルロッテとカールが、パサッと颯斗の足元に落ちる。
すると、それを見て、颯斗は、ドサッとその場に座り込むと
「ッ……ごめん……ごめ、ん……っ」
そう言って、何度と謝る颯斗の瞳には、今にも溢れそうなほど、涙がたまっていた。
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